第1話 レム 殉教者島について

 13年前殉教者島は海に沈んだ。


 殉教者島は母なる海(マザーシー)のちょうど真ん中にある小さな島だ。

殉教者島、という名前の由来はよくわかっていない。聖人列伝に乗るような有名な人物がここに島流しにされたというような逸話は残っていない。

 

 島はほぼ岩石で土が少なく、張り付くようにわずかに森がある程度、島の中央あたりに湧き水があり、魚を釣ってサバイバルをすれば、生きることには不自由はしない、が、産業などが生まれることもない。

 

 海の不安定さに嫌気がさした船乗りが硬い地面が恋しくなって足を踏み入れるか、真水の補充をしにこの島を訪れた。

 

 大航海時代に、この島に正統騎士団が拠点を作った。マザーシーの中央に位置することから補給に便利だと考えたのだろう。

 この騎士団がこの島独特の家族制度を作った。作ったというより「家族」という制度を解体した。


 生まれた子供には誰が親か教えず、島の全員で平等に育てる。そうすることで、騎士団員の逃亡を抑える狙いがあったらしい。騎士団は第二帝国が世界制覇をするころにはいなくなったが、拠点に住む人々は残り、その特異な家族制度も残った。

 だからこの島の出身者には姓が存在せず名前だけである。


 産業が無い島なので15才になるころには別の国に出稼ぎに出るが、子供が生まれたらこの島に戻り、子供の養育を預けてまた出稼ぎに出る。


 環境破壊による気候変動、海底開発による地盤沈下、様々な理由で水位の上昇が起こり、この島の心臓とも言える湧き水ポイントに海水が混じるようになり、この島で生活することは不可能になった。

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