第35話 『特訓二日目⁉』

 翌日。

 アルマの訓練は早朝から始まっていた。


「やあっ!」とアルマが振った木剣を、メイランがおなじく木剣で受ける。

 木剣どうしがぶつかって、ゴヅッ、という鈍い音をあげた。


「もっと前に出ろ! 切先じゃなく刃元で切らないと、動く相手には当たらないぞ!」

「はいっ!」


 ゴヅッ!

「もっと当たる瞬間に集中しろ、一気に魔力マナを流しこめ!」

「はいっ!」


 たった二日の訓練では、駆け引きや、高度な技術は覚えようがない。

 メイランの練習内容は、アルマのパワーを生かして〝やられるまえにやる〟という力押しの、極端な『攻撃重視』に振られていた。


 治癒魔法を使えることもあって、多少の傷は覚悟のうえで、防御ごと相手をたたくという至極単純な作戦だ。

 そのため、教えるのも攻防時に威力を高める《強化》のみという『一芸必殺』ぶりだった。


 ゴヅッ! とまた木剣がぶつかる。

「今のは悪くない。忘れるな!」

「はいっ!」


「よしっ、次は防御をやる。アタシが攻撃するから、お前が受けろ」

 アルマが一瞬、不安そうな顔になる。


「安心しろ、最初はゆっくりやるさ」メイランが不安を消すように笑った。

「――ただし、気は抜くなよ。受ける瞬間に、魔力マナでしっかり《強化》するんだぞ」

「はいっ!」

「よし構えろ!」


 アルマは、体の前でぴたりと木剣を止めた。

 それを見たメイランは、流れるように木剣を振り出したが、

 そのスピードは言葉通りの〝ゆっくり〟で、

 アルマの木剣に当たるまでに、ゆうに五つは数えられるくらいだった。


「???」

 あまりの遅さに、アルマがどうしたんだろう、と思ったとき、木剣どうしが接触した。


 バギンッ!

 という聞いたことのない音がして、アルマの木剣がものすごい力で押されたかと思うと、構えていたアルマごと後ろへ吹き飛ばした。


 軽々と宙を舞ったアルマは、そのまま地面で一回バウンドして数回後ろに転がり、木にぶつかってようやく止まる。

「莫迦かっ! 気を抜くなと言っただろうがっ! 死ぬぞッ!」


 メイランが怒鳴り声に、アルマは『きゅう~』と言ったまま動かなかった。

「ありゃあ聞こえてないな……」

 メイランはボリボリと頭を掻くと、助けにむかった。



「なんかすごい音がしたけど、どうしたの?」

 練習場のすみでムチと投石器スリングの練習をしていたスペスが、駆けつけた。


「頭を打ったようだが、治療はした。少し休ませれば大丈夫だろう」

 メイランはそう言って寝かされたアルマを診ている。

「そっか……、大丈夫ならいいけど」

 そう話す二人の声に、アルマは目を開けた。


「んぁ……あれ? スペス? わたし……なんで寝てたの?」

 不思議そうにしながら、ボーッとする頭で身体を起こす。

「訓練中に気を抜いて、頭を打ったんだ。覚えているか?」


「えっと……あ……」

 アルマが口に手を当てる。


「思い出したか――訓練とはいえ死ぬこともある。気は抜くな」

 真剣な顔のメイランに、

「はい……」とアルマはうなずいた。


「よし。もう少し休め」

「いえ、大丈夫です! やります!」


 立ちあがろうとするアルマを、メイランが止めた。

「いいから寝ていろ。体を壊したらなんにもならん。今は、やすむ時だ」


「はい……」

 と答えて、またアルマは横になる。


「あの木のうえに太陽がきたら再開だ。それまでに次の訓練の説明をしておこう。寝ながらでいいから聞いておけ――」


 アルマがうなずくと、スペスが手を振った。

「それじゃあ、ボクは邪魔したら悪いから戻るね。アルマ頑張って!」

「スペスもね……」とアルマは、手を振り返す。


「始めるぞ。この後はさっきの攻撃と防御を交互に繰り返す。慣れてきたら、より実戦に近い形で、常に動きながら連続で繰り返していくぞ。わかってると思うが、大事なのは瞬間的に魔力マナを出し切って《強化》を――」


 寝たままで説明を聞くアルマは――見えている空に向かって唇をキュッと結んだ。

 悔しげなその顔を、森から吹いてくる風がさらさらと涼しげに撫でていった。


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過酷な訓練はつづく。


それでは次回、

第36話 『帰るために少しでも⁉』

で、お会いしましょう!

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