第24話 拠点の爆破

 ファルコン号はかなり大きい。

 翼を畳んだ状態でも、大型犬より一回り大きいのだ。


 研究室はさほど広くないので、ファルコン号が入ると少し狭く感じる。


「乾燥パンしかないぞ」

「ふぁる」

「ハティ、乾燥パン大好きなのじゃ!」


 みんなで美味しくない乾燥パンを食べて水を飲む。

 食事が終わると、ハティとファルコン号はすぐに眠そうにする。

 昼間沢山運動したハティと、遠くから飛んできたファルコン号は疲れていたのだろう。


「ベッドも長椅子も好きに使っていいぞ」

「ふぁる」


 ファルコン号は俺のベッドの上に乗ると、静かに眠り始めた。

 ハティはファルコン号の横で一緒に眠る。


 ハティとファルコン号が眠ったのを確認して、俺は今日完成したばかりの魔導具を作り始める。

 試作品の作成中、予備のことも考えて、部品類は多めに作ってある。

 だから、新たに作る部品はほんの少し。ほとんどの作業は調整と組み立てなのだ。

 姉に進呈することを考えて、機能も研究室一室程度ではなく、もっと広い範囲を保護できるように調節する。



 日付が変わる頃、結界発生装置を二十個ほど作り終え、俺は風呂に入ってから眠ることにした。

 風呂から上がると、ベッドで気持ちよさそうに眠るファルコン号とハティの隙間に横になる。


 俺がベッドに横たわると、一瞬、ファルコン号は目を開ける。

 そして俺に近づいてくっついてくれた。


「ありがとう、暖かいよ」

「……ふぁる」

 ファルコン号はすぐに目を閉じて再び眠り始めた。

 季節は冬だが、ファルコン号とハティのおかげで、温かかった。



 次の日の朝。

 俺はファルコン号のもふもふの羽毛に包まれて目を覚ました。

 ハティもファルコン号の羽毛の中に挟まっている。


「ありがとうな、温かいよ」

「ふぁる」


 朝ご飯を食べている間に、ハティとファルコン号に師匠からの指示、拠点爆破について教えた。

 結界発生装置が完成したので、王都に戻ることも同時に伝える。


「なんと! 跡形もなく爆破するのかや? もったいないのじゃ」

「ふぁる!」

「まあ、もったいない気もするが、大事なものは全て取り出すし拠点ぐらいすぐに作れるしな」

「そういうものなのかや」

「それよりも悪い奴に悪用されない方が大事なんだろう」

「ふーむ。それはともかく、王都に行くのは楽しみなのじゃ! できたての乾燥パンが食べたいのじゃ」

「どうせできたてを食べるなら、普通のパンを食べた方がいいぞ」

「ふぅむ?」

「乾燥パンより恐らく美味い。少なくとも俺は乾燥パンより普通のパンの方が好きだな」

「なんと! 乾燥パンより美味いパンがあるなど、とても信じられないのじゃ!」


 そして、朝ごはんを食べ終わる。

 早速、研究所の爆破準備をしなければならない。


「ファルコン号、疲れてないか? 王都への移動は急いでいないからな。疲れているなら、もう二、三泊しても大丈夫だが」

「ふぁるふぁる!」


 ファルコン号は大丈夫だと言わんばかりに、羽を広げる。

 羽はとても大きいので、研究所の壁や天井に当たりそうになった。


「元気なら良かった。これからケイ先生の所に戻るのか?」

「ふぁる!」

「なら、これを持って行ってくれ」

「ふぁ~る!」


 俺は結界発生装置を、ファルコン号のポーチに入れた。


「手紙も付けるべきなのだろうが、面倒だ。それに師匠なら、結界発生装置を見れば俺の現状ぐらいわかるだろうさ」

「ふぁる」


 それから、俺は研究所を爆破する準備を進める。 

 大切な物は全て、俺の開発した魔法の鞄マジックバッグ入れていく。


 それが終われば、俺の開発した鉱山採掘用の爆弾のセットだ。


 十個ほど爆弾を設置したら、ハティが

「そんなに爆弾がいるのかや? 爆弾の威力は凄まじいし、研究所は小さいのじゃ」

「跡形もなくという、師匠からの指定だからな。ただ吹き飛ばすだけじゃダメなんだ」

「そういうものかや」


 俺はさらに十個、計二十個の爆弾を設置した後、さらに手を加える。

 熱と爆風がを凝集させて研究所を超高温にするのだ。


「主さま。ふと思ったんじゃが……」

「なんだ?」

「主さまなら。爆弾使わなくても魔法でなんとでもなるのではないかや?」

「できるが、疲れるだろう? それに大分前に作った爆弾があったからな。この際全部使っておこうと思ってさ」

「そうなのかやー」「ふぁるー」


 全ての準備が終わると、俺たちは地下の研究所を出る。


 そしてしばらく王都に向かって歩いて、距離を取った後、

「よし、爆発させるぞ」

「楽しみなのじゃ」

「ふぁ~ふぁる」

「三、二、一、……爆破!」


 ――ドドオオオオオオオオオオオン!


 研究所の在った場所に巨大な火柱が立つ。

 一瞬遅れて、衝撃波がやってくる。


「ふおおおおお」

「ふぁるううう」


 ハティとファルコン号は驚いて身をすくめるが、

「安心しろ」

 俺は爆破と同時に結界発生装置を作動させている。

 発生した結界は強烈な衝撃波を受けてもなんともなかった。


「す、すごいのじゃ。爆発の威力も結界の能力も凄まじいのじゃ」

「ふぁ、ふぁる~」

「ありがとう。自分で作ったものだが、結界発生装置は本当に便利だな」

「画期的な発明なのじゃ!」

「ふぁるふぁる」


 ハティとファルコン号は褒めてくれる。


 そして俺たちは爆心地を確認して、跡形もなく消滅したのを確認すると王都に向かって歩き出した。


「ふぁ~る~」

 ファルコン号は、爆破を見届けた後、お礼をいうかのように頭を何度か下げて飛び立った。

 師匠の元に帰るのだろう。


「気をつけろよ! ファルコン号!」

「いつでも遊びに来るのじゃ~」

「ふぁふぁる~」


 ファルコン号は巨大な鷲だけあって、飛ぶのも速かった。

 あっというまに見えなくなる。


「可愛かったのじゃ、寂しくなるのじゃ」

「そうだな。また会えるだろ」

「主さま。ファルコン号をみて思ったのじゃが、ハティが大きな姿になれば王都に飛んでいけるのじゃ」

「…………そうだな」


 巨大なハティが王都に向かえば、目撃した民が怯えてしまう。

 とはいえ、片道で徒歩五時間。飛んで行けるのは非常に魅力的だ。


「王都まで飛んだら、民が怯える。だから、王都から徒歩で一時間ぐらいの所まで飛んでもらえるか?」

「任せるのじゃ!」


 そして、俺は巨大化したハティに乗って、王都の近くまで移動したのだった。

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