第14話 突然の古竜

 確かに古竜は根本的に、他の竜とは違う。

 生物というよりも精霊や神に近いとすら言われる。

 実際、古竜を神として崇めている地域もあるほどだ。


「古竜のわりには……」


 俺はそこで言いよどんだ。

 古竜のわりには「弱くないか?」とか「小さくないか?」と言いかけたのだ。

 さすがにそれは失礼が過ぎる。


 途中でやめたというのに、竜は俺が言おうとしたことがわかったらしい。

 慌てて弁解を始める。


「わ、わらわは、古竜とはいえ、幼竜だから……。でも! わらわは古竜! 幼竜でも一般竜種の老竜にも負けないのじゃ!」

「確かに老竜ぐらい大きかったし、並みの老竜以上に強かったな」

「であろー」


 竜はどや顔で、尻尾をゆっくりと揺らしていた。


「そうか。古竜だったのか」

「そうなのじゃ!」

「わざわざお礼を言いに来るとは義理堅い竜なんだな」

「そうなのじゃ! ありがとうなのじゃ」

「これはこれはご丁寧にどうも。本当にお気になさらないでください」

「それでわらわは……恩返しをしに来たのじゃ。一生仕えるのじゃ!」


 古竜がとんでもないことを言い出した。

 こんなに大きな古竜にずっと付いてこられたら、とても大変で面倒なことになる。


「そんなそんな! 立派な古竜さまに仕えていただくなんて、とんでもないことです」


 主さまとか呼ばれ、仕えるとか言われ始めたので、敢えて古竜さまと呼んでバランスを取ることにした。


「そなたにはその資格があるのじゃ! そもそも、古竜は一対一で人に負けたら仕えることになっているのじゃ」


 そんな風習があるとは知らなかった。


「いえいえ! 本当にそんなことは必要ないので! 魔導具を取り外しだけで私は古竜さまに勝ったわけではないので!」

「いや、あれは勝ったと言っていいのじゃ」

「いやいや、私はしがない魔導具の開発者にすぎず、だからたまたま取り外せただけなのであって……」

「そんなそんな、わらわの渾身の攻撃を片手で軽く防いで、勝っていないなどと……」


 しばらく押し問答が続く。

 本当に俺は大したことをしていないのだ。


 ロッテが襲われていたから竜を撃退した。

 端的に言えばそれだけである。


 別にお礼を言われたり、ましてや恩返ししてもらう必要はない。

 だが、竜は義理堅いようで、恩返しがどうしてもしたいようだった。


 話しは平行線が続く。

 きりが無いので、俺は少し強引に切り上げることにした。


「いや本当に大丈夫ですので。わざわざありがとうございました。……では夜も遅いので」


 眠かったので、俺は丁寧に頭を下げると、扉を閉めた。


 義理堅い竜もいたものだ。

 竜の知り合いはほとんど居ないので一般的な竜というものがわからない。

 もしかしたら竜は人よりも義理堅い種族なのかもしれない。


 そんなことを考えながら、ベッドに入った。


「入れてほしいのじゃー。入れてほしいのじゃー」


 扉の外から竜の小さな声が聞こえてくる。

 竜なのだから飛んで帰ればいいのに、帰る気がないらしい。


「……もう、仕方ないな」


 俺は扉を開けると、

「入れて欲しいって言われても、そんなに大きかったら無理だろ。人族の部屋は小さいんだ」

「小さかったら入っていいのじゃな!」


 竜はそういうと、しゅるしゅるっと小さくなった。

 大きめの小型犬、もしくは小さめの中型犬ぐらいの大きさだ。


「……小さくなれたのか」

「わらわは古竜じゃからな! 入ってよいかや?」

「いいぞ。ただし、俺は眠い。話しは明日だ。眠たければそこの長椅子を使え」

「わかったのじゃ!」


 竜は嬉しそうに尻尾を振りながら、中に入ると長椅子に横たわった。

 そしてあっというまに寝息を立て始めた。

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