第52話 オイゲン商会にロッテを連れていこう

 俺はロッテに簡単に仕事内容と研究所の場所について教える。


「基本は辺境伯家の離れで研究する予定だが、この研究室を好きに使っていいぞ」

「ありがとうございます」

「一般的な魔導具研究室にある機材なら、一通り揃っているからな」

「あの、お師さま」

「ん?」

「お師さまの研究室なら、常に結界で防御しないといけないのでは?」

「………………たしかに」


 まだ研究を始めていないから、特別な防御は必要ない。

 だが、研究を始めたら、必要となるだろう。

 それにロッテが使うならば、防御した方がいい。


「ロッテ、今日はもう授業は終わりか?」

「はい。もう授業は終わりです。昼食を済ませたら、お師さまの研究所にいくつもりでした」

「そうか。昼ご飯の後で、少し付き合ってくれ」

「はい! お供します!」


 そういって、ロッテは急いで食べようとする。


「急がなくていいよ」

「そうなのじゃ! ハティもゆっくり食べてるのじゃ」

「はい、ありがとうございます」


 ゆっくりと食事とおやつを済ませると、俺達は研究所という名の研究室へと向かう。

 護衛も一緒について来る。


「ここがお師さまの研究室なのですね」

「そうだ。一応結界の防御を展開しておこう」


 中に怪しい者がないか調べた後、俺は魔導具を使って結界を張る。


「ロッテも開けられるように設定してこう」

「あ、ありがとうございます」


 これで、ロッテも自由に研究室に入り浸ることが出来るだろう。



 その後、俺たちは外へと向かう。

 建物を出たところで、ロッテを送迎するための馬車がやってくる。

 魔獣の馬に曳かれた大きくて立派な馬車だ。

 大きいのは護衛も一緒に乗れるようにだろう。


「ロッテ、少し寄りたいところがあるんだが」

「はい。どちらに寄りましょうか?」

「オイゲン商会なんだが……」

「わかりました」


 そういって、ロッテが御者に目を向ける。

 すると、御者は頷いて馬車を走らせ始めた。


「オイゲン商会は知っています。故郷にも支店がありましたので」


 オイゲン商会はとても大きな商会なので、そういうこともあるだろう。


「そうか。オイゲン商会は俺がよく魔導具を卸している商会なんだ」

「そうだったのですね。確かにオイゲン商会で買った魔導具はどこかお師さまっぽさがありました!」

「それに気付くとは大したものだ」

「ロッテはえらいのじゃ」


 そういって、ハティはロッテの頭を撫でまくっていた。

 ハティは隙さえあれば、頭を撫でたいらしい。

 俺も猫相手にしたら、そうなるので、それと同じだろう。気持ちはわかる。



 少し馬車で走って、オイゲン商会の前に到着する。

 魔獣の馬に曳かれた豪華な馬車の到着に気付いた店員数人が整列する。

 お出迎えしてくれるらしい。

 護衛たちには待機してもらって、俺とロッテ、ハティは馬車を降りた。


「これは、ヴェルナー卿。お越し頂きありがとうございます」

 俺のことを知っているベテランの店員が頭を下げる。


「オイゲンさんはいらっしゃるかな?」

「はい。こちらに向かって急いで走っていることでしょう」


 俺たちはオイゲン商会の応接室へと通された。

 お茶とお菓子を出されて、ハティが大喜びで食べ始めるのと同時にオイゲンがやってきた。


「ヴェルナー卿、お越し頂きありがとうございます」


 オイゲンの息は少し上がっていた。


「おはよう。そんなに急がなくてもいいんだぞ」

「いえいえ! ヴェルナー卿の貴重なお時間を奪うわけには参りませんから」


 そして、オイゲンは俺の隣に座るロッテのことをチラリと見た。

 紹介して欲しいという無言のアピールだ。


「オイゲン。こちらは俺の弟子となったシャルロット・シャンタル・ラメットだ。今後ともよろしく頼む」

「オイゲンさま。お初にお目にかかります。シャルロット・シャンタル・ラメットと申します。どうかロッテとお呼びください」

「お、おお、これは、王女殿下、お会いできて光栄です」


 オイゲンは当然のようにロッテのことを知っているようだった。


「今はお師さまの弟子に過ぎませぬ。そのように対応していただければ……」

「かしこまりました」


 ここで引き合わせておけば、ロッテがラメット王国に戻った後、何かと役立つだろう。

 そう俺は考えたのだ。

 それはオイゲンも、ロッテもわかっているだろう。

 ロッテが帰国した後も、商会を通じて色々と便宜を図ってくれるに違いない。

 そして、オイゲン商会もラメット王国の王女と知り合えば、商売のネタになるはずだ。

 そのために引き合わせたのだ。


「さて、オイゲン。今日来たのは新しい魔導具を作ったからなんだ」

「おお! 素晴らしい。今回はどのような?」

「これだ」


 俺はお湯を作る魔導具とパン焼き魔導具を魔法の鞄から取りだした。


「二つも!」

「一つは既存品の改良版だがな」


 そして、俺は魔導具について説明していく。


「これは売れますよ」

「だといいのだがな。商会の魔導具師でも作れるように製法を記したノートも持ってきてある」

「何から何までありがとうございます」


 それから、オイゲンは俺たちを魔導具工房へと連れて行ってくれる。

 製法を記したノートがあっても、直接説明しないとわかりにくいことも多いからだ。


 魔導具工房には十人の魔導具師たちがいた。

 そして、その中の一人が、

「あ、シュトライト先生!」

 そう言って、俺たちの方に駆け寄ってきた。

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