姫様が騎士になりたいと家にやってきた。いやオレ、魔法使いね!
タカハシあん
第1話 ミドロック・ハイリー
オレはミドロック・ハイリー。しがない魔法使いだ。
可もなく不可もない中流家庭の次男として生まれ、両親のあたたかい愛情を受けて九歳まで育った。
九歳の夏、国に魔導王と名乗る竜人が攻めてきた。
いや、そこは竜王じゃね? と突っ込んだが、魔法で攻撃してきたのだから、まあ、不承不承ながら納得はしておいた。
幸せが一転して暗黒となり、両親兄弟を失ってしまった。
戦災孤児となったオレは、魔導王に復讐するため兵に志願した。だが、オレには魔法の才能があったため、魔法師団へと入れられてしまった。
それでも魔導王に復讐できるならと、がんばって攻撃魔法を覚え、たくさんの竜人を葬ってやったよ。
弱冠十六歳ながら第七王子(第四夫人の子だ)率いる隊に配属され、半年後くらいには参謀のような立ち位置になっていた。
第七王子は変わり者で、とても王族とは思えない軽いお方だった。
魔法も剣術もダメなお方だったが、知識だけは飛び抜けていて、いろんな作戦を考えて魔導王の軍を翻弄し、不利だった味方を徐々に有利にしていき、最終決戦では将軍として全軍を率いていた。
オレは王子の、いや、英雄将軍の一翼として最終決戦に挑み、他の仲間とともに魔導王を倒したのだ。
──これから平和な時代がくる!
と思ったが、魔導王により国は疲弊し、魔導王に追いやられていた魔物の群れが戻ってきた。
英雄将軍は王都を守り、オレらは各地へと散って魔物退治や治安維持に努めた。
三十歳になる頃にやっと国は安定し、戦いの日々に疲れたオレは引退することを決めた。
王になった友からは魔法将軍として王都にきて欲しいと懇願されたが、オレは貴族でもないし、王都に後ろ盾がいるわけでもない。魔法バカが政治をしろと言われても困ると断ったよ。
辺境の町に旅立ち、隠遁生活を開始した。
戦いの報償金はちょっとした貴族並みにあるし、友──王と開発した生活魔法があるので、死ぬまで働かなくてもいい身分。弟子をとって悠々自適な生活を送っている。
「お師匠様、朝ですよ! いつまで寝てるんですか!」
三年前に弟子にしたメビアーヌが怒鳴り込んできた。
メビアーヌは十二歳の少女で、四年前、死にかけていたところをオレが助けて弟子にしたのだ。無職と言うのは世間体が悪いので、弟子を育てる体を取っているのだ。
あ、ちゃんと魔法は教えていますよ。変な噂を立てられるのも面倒だからな。
「もう少し寝かせてくれよ。昨日はダインさんたちと遅くまで飲んでたんだからさ」
飲み付き合いも人付き合い。のんびり暮らすには必要なことなんだよ。
ひっぺがされた毛布を奪い返して眠りの世界へと──
「──起きてください! 水玉!」
ばしゃっと水をかけられてしまった。冷たっ!!
「……お、お前、師匠への扱い、酷くないか……」
まるでダメな父親に怒る娘の所業だぞ。
「甘いこと言ってたらお師匠様はもっとダメになるじゃないですか!」
国のため、人々のために生きてきたんだから残りの人生怠惰に過ごしたっていいじゃないか。オレ、それだけのことしてきたよ。
なんて言っても聞いてくれる弟子ではない。室内箒で叩かれ、ベッドから追いやられてしまった。
「まったく、鬼のような弟子だ」
しょうがないので風呂場へと向かい、濡れた寝間着を脱いでサウナへと入った。
王子時代に作れとせがまれた蒸し風呂と言うやつで、入っているうちにオレも好きになり、ここに家を建てたときに一緒に作ったのだ。
全身から汗が滝のように流れるまで入り、外に出て水風呂に入った。
「あ~~! 気持ちいい~~!」
温泉もいいが、オレはやっぱりサウナが好きだな。
身も心もさっぱりして居間に向かうと、いい匂いが漂っていた。
「先生、おはようございます」
通いで家事をお願いしているリオ夫人が厨房から現れた。
リオ夫人はオレより年下(年齢はおそらく三十前だろう)で、未亡人である。十六歳の息子がいるとは思えないくらい妖艶な女性だ。
「ああ、おはようさん」
「よく冷えた麦酒を頼むよ」
「はい、よく冷えた水ですね」
たまに難聴になるリオ夫人。指摘しても辛いだろうから訂正はしないでおく。
心を凪にして出してくれた水をいただいた。あー美味しい。
「お師匠様。ミレンさんから薬草の発注を受けましたから」
「オレ、魔法使いなんだが」
薬師ではないのになぜ薬師から発注されなければならんのだ?
「魔法使いでもだらけていたら体に悪いですよ。昨日のお酒を抜いてきてください」
なぜか弟子に命令される師匠。どこで育て方を間違ったんだろう?
「サウナで抜いたよ」
「いってきてください!」
「……は、はい……」
「ふふ。いい弟子を持って幸せですね、先生は」
いい弟子なら師匠に命令しないと思いますが……。
「さあ、朝食にしましょうね」
「いただきます」
リオ夫人が作ってくれた朝食をいただいた。
戦いのときもここにきた当初も自分で作っていたが、誰かが作ってくれる料理が一番美味しいと知ったよ。
「リオ夫人、鯵の焼き方上手くなったね」
王が名をつけた海の小魚は、焼き加減が難しい。オレも満足できるまで二年はかかったものさ。
「ありがとうございます。でも、先生が作ってくれたグリルがいいからですよ」
グリルも王が発案して鍛冶師ジムと一緒に作ったものだ。これのお陰で毎日焼き魚が食えるのだ。
「昼食は先生の大好きなシーチキンマヨネーズのおにぎりですよ」
「お、米が届いたんですか?」
王が外国から米と言う作物を輸入しているもので、たまに王都から送らてくるのだ。
「はい。たくさん届きましたよ。夜は丼ものにしましょうね」
「それは楽しみだ」
王は料理にも才能があり、たくさんの料理を発案した。丼ものもそうで、特にオレは親子丼が大好きだ。
「その前にしっかり薬草を採取してきてくださいね」
「……そう言うの、弟子の仕事だと思うのだが……」
「お師匠様の体のためです」
弟子に反論できない師匠。情けねー!
「……わかったよ……」
まあ、たまには森へ散歩にいくのもいいだろう。ちゃっちゃと済ませて湖で釣りでもするか。酒を飲みながらな。
「ん? 誰かきたな」
すぐにドアが叩かれ、メビアーヌがメイスを後ろに隠してドアを開けた。
「──ミドロック・ハイリー殿、わたしを騎士にしてください!」
入ってきたのは確か、第二妃の次女、メイナ姫だった。
いやオレ、魔法使いね。くる場所違うよ。
2021.01.15
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます