第14話 学校の授業


 さて、そんなことがあった夜だが、東京の出来事が田舎町に影響があるはずがなく、今日も今日とて一日が始まる。

 学校があるわけでも無いツギオには何も無いので家で留守番するついでに久世母が町を案内するそうだ。

 一方で父親も警察の仕事に行った。


 そんな訳で学校に行った隆幸だが、当然ながら気もそぞろになっており、授業をぼんやりと聞いていた。


「つまり、アレキサンダー大王は首都であるアレキサンドリアに各地のあらゆる文書を集めるように指示し、古代からの知識を統合することでより深い学問が出来るようにアレキサンドリア図書館を設立した」


 いかつい顔つきの先生がアレキサンダー大王についての説明をしている。


(あいつは一体何なんだ……)


 頭の中で悶々とする隆幸。

 色々と突っ込みどころのある未来人について考える隆幸。


(大体何で千年後にわざわざ祭りを復活させる必要があるんだよ!)


 意味のわからない話しに悶々とする隆幸。

 

「ここで様々な研究を行うことで文化的技術的優位を保てるようになり、各王国が統治する上で補助的な役割を示し、尚且つ都市の名声を大きく上げることに貢献した。これをある歴史学者は『文化帝国主義計画』と呼んでいる。ここはテストに出ないぞー」


(あーうざい! 出ないんならやるなよ!)


 イライラしてしまう隆幸。


(大体、歴史なんて何で覚える必要があるんだよ!)


 思春期特有のイライラも募って、とうとう歴史の授業にも八つ当たりし始める隆幸。


(大昔に起きたことが何の関係があるんだよ……)


 不条理に苛立ちを募らせる隆幸。

 だが、その一方でツギオのことが気になっていた。


(あいつ……普通にやりたいって言ってたな……)


 ツギオのまっすぐな思いに少しだけ羨ましく感じる隆幸。


(あんな風に言えるなんて恥ずかしくねぇのかよ……)


 そんな風に悶々とする隆幸。

 ぼりぼりと頭をかきながらどうするかを考える。


(やめやめ……とりあえずあいつのことは考えるのは止めて、祭りのこと考えよう)


 そう思った瞬間、彼は自分の手をじっと眺めた。


(まだ、体が覚えていたな……)


 中学生の頃の隆幸は一言で言えば『文武両道の天才』だった。

 特に勉強しなくても成績は良く。

 体を軽く鍛えればスポーツは万能。

 何をやっても上から十番以内に入るレベル。

 それは祭りでも一緒だった。


(俺だけ大人のグループで振ってたっけ……)


 振り手としてとびきり優秀だった隆幸は中高生として扱われずに大人として薙刀を振っていた。

 それぐらい花も実もある振り手だった。


(それが今じゃここか……)


 石川県におけるこの駒谷高校の評価はズバリ「上から下まで居る学校」である。

 上は「優秀だけど受験に失敗した生徒」で下は「ダメだけど受験で成功した生徒」が居る。

 石川県だと公立高校が受験の本番になるので、必然的に私立高校はこうなる。


 そして隆幸は「県で一番の高校に受験して失敗した生徒」に当たる。


 そのことを思い出してシャーペンでコツコツと机の傷をつつく。


(……遥華と一緒に小泉に行けたら良かったのに……それだったら、今頃普通に棒振りに参加してたのになぁ……)


 一緒に小泉高校に行こうと約束した幼馴染を思い出す隆幸。


(俺が失敗したせいで……)


 何となく苛立ってコンコンと机を叩く隆幸だが……


「久世。どうかしたか?」

「はえ?」


 突然声が聞こえて頭を上げる隆幸。

 見上げると先生が間近に来ていた。


「授業に集中していないようだが、先生の授業に何か不満があるのか?」


 にっこりと笑いながらいかつい顔でプレッシャーを与える先生。

 

(何とか誤魔化さねぇと!)


 慌てて隆幸は言った。


「先生。歴史ってやる意味があるんですか?」


 言ってしまって思わず口をふさぐ隆幸。


(やっちまった……)


 そんな隆幸ににっこりと笑う先生。


「そんなに勉強熱心だとは知らなんだ。じっくり教えてやるから放課後職員室に来い」


キーンコーンカーンコーン……


 いつもなら嬉しい終了チャイムが、憂鬱に感じた隆幸であった。


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