第13話 魔法使い

「本当にライムは恵まれたな。」

「そうだね。もしあの環境じゃ無かったら今頃Bランクの冒険者から抜け出せなかったと思う。」


 ライムとギッツはライムの手に宿ったままになっている雷を見ながら感慨深く言った。


「今の時代の人間のほとんど強化魔法しか使えないから一層珍しくなったしね。」

「そうだな。そもそも魔法を使える人間がいない上、魔法の属性の中でも珍しい雷属性を持ってるのはそれこそ王国でも2人か3人くらいしかいないだろう?」


 つい200年ほど前まではほとんどの人間が魔法を使うことができた。しかし、魔道具の台頭によって人間の魔法を使う必要性がだんだんと無くなっていき、いつしかほとんどの人間が魔法を使うことができなくなってしまっていた。


 今の時代では、魔法を使うことのできる人間はほんのひと握りの人間しかおらず、そのほとんどが国家戦力として英才教育を受ける。その後は王立魔導騎士団に入団するのが通例となっているのだがライムだけは例外だった。


「王族の魔法使いがなんで冒険者になったんだって国王様から言われなかったか?」

「もちろん言われたさ。王族としてだらだら生きていくのは面白くない!って答えたら何故か納得してくれたけどね。」

「へぇー。意外と国王様も丸いんだな。俺ならてっきり、つべこべ言わずに国のために残れ!って言うのかと思った。」

「うちの父さんはなんというか、子供を伸び伸びと育てたいらしい。好きなことを好きなだけやらせて、大事なところで頭が止まってしまわないようにだってさ。」

「なかなか庶民的な教育方針だな。」

「まあ、そのせいで大臣とかにはお小言をくらってたけどね。」


 ライムはそう言って笑う。この国の身分の高い人は二種類に分類できる。血統主義と実力主義の人間である。血統主義の家は基本的に厳格な教育をし、子供に対して厳しく教育する。そのため、偏った教育になりがちで、高圧的な人間が出来上がってしまうことが多くのケーズである。


 一方、実力主義の家は、子供に考えさせて行動させる、基本的に自由を与える教育方針をとることが多い。そのため、異例の事態が起きた際も臨機応変に対応することのできる人間になるケースが多いのだが、そのかわり高い身分であると言うことを忘れがちで、メリハリをつけた態度を取れなくなる人間も稀にいる。


 バースデー家は実力主義の家であり、実力さえあれば下民であったとしても登用する。現在の王家も同じで、実力さえあれば側近に取り入れる。


 そのため、現在の王家の政治は国民から多大な支持を得ており、血統主義の強い貴族を除いて、ほとんどの国民が国王に忠誠を誓っている。


「まあ、俺がいなくても王城には優秀な魔法使いたちがたくさんいるから安心して俺を送り出せたんじゃない?」

「なるほどな。で、どうだ?ここには誰が残っているか?」

「奥の隠し扉の中に3人いる。多分もらった資料に書かれていた奴隷商とその護衛だと思う。」


 ライムはそう推測しながら雷を宿したままの右手を一見何もないように見える壁に向ける。


「ボルトショット」


 放たれた雷の矢は壁を貫き、その奥に続く通路を露わにした。


「お、お前!なんでここが分かった!」

「それは企業秘密だからはなせないな!」


 ライムは奴隷商をにらめつけながら敵の状況を確認する。奴隷商の前で盾になるように立つ護衛が1人、その後ろでボウガンを構えている護衛が1人。


 それ以外はいないように見える。それを確認したライムは、雷を脚へと集中させ、地面を蹴る。


 一瞬で護衛の1人に肉薄すると、その護衛に電流を流し込む。


「パラライズ」


 電流を流された護衛は痙攣しながら前のめりに倒れる。その護衛が地面に倒れ込むよりも早くボウガンを構えている護衛にも同じように電流を流すライム。一瞬にして無力化された護衛をみて、奴隷商は体を震わせた。


「ま、ままま待ってくれ!何が欲しい!お前が欲しいものはなんでも用意してやろう!だから待つんだ!」

「そうだな、俺はお前に大人しくお縄について欲しいと思っているんだが…」

「は!そんなことしてやるわけが・・・」

「プチ・パラライズ」


 ライムは奴隷商に軽く電流を流し、動けないようにした。3人は縄できつく縛り、ギッツに引きずられて外へと引っ張り出された。


 そのまま衛兵の詰所まで連行して行って、今回の依頼は完了となった。依頼は完了したのだが、ライムたちには一つ悩みの種ができてしまった。


 奴隷として捕まっていた子供たちのほとんどは孤児院に引き取られたのだが、なぜかうちでは引き取れないと言われた子供が何人かいたのだ。


 ライムが理由を聞いても誤魔化されるだけで、はっきりと答えてもらえなかったため、仕方なく連れて帰ることにしたのだ。


 しかし、ライムたち自体自分の拠点を持っているわけでもないのでどうしたものかと悩んでいたのであった。


 子供たちを連れて、アルトが休んでいる宿屋へと向かう。カウンターの店員に断って、その子供達と一緒にアルトが休んでいるはずの部屋に入る。


「あれ?ライムさん、その子供達はどうしたんですか?」


 案の定アルトは疑問を覚えたようだった。


「すまない、依頼を片付けてきたんだが、その時にちょっと問題が起きてしまって、仕方なく連れてきたんだ。孤児院の職員もなぜか預かれない理由を教えてくれなかったからどうしたものかと…」

「成る程ですね。ちょっと待っててください。」


 アルトはそう言って虫眼鏡のような魔道具を取り出した。


「君たち、ちょっとごめんねー?」


 そう言ってアルトはその魔道具越しに子供たちをみる。しばらくそうやって子供達を見続けたあと、納得したような表情をした。


「この子達は人間じゃないですね。そこの女の子はエルフ、そっちの男の子はコボルド、そしてそこの背の高い女の子はドワーフです。」

「でも、俺にはただ魔力の高い子供達にしか見えないぞ?」

「この子達はクォーターだからだと思います。だから、見た目は人間らしく見えるんだと思います。」

「なるほどな。だったら早めに拠点を手に入れないと。いつまでも宿屋を使ってたらこの子達も危ないかもしれないし。」


 ライムは一旦子供達をアルトたちに預けて、アイラと一緒に不動産を扱っている店へと急いで向かったのだった。

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