第47話 楽しい世界を作るには

              ソアラ


気がつくと死神がなにかしゃべってた、こんなやつが中身だったとは、ワタシはチャーシューみたいにこれでもかってぐらいぐるぐるに拘束されて猿ぐつわをかまされていた。捕虜の扱いが悪すぎる!


ユミ「・・・ユキは自殺する理由が何もないのに自殺した、ガキの頃のワタシは意味がわからないと思っていたけれど、ようやくワタシにもその意味がわかりかけてきた。

ユキはやっぱり自分の人生もパーフェクトに締めくくったのかもしれない。

 女の子の一番美しいのは13~18才くらいだ。人生の絶頂だ。オトナの人生、そんなの斜陽、ただの落ち目。

 オトナの全否定だ、ただキラキラと輝いて、一点の汚れもなく死ぬ。くだらない金儲けや競争、そういうものに一切触れないで死を選ぶ。

 そういう意思表示だったのかもしれない。なんの理由もなく自殺したんじゃなくてまったくなんの理由も無いからこそ、死なねばならぬ、絶頂の時に死ぬ、ピークで舞台を降りるという美しさ、完全さってことなのかもしれない。

 オトナってのは本当に生きてる意味が無いのかもしれない、みんな金持ちになることが唯一の目的のように生きている、でも金儲けなんてクソだ、そんなのくだらなすぎる、ユキがそう判断したならそれが正解なのかもしれない。


 ワタシにはついて行けかった、そんなキレイで完全な人生なんて送れない、ワタシはユキに復讐することにした。自殺したユキが間違っていたってことを証明したい、セカイを面白くて楽しい場所にして、こんなに楽しいのに辞めちゃったなんて間違いだったねって言ってやりたい。

 でも現実世界はクソほど面白くなかった、なんでこんなにつまらないんだろう、ワタシはそれを真面目に考えた。

 理由はもちろんひとつじゃなくて無数にある。


・けど一番はルールが守られないってこと、ルールが無いってことほどつまんないことは無い。

 法の本質は、弱者を救済することにある。弱肉強食なら、法なんかいらない、ただ弱いやつが食われて死ぬだけだ。ルールや法が弱者を救済して対等になるからこそ、プレイヤーが増えて、生産性が上がる。つまり法ってのはバランス調整だ。

 法やルールは結果として全員に利益を生む、プレイヤーの人口もゲームの面白さの必須要素だから、対戦相手がいないってことほどつまんないことはない。

 だけど、ほとんどの人間は、法は強者が得をするだけのものだと思っている、現実の法はだいたいそうだ。

 人間の作る「法」は不完全だ。金持ちが法を作り、弱者は法を作る方法が無い。それじゃまったく意味がない。

 それに守らないといけないルール、はルールじゃない、どうあがいても守らざるい、ものじゃなきゃルールとして意味がない。ハメ技、裏技使うなってのはプレイヤーの落ち度じゃない、システムを作った管理者の責任だ。裏技を使うやつは必ず出てくる、そうなるとこっちも裏技使わざるを得ない。裏技合戦にみんな引きずり込まれてしまう。

 すべてのプレイヤーに対して、裏技が存在することが世界をつまらなくさせる、真面目に努力をした人間が一番損をする。

 作り物のゲームとこの現実の一番の違いは努力が報われるってことだ。作り物のゲームは程度の差こそあれ、努力すればちゃんと見返りがある。

 人間は努力をすることが嫌いなわけではない、ちゃんとやったことへの成果がかえってくること、それこそが、生きてく理由、続ける理由だ、努力が積み上がって残っていくから、続ける、のだ。それが盗まれたり、無駄になってしまったら、もう誰も続けたい思わない。真面目に努力することなんてバカバカしくてできない、やがて全員無気力になって虚無に飲まれて滅びる。

それが本当の悪だ、世界を滅ぼそうとするのは悪じゃない、悪、にそんな独創的で壮大なことはできない。悪は独創性を持たない、自分でなにかを生み出せない、誰かを妬んで、他者から略奪することだ、悪というのは寄生虫だ、人類を滅ぼしてしまったら悪もまた滅びるしかない。


 今文明が崩壊したのだって、競争の激化という名の裏技スパイラルとモラルハザードが原因だ。昔は戦う時にいちいち名前を名乗って一騎打ちしてた。戦争ってのはそうあるべきだ。誰かわからないやつを殺しまくるのなんていいわけない。気に食わない人間を名指しで一騎打ちの決闘システムが戦争の手段として一番被害が少ない。土地や環境が破壊されることもない。核兵器も生物兵器も無人機も、こんなのは全部裏技だ、存在していいわけない。結局は誰の得にもならない。

