第38話 師弟
アメリア先生をびっくりさせよう作戦が成功した後、軽くアメリア先生から魔法の歴史を習った。
「魔法というのは今から1572年前に起きた凶星大災害の日に生まれたものとされています。その日以降人類は魔法を扱うことができるようになったそうです。」
「その当時の魔法と現代の魔法の違いはあるんですか?」
「当時の魔法は本当に一握りの人間にしか扱うことはできませんでした。現代でいうところの権能のような扱いだったとされています。」
俺は当時のことを思い出してみたが、確かに身近で魔法を使えたのはライム、アイラ、マリアの3人だけだったと思う。
「そして当時の魔法はかなり実践的であったと言われます。その最たる理由は詠唱が非常に短く簡略化されているというところです。基本的にどんな魔法も一単語で詠唱が完了するという利点があります。現代では等級によって詠唱の長さが長くなっていってしまうので当時の魔法のほうが優れているという魔術師も多くいます。」
「その言い方だとアメリア先生はそう思っていないように聞こえますが?」
「はい。私は現代の魔法のほうが優れていると考えています。現代の魔法は詠唱は長いですが、その長い詠唱を暗記し、適切な魔力を放出することさえできればどんな人でも魔法を扱うことができます。実際、人口のほとんどが魔法を使えるようになった後の国の発展というものは目覚ましいものがありました。」
「たしかに、みんなが魔法をつかえるようになったことは非常に素晴らしいことだと思います。」
「話を続けますよ。現代の魔法は難易度と消費する魔力量から聖級、上級、中級、下級、初級に分類されます。フェルディナント君がさっき使った4つの魔法はすべて初級に分類されます。」
「はい。」
「初級から聖級に上がっていくにつれて詠唱がどんどん長くなっていきます。初級魔法はすべて一文で詠唱が完了…。」
「アメリア先生?」
突然彼女の説明が途切れて不自然に思った俺は彼女の顔を覗き込む。
「そういえばさっきフェルディナント君は詠唱してましたか?」
「いえ、してません。」
「…詠唱しなかったんですか?」
「はい、いつもしないので詠唱の文を覚えてなかったもので、、、」
アメリアは本当に驚いた表情をしていた。今日彼女が驚いた表情をするのは2回目なので慣れたが、彼女のジト目がぱっちりと見開かれるところは非常にかわいらしかった。
「無詠唱ができるようになったのは?」
「4歳くらいの時ふと何気もなく頭の中でイメージして魔力を出してみたら水球が発動したのがきっかけで、それからは一度発動した魔法は無詠唱ででできるようになりました。」
「なるほど…。ちなみに無詠唱で魔法を使うときに何か意識していることはありますか?」
「頭の中で、発動する魔法のいろんな要素をはっきりとイメージさせて魔力を出してます。」
「なるほど。」
アメリアはテラスから出て右手を掲げて力んだ。すると、水球が彼女の右手から勢いよく飛び出していった。
「ありがとうございますフェルディナント君!私も無詠唱ができました!」
彼女は本当にうれしそうにピョンピョン跳ね回って喜んでいた。まさか俺が家庭教師の準一級魔術師に教えられることがアルトは思わなかったので誇らしい気持ちになる。
「アメリア先生、フェディでいいですよ。」
「それではフェディ、これからよろしくお願いします。」
少し精神的な距離が離れていると思っていたのだが、まさかこんなことでその距離が縮むとは思っていなかった。
と思ったとたん、体の力が一気に抜け、俺はその場師倒れかけてしまった。幸いアメリアが倒れそうになった俺の体を抱きとめてくれたが、意識が少しの間飛んでしまうのだった。
〝既定の条件達成を確認。《星賢者》を個体名フェルディナント・ヘルグリーンに付与します〟
男の声とも女の声とも言えない不思議な声と共に俺の体に何か力のようなものが流れ込んでくる。力が流れ込んでくる感覚が終わった後、俺はすぐに目を覚ました。
目を覚ますと、俺はいつも俺が寝るときに使っている部屋のベットに寝かされていた。無駄に広いこの部屋を見渡すと、入り口の付近でオロオロとしながら荷物をまとめているアメリアと、それを必死に止めている母が見えた。
「アメリア先生、何してるんですか?」
「ごめんなさい、フェディ。私の気配りが足りなかったせいであなたを倒れさせてしまった。家庭教師失格です。」
「アメリアさん!あの子なら大丈夫だからこれからも面倒を見てあげて頂戴!」
「でも、私は…。」
「あの、実は!」
俺はこのままアメリアがいなくなってしまうのはさみしいと思って、彼女が出て行ってしまう前に俺が倒れた理由を話した。最初は二人とも何を言っているんだ?といった表情をしていたものの、話が進んでいくにつれて、母は嬉しそうな、アメリアは安心したような表情になった。
「フェディ、それは権能よ!あなたは権能を手に入れたの!」
「まだどんなものなのか分かってないんですけどね。」
「何はともあれ安心しました。もしフェディが起きなかったら私はもう一生誰にも魔法を教えることはなかったでしょうから。」
アメリアは本当に真面目なのか、本気で俺のことを心配してくれたようだ。それにしても、なんてタイミングに発現するんだこの権能は。下手したらアメリアがいなくなっちゃうところだったじゃないか!
その後は無事に何事もなく1日が終わり、正式にアメリアは俺の家庭教師になった。
その夜、俺は自分の寝室で横になりながら考え事をしていた。
《星賢者》ってどういった能力なんだろうな?
〝《星賢者》とは、手に入れた知識、能力などを統廃合し使用者に最適と思われる形に変更します。また、脳の処理速度を上げ、いわゆる頭の回転を数倍に引き上げます。〟
うおっ?!突然頭の中に声が響いてきた!?これが《星賢者》か。要するに思考のアシストをしてくれる権能か。非常に便利だ。しかも脳の処理速度を数倍に引き上げるということは記憶力も上がったということだろう。
これならすぐにいろいろな言語を覚えてうちの書庫の本をもっと読み漁れるだろう。もしかしたらその中には今まで読んだ本よりも有益な情報が書かれている本があるかもしれない。そう思うと心が躍った。ちなみに《星賢者》は常時発動しているそうなのでいちいち発動するイメージをしなくてもいいそうだ。
俺は明日早速書庫の本を読み漁ろうと決め、早めに就寝した。
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