習作200119A 〈狩人〉

 猪であれ熊であれ、そして人狼じんろうであれ、どんな獲物でも一撃で仕留められる魔法のつえにも、ひとつだけ欠点がある。


 連続して魔法を放つことができないのだ。


 魔法を放った魔法の杖は、熱くなる。ザーペンティンの魔法によって火の力が過剰になるためだ。さらに、魔法を放つと、杖に開けられた孔の中に暗い色の粉末、すなわち、風の力の残滓ざんしまる。

 これら火と風の力をそのままにしておくと、杖に込められた力のバランスが崩れてしまう。そうすると、次の魔法を放つときに力が上手く定まらず、魔法を放てなかったり、運が悪いときには杖の使い手自身を傷つけたりすることがある。


 魔法の杖を調整するには、時間がかかる。したがって、魔法の杖、ゲベアを構えた〈狩人〉は、最初の一撃を外すわけには、いかなかった。その一撃で人狼を仕留められなければ、彼は、逃げるしかなかった。そうしなければ、怒り狂った人狼にまれ、自分も人狼になってしまうからだ。


 そう、外すわけには、いかなかったのだ。

 だが、彼は、外した。

 彼が魔法を放とうとしたその瞬間に、運悪く一羽のすずめが飛び立ったのだ。

 鋭敏な聴覚を持つ人狼は、その音を聞いて飛び上がった。

 それで、魔法の狙いがれてしまった。


 そこからは、無我夢中だった。

 〈狩人〉は、ゲベアのほかに人狼を倒す武器を持たない。

 獲物をさばくための短刀は、切れ味鋭く研がれ、腰に差されていたが、人智を越えた動きで襲い掛かってくる人狼相手に役立つものではなかった。

 だから彼は、一目散に逃げだし、街道を目指した。

 彼には、助けが必要だった。友人たちのかたきを討つために、魔物を狩ることにけた魔物狩人の助けが必要だった。

 そのような魔物狩人の心当たりがある〈狩人〉ではなかったが、そのときは、逃げれば何かの導きがあるように感じられた。その感覚を信じて、彼は、休まず走り続けた。


 導きは、あったのだろう。彼が向かう先では、〈冒険者〉の一行が北東を目指していた。

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