第111話 休息

 眠り続けるロッテの胸の上にユルングが飛んでいく。

 コラリーが元気になったと判断したのかもしれない。


「りゃあ?」


 ユルングは、寝ているロッテの頬を舐めた。

 どうやら、ユルングは調子の悪い人に寄り添おうとする性質があるようだ。

 とても心優しい赤ちゃん竜だ。


「りゃあ~」

「……魔力が尽きたら、数日は目覚めない。大変」

「ん? 魔力を尽きたのならば補充してやればいいだけだ」

「…………そんなことできるの?」

「できるよ」


 俺は魔力を凝集させる魔道具を取り出す。

 元学院長と元魔道具学部長が俺を襲ったときに使った物のオリジナルだ。

 病で死にかけたオイゲン商会の商会長の子供を助けた魔道具でもある。


「本当は魔力が欠乏する病気の治療道具なんだが……、見ていてくれ」

「……ん」


 俺は魔道具を通して、自分の魔力をロッテに分け与えた。

 魔道具を使わなくても、俺なら同じことができる。

 だが、魔道具を使った方が簡単だし、コラリーにも使い方を見せたかったのだ。


「……はっ!」

「おはよう、ロッテ」

「わ、私」

「魔力が尽きて倒れてた」

「そう、だったのですね」

「りゃあ」「ふぁるふぁる」


 起きたロッテに水とお菓子を渡す。


「栄養補給は大切だ」

「はい、凄くお腹が空きました!」


 俺が魔力を補充したとはいえ、一度、魔力が空になったのだ。


「よい訓練になった。コラリーと一緒に母屋に行ってご飯を食べなさい」

「わかりました」

「…………私は大丈夫」

「遠慮するな。風呂にも入れてもらえ。二人とも汚れたからな」


 その後、結界を解いて、母屋へと移動する。


 俺は執事にロッテとコラリーの風呂に入れてくれるよう頼み、食事も用意してくれるように頼む。


「戦闘訓練をして、かなりお腹が空いているはずだ」

「かしこまりました。沢山用意いたしましょう」

「ありがとう。もし疲れているようなら、そのまま泊めてやってくれ」

「かしこまりました」


 ロッテの護衛である、近衛魔導騎士にも戦闘訓練を行なったことを伝えておく。

 ロッテとコラリーがお風呂に向かうのを見送ってから、俺は食堂に移動した。

 そして、俺はユルングとファルコン号におやつを食べさせる。


「りゃむりゃむ」

「ふぁむふぁむ」

「いっぱい食べるんだぞ」


 ユルングとファルコン号はたくさんおやつを食べたあと、うとうとし始めた。


「ユルングはたくさん寝なさい」

「りゃ」


 俺はユルングのことを服の中に入れる。


「ファルコン号も眠って良いぞ」

「ふぁるぅ~」

「先生のところに帰る日までに、体力を回復させないとだめだからな」

 俺の隣の椅子に座っていたファルコン号は、俺のひざに頭を乗せる。


 ゆっくりとユルングとファルコン号のことを優しく撫でた。

 しばらくそうしていると、風呂から上がったロッテとコラリーがやってくる。


「動いた後のお風呂は気持ちいいだろう?」

「はい! 疲れがとれました」

「……うん」


 ロッテとコラリーを比べたら、ロッテの方が元気にみえる。

 コラリーよりずっと消耗していたはずなのにだ。

 魔力を使い切ってしまったら、魔道具で魔力を補充しても一日は起きられないものだ。

 それも勇者の特殊能力なのかもしれなかった。



 ロッテとコラリーが席に座るのと、ほぼ同時に、食事が運ばれてくる。


「お腹が空いただろう。どんどん食べなさい」

「いただきます!」

「……ん、ありがと」


 ロッテは王女らしく上品に食べていく。

 だが、食べるのが速い。

 これほど速いのに、上品だというのはどういうことなのだろうか。

 一方、コラリーはゆっくり食べていた。


「訓練初日だし、ロッテも、コラリーも今日はゆっくり休みなさい」

「お師さま、今日はまだ魔道具作りの作業が……」

「一日ぐらい休んでも良いだろう」

「はい」

「コラリーもゆっくり休むんだよ」

「……わかった」


 そういって俺は研究所に戻る。

 もちろん、ユルングとファルコン号も一緒だ。

 ファルコン号は眠たそうにしていたので、肩に止まらせて運んでおいた


 ベッドにユルングとファルコン号を寝かせると、俺は机の前に座る。


「さて、何作ろうかな」


 俺は迷った末に、とりあえず結界発生装置を作りはじめた。

 作った結界発生装置はコラリーにあげてもいい。

 もしかしたら、口封じや見せしめにコラリーが狙われる可能性もあるのだ。

 敵が壊滅したと油断するなと、ケイ先生も伝えてきた。

 備えておくことに越したことはない。


 結界発生装置は作り慣れている。それにさほど難しくない。

 あっというまに完成する。


「次は……」

 遠距離通話用魔道具を作る。

 ファルコン号に持たせて、ケイ先生に渡す分はある。

 だが、いつもっと必要になるかわからない。

 そのときになってつくるのでは面倒だからだ。


 作りながらふと思う。

「……改良したくなってきたな」

 遠距離通話用魔道具は、その仕組みから対で一つだ。

 俺が持つ遠距離通話用魔道具が増えつつある。

 姉が持つ物、ロッテが持つ物、ハティが持つ物。

 それに加えて、ケイ先生に届けさせる物。

 計四つだ。


 コラリーが助手を続けるなら、そのうち渡すことになる。

 そうなれば、五つだ。

 魔法の鞄に入れてあるとは言え、五つの遠距離通話用魔道具を管理するのはとても面倒である。

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