第8話 ハジメ初めまして
控えめな音がしてエレベータのドアが開いた。
「5階お願いします」
「7階お願いします」
「6階お願いします」
声に出した人をチラ見して、同じ会議室かなあ、などと考えた。
割とスペースがあってまだ乗れる感じがしたけれど、密着が嫌なのか体重検査のようで嫌がったのか、余裕のある状態でドアは閉まる。
会議室のあるフロアは、会議室しかないようだ。エレベータフロアは広くて、机を出して受付が置かれていた。
「手書きのアンケートをお持ちの方はこちらへ提出して下さい」
まさかそんなアナログ中学生はそうそういないだろうと思っていたが、ずるずると背中からヤツが降りて、ぽてぽてとそっちへ行くじゃないか。
ああ、妖怪じゃあアナログでも仕方ないよな。
涼しい目で納得すると、自分の会議室を見つけた。
中に入ると、会議室の名で想像する通りの、長机とパイプ椅子で占められた風景だった──一部を除いて。
正面に、かなり大きい透明スクリーンが下がっていて、その中央に丸っちいキャラクターが映ってた。
スクリーンセーバー?
キャラクターは微妙に動きがあって、首をかしげたり上を向いたりする。ゲームのキャラみたい。
……ウサギだ。
茶色いウサギ。何故か仰々しいヒゲがついているし、直立していて服も着ているっぽい。
ゆるキャラ導入とか、中学生に媚びるか政府。
おれは後ろから入ったらしい。
一番近い机を見たら、自分の名前が書かれたネームプレートを発見、そのまま座る。
学校の教室だといい席なんだけど。
と、いきなり目の前に人が立ち、
「やあキミはなんて名前? 俺はハジメっちゅうんやけど」
眼前5センチ!
近い!
近い近い近い!
思わず後ずさると、自称ハジメさんはカラカラと笑って手をぴらぴら振った。
「びっくりした? まあええやん、人生に驚きは付きもんやで。俺は伊野一、ハジメって呼んでな」
これはわざとだ。間違いない!
「あ、ああ、おれは久我滝夜っていいます」
おれが名乗ると、ハジメは机に置かれたネームプレートをぺろっと見て、言った。
「くがたきや……あー、漢字もえらいかっこええ名前やな~、滝夜って呼ばしてもろてええ? ガッコ部活ある? 何してる?」
今日び部活のない学校は珍しくない。
「剣道、だけど」
「へえ、なんや、むちゃむちゃかっこええな! ほな一個だけ教えて、滝夜のイチオシなものなんかある? 趣味でも本でも食いもんでもなんでもええで。なんやないんか、まあええわ。イチオシなもん、できたら教えて」
どういう意味かと思って聞いてみた。
「何で?」
「ああ、趣味! 俺人にインタビューすんの趣味やねん」
ニカっと笑って、横の通路を通り過ぎる男子に、もう話しかける。
「あ、おはようさん、俺伊野一……」
凄い奴だな。
あっけにとられてしまった。
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