 だから神様やゲームマスターはセカイを面白くするために絶対必要なものだ。上位の権限を持った存在がルールを守らせることが、必須要件。プレイヤーに法を作らせるのは上手く機能しない。


・今回の文明が失敗した別の大きな理由は、怠惰と無関心だ、一体いつからか知らないけれど、悪が成されるのが当然で、簡単に人を見捨てるようになった、平和だとか悟りだとほざいて怒ることをしなくなった。

 鍵をしてなきゃ自転車を盗まれるのが当然で、詐欺で騙されるほうが悪いって言うのだ、そんなわけあるかよ、地の底まで自転車泥棒を追い詰めて両足削ぎ落としてやる、詐欺行為をしたやつをの喉笛を掻ききって二度としゃべれないようにしてやる、絶対許さない。それが当然でしょ?そうしなきゃモラルハザードが無限に拡大する、病原菌が拡大するように。

 どうせ自分が何をしても無駄だ、っていう諦めもそう。諦めてるんじゃない、それはラクをしようとしてるんだ。

 怒らないことを賢くなった、と自分に言い訳して、誰かを見捨てる口実にしてきた。処世術、平和、秩序、知恵、落ち着き、無欲、全部見捨てることの言い訳だ、ふざけるな、荒らし行為を無視していたらいつかそのツケを払わないといけなくなる。

 ダルマ神の言う通りだとワタシも思う、何もしない人間は無実じゃない、何もしない人間こそ始末しなければいけない、理不尽なこと、ルール違反があったら、みんなで怒りまくってボコボコにしなきゃいけん。ワタシはソアラの試合を見て怒るってのが大事だって気付かされた。

 何をこのヒトはこんなに怒り狂ってるんだ、頭おかしいんじゃないかとも思ったけれど、ソアラが正しいんだ、なんであんな現実を受け入れていたんだろうって思うよ、目につくものをすべて燃やしてやるってくらい怒り狂うのが普通だ。怒り、は死への恐怖、に対して人間が持てる最強の武器だ、生きるのに必須のものだ。


・現実とゲームの違いはもうひとつ、敵がいないってこと、こいつを倒せば、セカイが全て救われる、なんて都合のいい存在はいない、魔王はいないんだ。

でも始めからそうだった、敵はいたんじゃない、必要だから作られたんだ。宗教の成り立ちみたいなことを調べると、最初の神話には、敵、はいない。神は自然そのもの、水とか風とか雨、太陽であって、神は何もしない。けれどその後に、悪魔、敵が作られる、神は敵を倒すために戦うという役割を与えられる。

 善なる神、も敵によって生み出される。敵、が善を産み、唯一神を生む、敵、が仲間を作り、コミュニティを作り、国家や組織を作る。敵、が物語の語り部なんだ、生き続けるには、物語が必要なんだ、物語の続きが読みたいから続けたいと思う。先の読めた物語や、ありきたりなストーリーじゃない、ワクワクするような自分だけの物語が欲しい。

そのためにも誰かがゲームマスターであり魔王をやらないといけない。物語を作るのは魔王で、ゲームを成立させるのは魔王だ。人間は人間を導くために神を演じようとしてきた、王は神の化身だって。それでは人間は成長しない、人間を成長させるには、敵を作り、それを自分達の努力で突破させないといけない。トップダウンで上から教育することでは人間は何も学習しない。どんな叡智や名言だってそれを受け止める器がなきゃそのままこぼれて砂に飲まれるだけだ。自分で見つけられるように、自分の器を作るように導かなきゃいけないんだ。

 だからワタシが魔王の役をやる、大海嘯もすべてワタシが起こした、全ての悪はワタシだってことにして、全部ワタシに罪をなすりつけるがいい。誰か悪者がいるだけでスッキリ安心するでしょう。全部ワタシのせいにすれば、今回の文明の人間は、その最初期において、世界的に繋がりを持つ、この星が一つの共同体だっていう感覚を持つことが出来る。

 それが大事なんだ、その後戦争や内戦でバラバラになることはあっても、昔は一つの共同体だったっていう記憶は離合集散を繰り返しても、残り続けてやがて統一される。

 そして最後にワタシが殺されて全ての罪を背負う、これで誰も罪悪感を覚えることなく、生きていて楽しいって思えるセカイを作れる。罪悪感を持たずに殺せる存在、こいつは殺してもいい存在ってのが人間の精神の安定に必要不可欠なんだ。


 これがワタシの人類再スタートプラン。たぶんうまくいかない。これからも1000年周期で文明は繁栄と滅亡を繰り返すことになる、そしてその1000年を何万回も繰り返していくうちに、やがてこの1000年王国ループから別のルートを開拓するかもしれない。

