第3章15話 早朝にて

 朝だ。まだ日が登って間もない早朝。心地よい眠気を振り払って、ベッドから体を起こす。

 そのままぐーっ、と伸びをして、部屋を見渡す。指差し確認、ピトスはいない。


 ベッド脇に脱いでいた靴を履き、ゆっくりと立ち上がる。


「ピトスに起こされるのはちょっと心臓に悪いからな……」


 その点、今日はまともに朝を迎えられる。

 寝間着から着替えようと、クローゼットへ向かう。

 思えば、朝、寝起きにゆっくりとした時間を過ごせるのは、ここ数日ぶりだろうか。この前に怠惰な時間を過ごした朝がやけに遠く感じる。


 ゆっくりと贅沢に時間を使い、クローゼットの前に到着。クローゼットの扉を引きあけると——


「きゃぁぁぁーーーーっ!?」


「思ったより可愛い悲鳴ですね?」


 クローゼットの中に潜んでいたピトスと目が合った。心臓、心臓がもたない。


「あっ」


 ピシャッと扉を閉める。


「着替えるのは後にしよう。そうだ、先に顔を洗おう。そうしよう。確か洗面所が部屋出て右手に……」


 くるりと踵を返して、部屋のドアへ視線を向ける。


「なんで閉めるんですか——っ!!」


「うわぉぁっ!!」


 クローゼットに封印したはずのピトスが背後から飛びかかってくる。


「ピトス、なんでここに!?」


「忘れたことにしてるし!?」


 朝から騒々しい乱闘を繰り広げるピトスと潤なのであった。




   .                 ❇︎                 .




 ピトスから聞いた話によれば、「私がお部屋に入ったとき、ちょうどジュンくんが起きそうだったので、とっさにクローゼットに隠れてしまいました、てへぺろ」とのことだ。もうツッコむのは疲れた。



鞭と体術の修行をするため、庭に移動する道中で、ピトスの講義が始まる。


「鞭での基本的な扱い方は、打つ、巻きつける、引き寄せる、あるいは投げ倒す、そして振り回す。これらの技能を組み合わせて戦います。今日はとにかく、鞭を振り回す練習をします」


「振り回す……?」


「はい。振り回す、といっても鞭はすぐに自分の体に巻きついたり、自分を打ってしまったりするので、結構難しい技術なんですよ。でも、マスターできれば自然と鞭の扱いに慣れてきますし、振り回すだけでも牽制になります」


「なるほどなるほどぉ?」


「鞭そのものの練習は以上ですが、余裕があったら攻撃を回避する技術についても少し練習しましょう。最低限、避けられる攻撃は確実に回避できるようにならないと生きていけませんから」


「なるほどー」


「……実践あるのみ、ですね」


「アルノミですねー」


「からかってます?」


「からかってます」


「よーし実践練習です今から殴りかかりますねー?」


「わ——っ!すいません師匠!謝ります師匠!もっと丁寧に教えてください師匠……わぁぁぁ!?」

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