第43話 歩み寄る禍
その頃、久世父はとある問題に直面にしていた。
久世は大勢の警官が集まっている大部屋でお偉いさんが話しているのを聞いている。
「容疑者は現在、G県での目撃情報が増えており、その足取りからこちらへ向かっていると思われ……」
とある大事件の捜査に駆り出されているのだ。
その大事件とは……
「なお、容疑者は警察による発砲を受けても平気だったことから、防弾チョッキ、もしくは鉄板を仕込んでいるとみられ……」
渋谷で起きたロードローラー殺人事件である。
大男の目撃情報が段々とI県に近づいてきているのだ。
大本営の発表を聞いて顔を顰める久世父。
(これじゃ祭りに出られないなぁ……)
呑気な事を考える久世父だが、流石に自分の持ち場に現れるとは思っていない。
とは言え……
(俺が捕まえる羽目にはなりたくないなぁ……)
映像で見たヤバい強さに嫌そうに考えている久世父。
(ツギオの話だと、未来の武器を持っている訳ではなさそうだが、とんでもなく強いらしいからな……)
パワードスーツを着た大人と同等の腕力とスピードを持つ。
そして、人間用の弾では効かないという点だ。
(軍用の強力な弾丸なら効くんだろうが、市内では使えん)
現実に自衛隊にそんなことをさせれば非難を浴びるし、そんな権限は無いので使える可能性はゼロに等しい。
そして何よりも……
(その必要性を伝えることが出来ない!)
最大の問題はここにある。
いくら何でも「未来から来た改造人間です」なんて話を信じてくれるほど警察は馬鹿ではない。
警察は未だに「単に防弾チョッキを着た凄く強い人」ぐらいにしか考えていない。
(何とかそれを伝えることが出来ればなぁ……)
そんなことを悩んでいると、お偉いさんがある映像を出して説明しだした。
「それから、犯人が現れる前に起きた、建物の崩落事件についてだが、これに犯人が関わっている可能性がある」
(……うん?)
知らない情報が現れて、少しだけ興味を持つ久世父。
お偉いさんはそのまま説明を続ける。
「防犯カメラの映像によると、建物にめり込んだ球体が崩れると同時に彼が飛び出してきているのがわかる」
お偉いさんがそう言うと、爆発映像にわかりやすく丸印がついて、犯人が飛び出してきているのがわかった。
それをレーザーポインターで指し示しながら話すお偉いさん。
「この謎の球体なのだが、ビルの持ち主によると『こんな構造はしらない』とのこと。だが、球体は明らかに建物と繋がっており、最初からそれがあったとした考えられなかった」
そう言って様々な資料映像を見せるお偉いさんだが、変な映像があった。
まるでテレビの特殊加工のような映像に全員が色めきだつ。
「見ての通りで、PCの置いてある机と球体の壁が融合している。ちなみにこのPCは昨日まで現役で使用しており、警察の現場検証時に置いても「大切なデータがあるのでそれだけ返してもらいたい」と陳情があったが、状態を見て唖然としていた。信じられないことだが、融合したとしか思えない」
PC回りの筆記具やカップまで融合しているの見て居並ぶ警察官が全員どよめいた。
「本当に融合?」
「いや、無関係な人までそんな芝居せんやろ……」
「でもそんなSFみたいなことが……」
「いや、何か手品の種があるんじゃ……」
全員がざわめく一方だった。
そんな中、お偉いさんだけが冷静に言った。
「……このように昨日まで使われていたPCと机が何故か壁と合体していた。まるで時空融合したかのように現れたのだ」
(ひょっとして……ツギオが言ってた『転移先に建物があると融合しかねない』ってやつか)
タイムマシンはその構造上、どうやら転移先に何か物があると融合してしまうらしい。
それが理由で彼は久世家の上に現れたのだ。
「久世君? どうかしたのかね?」
「いえ、ナンデモアリマセン……」
隣の資料課課長の言葉にカタコトで返す久世父。
何とはなしに誤魔化す久世父だが、その後に見た映像を見て久世父は凍り付く。
「そして、これが球体の内部の映像だ」
球体の中にはあるポスターが貼ってあった。
「スタジオシャブリの映画ポスターが貼ってあった。これによると犯人は日本人である可能性が高い。どういった方法を使っているのかはわからんが、既にネットなどでオカルトの風評が流れている。情報流出による混乱は避けたいので箝口令を敷く」
そのポスターはツギオのタイムマシンに張ってあったポスターとよく似ていた。
(偶然か……どういうことだ?)
お偉いさんが最後に締めくくった。
「各自、警戒を強化して、必ず被疑者の情報を手に入れるように」
それを聞いて全員が慌ただしく部屋から出て行ったので久世父はそれに従うしか無かった。
(……関係なければ良いが……)
ツギオによると、『タイムマシンを売った相手が何かをやろうとしている』とのことだそうだ。
だが、ツギオのタイムマシンと同じポスターが貼ってあったのは偶然とは言い切れない。
一方でそれだけ未来でも有名な映画なら、偶然とも言い切れる。
(一応確認しておくか)
久世父は電話しておくことにした。
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