不定詞王子の親族
俺は、ブリュッヘル少佐とシュトイベン男爵と言う重要人物を召抱えた訳だが、成長するにつれ、将来の国王として勉強をさせられている。
そもそも、大伯父のフリードリヒ大王には子供がいないので、継承順位として父のフリードリヒ・ヴィルヘルム2世が跡を継ぐことになる。大伯父にはエリーザベト・クリスティーネと言う王妃がいるものの、子供は出来なかった。大伯父が同性愛者なので夫婦関係が無かったのだ。
王妃エリーザベト・クリスティーネの妹は、父上の生母の姉にあたるので、大伯母でもある。
大伯父と大伯母の両者に会う機会はあるが、大伯父は気難しく陰鬱な老人であるのに対して、大伯母は人当たりの良い老貴婦人だ。
大伯父は、姉のヴィルヘルミーネ王女やダルジャンス侯爵など親しい人々は既に世を去ったことで、次第に孤独で人間嫌いになり、人を遠ざけるようになっていった。今では、愛犬のポツダム・グレイハウンドたちだけが心の慰めらしい。
もともと健康状態に優れないが、更に悪化しており、心臓の発作や水腫、呼吸困難に悩まされているそうだ。サンスーシ宮殿において、一日の大部分を肘掛け椅子で過ごしているとのことである。
俺がポツダムの庭園を散歩していると、たまに散歩している大伯父に出会う。そんな時、大伯父は俺に色々語りかけてくれる。俺は聞くことしか出来ないけどな。しかし、大伯父は俺のことを可愛がってくれているらしい。侍従たちがそう言ってるから、きっとそうなのだろう。
父フリードリヒ・ヴィルヘルム2世は、1744年9月25日、アウグスト・ヴィルヘルム王子(フリードリヒ大王の弟)と、ブラウンシュヴァイク=リューネブルク公フェルディナント・アルブレヒト2世の娘でルイーゼ・アマーリエ(王妃エリーザベト・クリスティーネの妹)の間に第一子として生まれた。
父上は将来の国王として、3歳で親元を引き離され、大伯父の元で育てられている。その生活は厳しく、子供として扱われることは無く、ほぼ大人同然に扱われたそうだ。大伯父と家庭教師による厳しい教育によって、父上の心は徐々に歪んでいったのだろう。
1758年に祖父アウグスト・ヴィルヘルム王子が薨去した後は、子のいないフリードリヒ大王の推定相続人となった。
1765年にブラウンシュヴァイク=ヴォルフェンビュッテル公カール1世の娘で従妹のエリーザベト・クリスティーネと結婚したものの、1769年に離婚している。
同年にヘッセン=ダルムシュタット方伯ルートヴィヒ9世の娘フリーデリケと再婚した。このフリーデリケが我が母である。母は俺を含めて8人の子をもうけることとなる。
しかし、父フリードリヒ・ヴィルヘルム2世は漁色家であり、後に愛人や身分違いの結婚によって、更に8人の子をもうけてしまう。それらの身分違いの交際や女性遍歴は、しばしば世論から非難され、周囲からは「肉の機械」と揶揄さることとなる。
兄弟はチラホラ生まれているが、親族で重要人物な人物と言うと、父の従弟であり、俺の従叔父にあたるフリードリヒ・ルートヴィヒ・クリスティアン王子であろうか。後にフランス風にルイ・フェルディナントと名を改め、そちらの名前のほうが有名である。従叔父ではあるものの、俺より2つ歳下だ。
ルイ・フェルディナント王子は、1772年11月18日、ベルリンのフリードリヒスフェルデ城で、プロイセン王子フェルディナントとブランデンブルク=シュヴェート辺境伯フリードリヒ・ヴィルヘルムの娘アンナ・エリーザベト・ルイーゼとの間に三男として生まれた。
彼はプロイセン王族の中でも特に優れており、その才能はフリードリヒ2世以後最も優秀とまで評されることとなる。しかし、1806年のザールフェルトの戦いでジャン・ランヌ率いる部隊に敗れ、戦死することとなる。長命であったなら、さぞかし優れた戦略家になったであろうと誰かが言ったらしいが、真偽の程は不明である。
ルイ・フェルディナント王子は、フリードリヒ大王と同じく熱心な音楽愛好家で、戦死するまでの間、ルイ・フェルディナント自身も作曲家として、数々のすぐれた器楽曲、とりわけ室内楽曲を遺すこととなる。プロイセン王族の中では美形だしな。父フリードリヒ・ヴィルヘルム2世の血筋があまり美形では無いのかもしれないが。
今のところ、俺の親族で重要な人物はこれぐらいだろうか。
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