第6話 告白
アクマリンの街に帰還したドラゴンナイツ一行は、負傷者を医療院に送り届けた後、冒険者ギルドにやってきていた。ギルド職員はもう知っていたのか、5人がギルドに入ると、口々に感謝の言葉を言っていた。
「ゴーレムを討伐してくれてありがとう!」
「冒険者の卵を救い出してくれてありがとう!」
「君たちは冒険者の鏡だ!」
ライムたち4人は何食わぬ顔で歩いていたが、アルトはこういった誰かに感謝されるようなことはほとんど経験したことがなかったのでカチカチに固まってしまった。
「あら、今回の1番の立役者がそんなに固まってたらみっともないぞ?もっと肩の力を抜くんだ。」
ライムがアルトにしか聞こえない声量で呟いた。アルトも精一杯普段通りに振る舞おうとするが、やはり緊張してか、ぎこちない歩き方になっていた。
そんな姿をみた4人は軽く笑ってしまうのだった。
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「さて、ドラゴンナイツの方々とアルト君、本当にありがとうございました。お陰で冒険者を1人も死なせることなく救出することができました。」
「いえいえ、困っている仲間がいるのであれば、助けるのは当然のことなので。」
ライムはギルドマスターの謝辞に爽やかに応える。
「今回の報酬なんですが、ドラゴンナイツの共同口座に振り込んでおきました。アルト君の分は口座が見当たらなかったので希望の支払い方法があればすぐに準備しますよ?」
「口座?」
「冒険者のライセンスカードを作ると、自動的に報酬とかを振り込まれる銀行口座が作られるんだ。そういえばアルト君はまだ冒険者のカードを作ってなかったね。」
ライムがさりげなく説明してくれる。ギルドマスターはライムが冒険者ではなかったことを知らなかったようで、少し驚いていた。
「そうだったんですか!では、今すぐお作りになりますか?」
「お願いします」
ギルドマスターは仕事机の中から一枚の用紙を取り出した。
「この用紙に必要事項を記入してください。それと、一番下の名前を書くところの横にある欄の中に血判をお願いします。」
アルトはスラスラと用紙の記入欄を埋め、最後に自分の指をナイフで切りつけて血判を押す。
「ありがとうございます。では、すぐにカードを作ってきますね。」
マスターは一度執務室をでて、カウンターへと向かってしまった。
それを見計らって、ライムはアルトに話しかける。
「さて、今のうちに聞いておきたいんだけど、君は今後どこかのクランに所属する予定はあるかい?」
「クランってなんですかね?」
「そうか、君はまだ知らないんだね。じゃあ軽く説明しよう。」
ライムが説明した内容を要約すると、このようなものだった。
クラン:最大64人の冒険者が所属することのできる大きな組織。冒険者は5人以上の連名でクランを設立することができ、毎年クランごとのランキングが発表される。ランキングは達成した依頼の難易度、回数、その他評判によって変動し、順位に応じて報酬が出る。
「今までも何度かクランを立ち上げようという話にはなったんだけど、俺たちと同じレベルの冒険者がなかなか見つからなくてずっと見送り続けてきたんだ。そんな時に運良く君に出会えた。君さえ良ければ、ぜひ俺たちのクランに入って欲しい。」
ライムはそう言ってアルトに握手を求めた。他の3人もアルトのことをじっと見つめる。どうやら、ライムだけで無く、ギッツ、メリッカ、アイラも同じような気持ちらしい。
アルトはありがたいとも思いつつ、クランの話を断ろうと思った。
「本当にその話はありがたいです。ですが、俺は下民で、俺と一緒に活動していたら、何かと迷惑をかけるかもしれません。なので、このお話はお断りさせてもら…」
「そんなことは知っているさ。でも俺たちは冒険者だ。身分なんか関係ない、実力さえあれば誰だって英雄にすら慣れてしまう世界なんだ。そんなことで悩む必要は無いよ。」
「でも、他の人から見ればやっぱり下民なのは変わらないですよね?」
「何も一生下民のままなんてことは無いんだぞ?君がこれから活躍して、国王にその実力を認められれば一気に貴族にすらなれる。そうすれば君の夢だった自分の店を持つことも簡単になる!」
アルトが下民であることを引け目に持っていることをすでにライムは感じ取っており、それでもアルトを必要だと説得し続ける。
その後もアルトは断り続けたが、数十分説得され続けて、ついに折れた。マスターは気を利かせたのか、話が終わるまで外で待っていてくれたようで、アルトが書いた用紙は少しヨレヨレになっていた。
「お待たせしました!これがアルト君のカードです。なくしても再発行できますが、お金がかかってしまうので気をつけてくださいね!」
マスターはそう言ってアルトに銅の薄い板でできたカードを渡す。表にはアルトの基本的な情報、裏には銀行口座の残高が書かれていた。その額はなんと、300万ルード。軽く一年間は贅沢さえしなければ生きていける額だった。
「ちょっと額を間違えて無いですか?!」
「いやいや、ゴーレムは準一級討伐対象ですよ?むしろもう少し出したいまでありますからね?」
マスターとアルトは違う種類の困り顔をしていて、あまりに面白かったのか、4人は声をあげて笑ってしまうのだった。
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