第6話 一人で行けるかな?

 事前に調べたところによると、街の中心地である駅前の外れに市役所はあった。

ターミナル駅である蔵野駅周辺は高層ビルが乱立し、いくつもの百貨店、映画館や美術館などを含む多様なレジャー施設、学校などが所狭しと立ち並び、少し足を延ばせばでかい公園や、演劇場まで存在する、一大繁華街だ。

市役所はその繁華街を通り抜けた先にある。地下鉄の駅にしてひと駅分の、歩いたとしても15分程度の距離だ。


 つまり蔵野駅で路線を乗りかえて、「蔵野市役所」で降りれば上がってすぐだが、蔵野駅で降りると15分歩く。行きは時間が気になるのでひと駅の手間を惜しまないが、帰りはちょっと大きな本屋やなんか、寄ってみたいな、というところ。


 こういう誘惑の多い場所で中学生を集めるのは勇気あるな、っていうか、心配しないのかな、なんてこっちの方が心配しちゃう。まあ、こんな都心にだって中学校はあって、そこに通っている14歳には日常の光景なんだろうけど。


おれから見たら、普段口うるさい教師の、あれはダメ、これはいけないって教育的指導に比べると、ずいぶん大人扱いしてくれている感じを受ける。というか、自分の住んでる市役所に行って帰るくらい、ひとりでできて当たり前だよな。ある意味当然の要求な訳で、その行き帰りに悪さしようがしまいが、そんな事いちいち気にすることじゃない。それはもっともだ。


 濁流に押し流されるように蔵野駅で地下鉄を降りたおれは、キョロキョロと壁や吊り下げの案内を探しながら乗り換えする行先を探す。

 背後で髪の長い女子が駅員さんを呼び止めている。


「恐れ入る。ちとお尋ね致すが市役所への電車はいずれかな?」


 彼女への案内を見て、おれも行先を知る。あっちか……


「わわわわっ!?」


 いきなりする~っと撫でられるように両肩へ手が置かれた。

 振り返ると、誰もいなくてぶら~んとのしかかった重さを頼りに背中側の下方を見ると、子どもがぶら下がっていた。


「何? 誰? ちょっと離れて!」


 しかしその子は表情も変えずに、言った。


「くらのしやくしょまでつれていけ」

「はあ!?」


 なんだか猫の顔が笑って見えるのとおんなじ感じの丸顔。


「さあ、れっつごー」


 ……背中から降りる気はないらしい。蔵野市役所? あれ、おれと一緒じゃん。


「まさか……まさかの中学生?」


 中学生!

 中学生!!

 身長、ちっさ過ぎねえ?


「うむ。くるしゅうない」


 意味わかんねえ!


「さあちこくするぞ。いざゆかん」

「自分で歩けよ!」

「つかれた」

「こどもか!」

「おこさまじゃ」

「威張るな!」


 結局このおんぶ猫お化けと一緒に行くことになってしまったようだった……

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