第52話 手紙

 俺は魔道具を製作する部屋にこもり、改めて新しい設計図を描き上げる。今回作るのは死神こと超高威力対物ライフル《リーパー》、この改良版だ。安易だが、《リーパー:γ》としておこう。


 リーパーは俺がまだあの魔道具店にいたときに作った最高傑作の遠距離用の攻撃魔道具だ。その威力は邪龍戦に向けて作った魔導兵器を除けばぶっちぎりで一番だ。何せあの黒龍の右前足を一発で吹き飛ばしたのだ。


 しかし、この魔道具の弱点はお世辞にも少ないとは言えない。


 まず圧倒的な重量。全体が魔鋼鉄によってできており、そのうえ圧倒的な破壊力を発揮する反動としての衝撃、とても狙撃には向かない。そのうえ、圧倒的なコスパの悪さ。一発撃った後は熱くなった銃身のクールタイムで約20秒は使えない。


 その欠点を補って余りあるほどの破壊力なのだが、実践で使うにはメリッカのような熟練の狙撃手の動きか、ギッツのような強靭な肉体が必須となる。俺も使ったことは何度かあるのだが、一発撃ってあとは魔法剣を振るって敵を攻撃するといったスタイルでしか運用できなかった。


 なので今回はその欠点である重量と衝撃を改善しつつ、カンテラの避難民に紛れていた魔道具師たちのアイデアである弾薬の特選を変化させられる機構を取り付けようと思う。


 重すぎる重量は削っていい部分の装甲に肉抜き加工を施し、銃身の先には弾薬の衝撃を分散できるように通気口のようなものを開けるような設計にする。


 設計図自体はものの一時間ほどで出来上がり、総枚数7枚の死神の設計図が完成した。その設計図に必要な素材は後日集めることにして、俺はもう一つ並行して作っていた魔道具を取り出す。


 《操空の指輪》だ。魔法を使えるようになって失念していたが、この魔道具であれば魔法よりも消費魔力を少なく抑えることができる。


 この前の戦いで魔力の枯渇を起こしてしまい、行動不能になって死にかけた反省である。


 俺の魔力は膨大なおかげか、その回復速度もかなり早い。魔力の枯渇を起こしても数秒後には操空の指輪で思いっきり飛び退くことができる程度には魔力が回復する。


 この魔道具を使っていればこの前だって俺も左腕を失っていなかったし、イリスにあんな重傷を負わせることもなかった。


 もう二度とあんなことが起きないようにするための魔道具だった。使い方はもう体に染み付いているため心配ないだろう。


 ただ、一つ心配なのは前世の俺の体よりも多い魔力をこの体は宿している。ちょっとした出力の水が起きないかどうかということである。


〝推測するに、この魔道具のであれば出力を間違えても操作する空気の量が多くなるだけなので問題はないと思われます〟


 なるほど、それはいいことを知った。製作者の俺よりも性質をよく分かっている《星賢者》さん、流石っす。


 なんてことを考えていると、部屋のドアがノックされた。


 返事をすると、ミヤさんが木でできた筒のようなものを持って入ってきた。


「フェルディナント様、スイレンの魔術大学からの手紙が届きました。」

「魔術大学から?」

「はい、先程魔術師ギルドの方から使者がいらしてこの書簡を置いていかれました。」

「わかりました。ありがとうございます。」


 俺はミヤさんから手紙を受け取って中を確かめた。その中にあったのは2枚の手紙と一つのバッチだった。


『フェルディナント・ヘルグリーン様江

 突然のお手紙大変失礼いたします。

 今回こうして手紙を書かせていただきましたのは、フェルディナント様を我々魔術大学の研究室に招待させていただきたいと考えたからであります。

 フェルディナント様は先日の掃討作戦で町を覆うほどの結界魔法を使用させたと聞き及んでおります。その魔術の知識と能力で、我々の研究に協力頂けないでしょうか。

 もし前向きにご検討いただけるのであれば、ぜひ一度スイレン王国王都にありますロゼンタール魔術大学へお越し下さい。


 ロゼンタール魔術大学 校長 フェイズ・セルメール』


 そしてもう一通の手紙にはこんなことが書かれていた。


『フェディへ

 お久しぶりです。フェディがヘルメスの町を守ったという話を校長から聞いて、校長に頼み込んで一緒に手紙を送っていただくことにしました。

 校長から聞きましたが、フェディに魔術大学の招待があったと思います。魔術大学は、貴族が多く、差別も普通の学校程度にはありますが、みんな実力者で非常にいい環境だと思います。

 私の研究室には人がほとんどいないですが、研究室のみんなは非常に優秀で学ぶことがたくさんで楽しいです。

 もしフェディが魔術大学に来るのであれば、ぜひ私の研究室にも来てみてください。みんなフェディが私の弟子だと言っても信じてくれないので、フェディからも言って下さい。

 長くなってしまいましたが、研究室のみんなと一緒に待ってます。

 ヒルディ研究室 室長 アメリア・ヒルディ


−追伸−

 うちの研究室の大精霊様からフェディに届けろと言われた徽章を同封してもらっています。大精霊様からは、本物なら触れば分かる、と言われましたが何のことかわかりませんでした。気をつけて触れてみてください。』


 なんとアメリアからの手紙だった。しかもスイレンの魔術大学で研修室長をやっているらしい。さすがは努力家だ。


 そして同封されていたバッチを見て、俺はとんでもない衝撃を覚えた。


 なんと、そのバッチにはサーシャの魔力が宿っていたのだ。黒曜石の円盤の中心に、サーシャの魔力によってできた翡翠色の魔石が埋め込まれている。


 おそらくサーシャが作った魔道具なのだが、何よりもこの魔道具に刻まれている魔法陣の内容がさっぱりわからないのだ。どれだけジーっと見てみても、その正体は一向に分からない。


 俺は意を決してその魔道具に触れてみた。


〝・・・アルト・ロゼンタールの魂の残滓を確認。魔道具へのアクセスを許可します〟


 頭の中に《星賢者》のような声が響いたと思うと、魔道具に刻まれていた魔法陣があらわになった。


『……ですか?』

「?」

『聞こえるですか?』

「うおぉ?!」


 頭の中に鈴を鳴らしたような幼く可愛らしい声が響いた。俺も前世で作ったことがあるのだが、ここまで明瞭に声が聞こえるほどのものは作ったことがない。


 それに、おそらくこの魔道具は特別な因子を持つ人間にしか使うことができないというものなのであろう。


 さすがはサーシャだ。弛まぬ努力と積み上げた経験と知識を用いて、これほどのものを作り出したのだ。石碑といい俺が死んだ後も頑張ったのだと思うと、嬉しくなった。


『聞こえてるみたいなの。赤毛のちびっこはちゃんと仕事したみたいなの。聞こえてるということはアルトなの。……?ちびっこじゃないの?レベッカ姉様より小さいのはみんなちびっこなの。』


 幼い声は、近くにいる誰かと話しているようだった。赤毛のちびっこということはアメリアだろうか。


 話の内容から察するに、この幼女は七星の誰かに連なる人物なのだろう。レベッカの名前が出てきたので間違いはないと思う。


『アルト、ここにきてほしいなの。いつになってもいいから死ぬ前にちゃんときてほしいなの。待ってるの。』


 そして頭の中に響いていた声は収まった。

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