2 校内
「
白い校内は燻の装飾が高級感を醸し出し、まるで異世界を散策しているような気分になれた。
「っと、見とれてる場合じゃなかった。ったく、クラのやつどこいるんだよ、もう〜!」
そう喚きながら走る
白錫の視察も兼ねて、今日は
「
先輩を待たせている焦燥感と、見知らぬ土地での不安感から、口をついて出てくるのはそんな愚痴ばかり。
「
白錫に訪れたことがないのは鳴だけだ。芧を頼りにしていたというのに、ちょっと用を足しに、と不意に離れてしまった。
「でぇ! また多目的室! 多目的室多すぎでは? さっきも来たんだけど! ……待てよ、これは、おれ、迷子……か……?」
気づいてしまえば途端に心細くなる。校内図がないかと目を走らせるが、下手に動けばまた迷う。唸り声を零しながらその場にうずくまり、ヘルプを送ろうとグループメッセージを開いた。と、不意に影が落ちる。
「困り事かな?」
「へあ! え、あ、すみません……」
ひっくり返った声に、男は笑う。鳴よりも頭ひとつ近く背の高い、整った顔の男。見知らぬ顔だが、制服を着ていない。職員にしては若い。
「道に迷っているなら案内するよ?」
卒業生だろうか。優しげな笑みに、警戒が解れていく。
「あ、ええと、その、人を探してて…… あ、道にも、迷ってるんですけど…… ともかくその、なんか、動き回れる広い場所とかって、わかります……?」
クラウスならそういう場所を好むだろう。素直に、だが途切れ途切れに、なんとか絞り出せば、男は考える素振りを見せた。
「多目的ホールとかかな」
「また多目的。あ、すみません…… ええと、その多目的ホールって、どこに向かったら……」
思わず突っ込んでしまいつつも頭を振り、男に目をやる。じっとこちらを見つめる新緑の瞳は、吸い込まれてしまいそうだ。
「あ、あの……?」
「多目的ホールは、そこの階段を降りて左に真っ直ぐ行くとピロティがあって、ピロティの奥に進めば見つかると思うよ、
「ありがとうございます! え、あれ、名前……」
「
「あっ、きょ、恐縮で…… とわっ!」
またも素っ頓狂な声が上がる。手の中で震えたスマホを確認すれば、クラウスからのメッセージが表示された。どうやら詩と合流し、買い物に出てしまったようだ。
「校内にいないのかよっ! 走り回った意味!」
「お友達? 見つかった?」
「あ、はい、すみません、教えてもらったのに」
「ううん。練習頑張ってね」
「あっ、ありがとうございました! すみません、ええと、それでは!」
ああもう、まったくクラのやつ。もごもごと止まらない愚痴を吐き出しながら、急ぎ足で外を目指した。最後まで見送る男の視線には気づかずに。
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