2 校内

白錫しらすずの校舎、めっちゃキレイ……」

 白い校内は燻の装飾が高級感を醸し出し、まるで異世界を散策しているような気分になれた。

「っと、見とれてる場合じゃなかった。ったく、クラのやつどこいるんだよ、もう〜!」

 そう喚きながら走るなるは今、クラウスの行方を探している。

 白錫の視察も兼ねて、今日はMagic hourマジックアワーという先輩アイドルたちとの打ち合わせなのだ。Magic hour、通称マジアワは双子のアイドルユニットであり、ハヤラスとは真逆の清廉な色を持つ。そんな彼らとの待ち合わせに、クラウスは待てど暮らせど現れることがなく、仕方無しにとマジアワの片割れであるうたが探しに出たのだ。しかし、そんな詩も戻らなくなってしまった。そこで鳴が駆り出されたというわけだ。

陽向ひなたくんも陽向くんだよなあ、他校生のおれより陽向くんのほうが地の利があるんだし、おれが探すより効率良くない?」

 先輩を待たせている焦燥感と、見知らぬ土地での不安感から、口をついて出てくるのはそんな愚痴ばかり。

みくりは遅れる〜って連絡があったきり返事来ないし…… てかあいつ一緒にここまで来たのに、途中で消えたんだよなあ。どこ行ったのマジで」

 白錫に訪れたことがないのは鳴だけだ。芧を頼りにしていたというのに、ちょっと用を足しに、と不意に離れてしまった。

「でぇ! また多目的室! 多目的室多すぎでは? さっきも来たんだけど! ……待てよ、これは、おれ、迷子……か……?」

 気づいてしまえば途端に心細くなる。校内図がないかと目を走らせるが、下手に動けばまた迷う。唸り声を零しながらその場にうずくまり、ヘルプを送ろうとグループメッセージを開いた。と、不意に影が落ちる。

「困り事かな?」

「へあ! え、あ、すみません……」

 ひっくり返った声に、男は笑う。鳴よりも頭ひとつ近く背の高い、整った顔の男。見知らぬ顔だが、制服を着ていない。職員にしては若い。

「道に迷っているなら案内するよ?」

 卒業生だろうか。優しげな笑みに、警戒が解れていく。

「あ、ええと、その、人を探してて…… あ、道にも、迷ってるんですけど…… ともかくその、なんか、動き回れる広い場所とかって、わかります……?」

 クラウスならそういう場所を好むだろう。素直に、だが途切れ途切れに、なんとか絞り出せば、男は考える素振りを見せた。

「多目的ホールとかかな」

「また多目的。あ、すみません…… ええと、その多目的ホールって、どこに向かったら……」

 思わず突っ込んでしまいつつも頭を振り、男に目をやる。じっとこちらを見つめる新緑の瞳は、吸い込まれてしまいそうだ。

「あ、あの……?」

「多目的ホールは、そこの階段を降りて左に真っ直ぐ行くとピロティがあって、ピロティの奥に進めば見つかると思うよ、鳶ケ巣とびがす鳴くん」

「ありがとうございます! え、あれ、名前……」

HAYABUSA RANKERSハヤブサランカースの子でしょ? 動画で見たよ」

「あっ、きょ、恐縮で…… とわっ!」

 またも素っ頓狂な声が上がる。手の中で震えたスマホを確認すれば、クラウスからのメッセージが表示された。どうやら詩と合流し、買い物に出てしまったようだ。

「校内にいないのかよっ! 走り回った意味!」

「お友達? 見つかった?」

「あ、はい、すみません、教えてもらったのに」

「ううん。練習頑張ってね」

「あっ、ありがとうございました! すみません、ええと、それでは!」

 ああもう、まったくクラのやつ。もごもごと止まらない愚痴を吐き出しながら、急ぎ足で外を目指した。最後まで見送る男の視線には気づかずに。

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