 1000回繰り返したとしても、また1000万年だ、何百億っていう残された宇宙の時間の0.1%でもない。とにかく、ワタシらはまだ2度失敗しただけの3週目なんだ、もっともっと人間は苦しんでみるべきなんじゃないかとワタシは思うよ・・・。

 そういうわけでみんなワタシに協力してください、ソアラはカリスマ性のあるボス、ネルはショタっぽい参謀、ボンちゃんは悪い科学者役」

ミネルヴァ「クソ長い話だったわね、ほとんどニーナ・ルーエル、っていうかレムニスケートの受け売りでしょ、世界には管理者が必要だっていう。

 なんでワタシがあなたみたいなガキに協力しないといけないのかしら、ワタシになんの得があるの?」

ユミ「あなた自分の立場わかってます?敗戦国の捕虜。殺さないでいるだけありがたいと思えよ、ワタシの一度でも攻撃してきたやつは必ず殺すっていうポリシーを曲げて生かしてやってんだからな」

ミネルヴァ「うっ・・・」

ユミ「ワタシは絶対に許さないし、忘れないタイプの人間やで、無かったことになんか絶対しない、行動とコトバに責任を取らせる」

ネル「実存主義独裁ですね、まぁ魔王ってそういうものですけど、でも一つ宿題が残ってますよ」

ユミ「わかってる、ソアラ、起きた?」

ユミはワタシの猿ぐつわを外した

ソアラ「ふざけるな!誰が協力なんかするか!ワタシは今までさんざん人を殺しまくってきた、それを全部忘れて、無かったことにすることなんて出来ない」

ユミ「ちゃんと話聞いてた?無かったことにしろなんて言ってない、ソアラは何百万人殺したか知らないけど、ワタシ達三人はたった今数十億人を海に沈めたよ、今ここにいる人間ならソアラが一番善人だ。

 こんなくだらない計算はないよ、何人殺したから悪い人?何人救ったからいい人?何千万人も殺したのに英雄として崇められてる人もいれば、たった1人を殺しただけでクズとして死刑にされる人間もいるよ。

 罪を犯したから自分が死んで償う?それが一番の責任放棄だろ?それに罪ってなんだよ、神様なんかいないんだ、神様のせいになんかすんな、罪も罰もない、ワタシ達が神様をやるしかないんだ、ワタシ達が悪魔をやるしかないんだ、ワタシ達のためのルールだ、誰かに与えられたものじゃない。

 っていうか、負けたらなんでも言うこと聞けって言ったじゃない、約束守れよ、ゲームで負けて逆ギレなんてほんと最低ゲーマーだよ」

ソアラ「そんな約束なんかしてない!」

ユミ「沈黙は肯定とみなすって言ったじゃない、誰ともしゃべらないなんてそっちの勝手に作った自分ルール知ったこっちゃない、聞いてたよねふたりとも?」

ネル「確かにそう言ってました」

ミネルヴァ「それは間違いないわね」

ソアラ「ぐっ・・・」


ネル「ソアラ、ボクからもお願いします。ニーナ先生、レムと決着をつけないといけないと思うんです。ボクはモディフィアの成功例じゃなくて失敗でした、カイみたいな超人的能力は無くて、まぁまぁ頭が良くなっただけだった。だから捨てられて、こんな革命組織のオペレーターなんてつまんない仕事をやらされることになった。あのヒトはボクを生み出したけど、一度も愛そうとしなかった。なんでもわかってるようで、クソ自己中人間なんですあいつは、いつも正しいことしか言わないけど、人の気持ちってものを理解しない。

 ありがとう、とか、元気?って聞くとか、挨拶とか、そういうのをただの時間の無駄だと思ってるようなクソバカヤロウなんです。

 人の気持ちを理解するには、自分が傷つくしかないんです、同じ傷を持った人にしか他人の気持ちなんかわかりっこない、あいつに傷をつけてやりたいんです、それがボクを作ってくれた親孝行です」

ユミ「ほら、こんな子供もお願いしてるのに無下に断るなんて最低だよ」

ソアラ「・・・、これだけだからね、レムと決着をつける、これで約束は全部だからね!」

ユミ「おっけぃ、最終兵器はラスボスに使えればいいのだ」

ミネルヴァ「でもどうやって戦うの?Matrixは止まっちゃったし、ソアラのギアはぶっ壊されちゃったじゃない」

ユミ「ワタシのスペアが一個ある、あとカナビスのギアもある」

ネル「じゃあボクが速攻でカスタムし直します、エアレスはパーツ数が少ないから

まぁまぁ再現出来るはずです」

ミネルヴァ「Xウィルスは?コミュニティアに入った瞬間死ぬんでしょ?」

ネル「カイが死んでればXウィルスも死滅してるはずです、あれはカイの遺伝情報に紐付けされてるから、死んでなかったら領域限界から有線ギアで乗り込むしかないですね」


 

 

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