第51話 猛攻
ブォォン!
大男が放ったパンチが激しい唸りを上げて空を引き裂く!
「きゃあ!」
「何だぁ!?」
突き飛ばされた遥華と羅護はそのまま尻もちをついた。
とは言え、二人はまだ怪人のターゲットではないのでまだマシだろう。
怪人はにやりと笑う。
「タカユキ・クゼ ダナ?」
カタコトの日本語で隆幸に尋ねる怪人だが、隆幸は叫ぶ。
「人違いです!」
吐き捨てるように叫ぶ隆幸だが、怪人はげらげらと笑った。
「オレ、見間違エナイ。オレ、オマエ、殺ス!」
ドカぁ!
怪人が放った振り下ろしの一撃をかろうじて避ける隆幸。
「くそったれ!」
慌てて走って逃げる隆幸。
そして後ろに向かって叫んだ。
「あいつは俺を狙ってる! お前たちは逃げろ!」
そう叫ぶと隆幸は再び駆けていく!
ふと後ろを振り向くと怪人が居なかった。
(まさか……)
慌てて横っ飛びする隆幸!
ガゴン!
上から怪人が落っこちてきてアスファルトに大きな窪みを作る!
「何て化け物だ……」
隆幸は憎々し気に怪人を睨むのだが、怪人はゲタゲタと笑う。
「怯エロ……苦シメ……」
「……この野郎……」
どうやら、すぐに殺す気は無いようだ。
嬲る気満々の様子の怪人を睨みながら考える隆幸。
(どうする? どうやってこいつを倒す?)
そんなことを考えていると、横から声が上がった。
「ど、どうしたのタカ? 何であいつに狙われているの?」
何故かツギオがやや距離を取って尋ねてきた。
(あの馬鹿……)
ちょっと混乱しているツギオに隆幸は叫ぶ。
「こいつが狙ってたのは俺だよ! 未来じゃ俺は英雄なんだろ!」
「えっ!? そういうことだったの!?」
ようやく気付いたツギオは顔面を蒼白にする。
「ど、どうしよう……」
「とにかく逃げろ! 家に帰って親父を呼んでくれ! 警察だから何となるだろ!」
「家に帰って……あ、そうか! わかった!」
慌てて去って行くツギオ。
だが、怪人は笑う。
「警察ガ 来テモ 無理ダ。俺ヲ 倒セルモノハ コノ時代ニ 居ナイ」
「……………………(ギリ)」
思わず歯ぎしりをする隆幸。
実際その通りで、倒せる武器が無いのだ。
だが隆幸は冷静に相手を見た。
(あいつは舐めてるから、隙自体はある……)
勝ちが確定して相手を嬲るのは舐めている証拠だ。
(せめて時間を稼がんと……)
上手いこと時間を稼ぐ方法を考える隆幸は思わず尋ねた。
「何で俺を殺す? そんなに俺が憎いか?」
「アア。ニクイナ」
ギラリと怪人の殺気が高まった。
「オ前ガ居ナケレバ、ブランディールハ傾ナカッタ……オマエガ要求シナケレバ、滅ビルコトハ無カッタ!」
(未来の話なんて知らねーよ!)
怪人がそう叫ぶと同時だった。
ボゴォ!
「ごげぇ……」
怪人の拳が隆幸の腹に刺さる!
(何て早いパンチだ……)
冷静にそんなことを考える隆幸だが、苦悶の表情で地面に横たわるしかない。
「ぐぼげぇぇぇぇっぇ……」
そのまま道路にゲロを吐き出す隆幸。
その様子をゲラゲラ見て笑う怪人。
「コレハ我ガ祖国ノ分! 思イ知ッタカ!」
嬉しそうな怪人の様子を見て、隆幸は悶えながら言った。
「その……祖国が……お前を……そんな姿に……したんだろ……何で……」
普通なら、体に変な改造をされて喜ぶバカは居ない。
元に戻れない体になって良いことなぞないからだ。
だが、怪人は不思議そうに言った。
「何ガダ? 無駄ノ無イ綺麗ナ体ダロウ?」
「な……に……?」
怪人の言葉に目を見開く隆幸。
「弱イ体ハ必要ナイ! 必要ナイモノハ要ラナイ! 効率ハ絶対ダロウ? ソレガ一番正シイ生キ方ダ!」
「……………………」
あまりの言葉に絶句する隆幸。
(これが効率を追い求めた結果なのか……)
あまりのおぞましさに言葉も出ない隆幸。
確かに無駄がないのは良いことだろう。
だが、それは絶対ではない。
要らないものをどんどん捨てていくと、最終的に自分を捨てることになるのだ。
怪人は尚も叫ぶ!
「ナノニ何故ダ! 何故コンナ無駄ナコトバカリヤッテル連中ニ我国ハ負ケタノダ! ワカラナイ!」
「……そりゃわからんだろうな……」
隆幸はぼやきながら考えた。
(……《《無駄と切り捨てた物が全て必要な物と気付けなかったんだな》》……)
隆幸は悲しそうにぼやいた。
「お前……大切なものを取り返せなかったんだな……失ってもまだ気づけていないんだな……」
そんな悲しそうな隆幸の声に怪人は顔を歪ませた。
ボゴギン!
「うげぇ!」
怪人の蹴りで再び吹っ飛ばされる隆幸。
「馬鹿ニスルナ! 貴様如キガ! 土人如キガ馬鹿ニスルナ!」
激高して叫ぶ怪人だが、隆幸は半分意識が飛びかけていた。
(これ、ヤバいかも……)
隆幸は流石に諦めかけていた!
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