第7話 フルボッコ祭

 仕留めた鹿を引き摺って夜営地へと戻った。


「鹿だ!」


「肉だ!」


 枯れ枝集めから戻っていた少年たちが仕留めた鹿を見て喜んでいる。


 まあ、肉なんて滅多に食卓に上がらないからな、鹿なんてみたら狂喜乱舞するのは仕方がないか。


「解体できるか?」


「はい! できます!」


 と言うので任せる。


「あ、皮は好きにしていいぞ。オレはいらんからよ」


 孤児院なら内職で鞣したりもしてるだろう。少しでも生活の足しにしたらいいさ。


「ミドロックさん。血で魔物とか寄ってきませんか?」


「きたら倒せばいいさ。いい練習になるだろう?」


 ニヤリと笑ってみせる。


 今後、また一緒に大森林に入れるかわからない。なら、この機会を十二分に活かしてやろう。オレの代わりに働いてもらえるように、な。


 倒れた木に腰を下ろし、少年たちが鹿を解体するのを眺める。


 ……昔、王たちとやったな……。


 王がまだ第七王子で、五十人もいない隊を指揮していた頃、食うものがなくてよく狩りをして腹を満たしていたっけ。


 そこで王からいろんな話を聞いた。どこかの国の物語や戦法、魔法の発想、いろいろだ。


「……懐かしいな……」


 毎日酷い日々だったが、懐かしい日々でもあった。苦楽をともにし、徐々に実力を示していき、決戦時は魔導王軍からも恐れられる存在になっていた。


 あの戦いは、仲間や友がいたから勝利できた。


 だが、戦いが終わると、仲間や友と一緒にはいられない。それぞれの道に進まなくちゃならなくなった。


 オレは魔法を使うしか能がない。


 王には、そんなことはない、お前が必要だ、残ってくれと懇願されたが、オレは王を振り切ってガイハの町に逃げてきた。


 こっぱずかしいが、オレはあの戦いで魔法使いの頂点と言う立場になってしまった。


 そんな人物を王は放っておいてくれ、気にかけてくれていた。


「政治絡みだろうな~」


 第二王妃の二の姫が騎士になりたい。


 戦い前ならあり得ないことだが、王は才能があれば性別年齢生まれは気にしない。才能があれば将軍にだって登用してしまう。


 姫も騎士に憧れて騎士になりたいのではなく、逃げるために騎士になりたいんじゃなかろうか?


 でなければ魔法使いのオレのところにはこないだろう。後ろ盾を求めてオレのところにきたんじゃないかと思う。


 ……そうだったら厄介極まりないな……。


 孤児が騎士になりたいならどうとでも力になってやれるが、姫となれば厄介な柵やら力関係が絡んでくる。


 姫のために動いても他の者には邪魔でしかないこともある。王が戦果を上げる度にあーだこーだと言ってくる者が多くなったものだ。


「オレはゆっくり暮らしたいんだがな~」


 誰もいない山奥にでもいけばいいのだろうが、自給自足の生活なんて嫌だ。オレにはできない。暖かい家と綺麗な寝床、サウナに酒、美味しい料理。それらを捨てるなんてオレにはできないわ。


 今の生活を守ることが殺し合いより厳しいとか、人生はままならんな~。


「ミドロックさん、肉が焼けました」


 考えに耽っていたら肉がこんがり焼けていた。


「お、すまんな」


 枝に刺された肉を受け取り、がぶりと齧ると、いい具合に焼けていた。


「血抜きが上手いじゃないか」


 よくあの短時間で血が抜けたな? それに、塩まで振ってある。料理人でもいるのか?


「ありがとうございます! おれ、料理が得意なんです!」


 確かドリと言ったか? 見た目はなよっとしてるが、心意気はビシッとしてるようだ。


「そうか。この腕なら料理人になってもやっていけそうだな」


 昔、料理が好きで戦いが終わったら店を開きたいと言っていたブライアンが言っていた。肉を上手く焼けるヤツは料理人としての才能を持っていると。


 まあ、真偽のほどはわからんが、これだけ上手く焼けるんだからドリには料理の才能はあると思うな。


 魔法の鞄から錆びた包丁を取り出し、ドリに渡した。


「それをやるよ。研げば使えるようになるだろう」


 解体用に買ったものの一度使って錆びさせてしまったのだ。捨てよう捨てようと思って数十年も魔法の鞄に眠らせていたのだ。


「いいんですか?」


「錆びてるし、捨てようと思ってたしな。いらないなら鍛冶屋にでも持ってって小銭にしな」


 捨てる手間賃だと思えばいいさ。


「……ありがとうございます。綺麗に研いで大事に使います」


「そこまで大事にしなくてもいいよ。安物だしな」


 いくらしたか忘れたが、そんなに高くなかったはず。闇市みたいなところで売ってたもんだしな。


 布を取り出し、大事にくるんで懐に仕舞った。いや、錆びてても刃物なんだから別のところろに仕舞いなさい。


「ん? 焼ける匂いに釣られて蟻がきたな」


 まあ、焼けた肉と言うより人の臭いに釣られてきたのだろうがな。


「お前ら。ボッコ祭りだ」


 指先を地面に向け、魔法で風を起こしながらクルクル回転させて土を混ぜる。こうすると摩擦が高まり、切れ味も高まるのだ。


 魔法を操り、こちらを囲んだ蟻の片方の足を切断してやった。


「リオタ。任せた」


「は、はい! 皆、一匹ずつ仕留めるぞ!」


 本日二度目のフルボッコ祭が開始された。

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