マイアー・ロートシルトとの出会い

 メンデルスゾーンがユダヤ人のキリスト教社会への同化を訴えるなら、ユダヤ人らしさを失うことの無いユダヤ人もいる。

 それこそがロートシルト家だろう。英語読みのロスチャイルド家と言った方が分かりやすいかもしれない。

 21世紀のロスチャイルド家がユダヤ教の信仰心が厚いかどうかは知らないが、18世紀のロートシルト家はユダヤ教の信仰が厚く、典型的なユダヤ人であった。

 そのロートシルト家の当主がマイアー・アムシェル・ロートシルトである。


 マイアー・アムシェル・ロートシルトは、

1744年2月23日に神聖ローマ帝国・帝国自由都市フランクフルトのゲットーにユダヤ人商人アムシェル・モーゼスの長男として生まれた。当時のフランクフルト・ユダヤ人に家名はなかったが、自称や呼称の家名は有り、彼の家は家名を「ハーン」もしくは「バウアー」と名乗っている。一時期、「赤い表札(ロートシルト)」の付いた家で暮らしたため、「ロートシルト」という家名でも呼ばれていた。そのため、マイヤーはこれを自分の家名として使っていくことになる。

 マイヤーの父は、信仰心厚いユダヤ教徒で、息子マイアーにはラビになることを期待していた。そのため、幼くしてフュルトのラビ養成学校に入学することになる。学校では中東とヨーロッパの古代史と語学を学んだ。これが後の古銭への興味と博識につながることとなる。

 しかし、父が1755年に死去し、母もその翌年の1756年に死去したため、学校を退学して働かなければならなくなった。

 親戚の紹介で、ハノーファー王国のユダヤ人銀行家オッペンハイム家に丁稚奉公に入る。ここで宮廷御用商人の業務を学ぶこととなる。

 1764年、マイアーはフランクフルトへ戻ると、古銭研究が好きだったため、蒐集していた中東のディナール金貨、ドイツの旧銀貨ターレル、ロシアやバイエルンの鋳造貸など古銭の販売業を開業する。だが、一般人相手には全く売れなかった。

 しかし、オッペンハイム家で働いていた頃に知遇を得ていたハノーファー軍人エメリッヒ・フォン・エストルフ将軍を顧客とすることが叶う。

 当時、将軍はフランクフルトに近いハーナウ宮殿の主であるヘッセン=カッセル方伯世子ヴィルヘルム(後のヘッセン・カッセル方伯ヴィルヘルム9世、ヘッセン選帝侯ヴィルヘルム1世)に仕えていた。将軍の紹介で、宮廷内の高官たちを次々と顧客に獲得し、やがてヴィルヘルムからも注文を受けるようになる。

 そして、1769年にはハーナウ宮殿の御用商人となった。


 ヴィルヘルムは領内の若い男子を徴兵して練兵場で鍛え上げ、イギリスに貸しだすという傭兵業を営んでおり、傭兵業によって莫大な利益を上げていた。

 ハーナウ宮殿の財務官カール・ビュデルスから気に入られていたマイアーは、小規模ながら両替商もやっていたため、ロンドンから振り出されたヴィルヘルムの為替手形を割引(現金化)する仕事に携わらせてもらえるようになる。


 1770年、同じフランクフルト・ゲットーの住民でザクセン=マイニンゲン公宮廷御用商人をしていたザロモン・シュナッパーの娘グトレと結婚した。後に、彼女との間に息子5人、娘5人の計10子を儲けることとなる。


 俺は古銭に興味があるので、フランクフルトの古銭商を紹介して欲しいとヘッセン=カッセル方伯世子ヴィルヘルム殿下に頼んだ。

本当は、そんなに古銭には興味は無いがな。こうして、俺はマイアーをポツダムの宮殿に呼び寄せることとなった。


 マイアーがポツダムを訪れ、俺の元へ通される。その容貌は、なかなか精悍な顔付きをしており、彫りが深い少壮の男であった。

 マイアーは宮廷商人のユダヤ人の様に、いや彼らより下手に出た態度で挨拶の言葉を述べた。媚び諂いながらも、俺のことを警戒している様子が見受けられる。そりゃ、いきなりプロイセンなんて大国の王子に呼ばれれば警戒しない方がおかしいだろう。

 マイアーは、俺の機嫌を損なわない様に気を付けながら、商品の古銭を出す。俺が指し示す古銭について分かりやすい説明を加える。無理な売り込みをして来ようとしないところが良いな。

 マイアーが持ってきた商品の中から、興味を持った古銭をいくつか買うことにすると、マイアーは嬉しそうにする。その後、マイアーに俺の興味ある古銭など取り扱っていなあかを侍従を介して伝えた。流石に、日本の小判などは取り扱っていない様だが、ヨーロッパや中近東の古銭なら手に入るかもしれないと、マイアーは言っていた。マイアーもプロイセン王子と関わりが持てるかもしれないので、この機会を活かしたいと考えているのだろう。

 俺はマイアーに、また古銭が手に入ったら連絡する様に命じ、たまには訪れる様にと告げたのだった。

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