ヒユルルルン


 寒子かんこもまた口笛を吹きながら旅をしてますが、若干短めの口笛はヒユルルルンとなります。


 そんな舌足らずな口笛でも人はふんばるし、電信柱も琴のような旋律を奏ででくれます。


 なのに、なのに、どんなに寒子かんこが頑張ってもうつむいて川辺の澄んだ水ばかりみて、感心を示さない面白くない植物が一つだけあるのです。


 白く黄色いくちばしを持つその花は白鳥のように凛とした佇まいで、また石膏像のように彫りの深い耽美な眼差しを浮かべており、寒子かんこでなくっても見とれてしまう美しさを兼ね備えているのです。


 寒子かんこだって、もっとヒユルルルンと口笛を吹いて振り向かせたいけど、意地っぱりなのか照れ屋なのか、あまりにも水仙が美しすぎて落ちつかず口笛を吹かずにただ見とれていたいのです。


 ただ、折角の美しいものを一人で鑑賞してても面白くないので、寒子かんこはこの川辺を訪れる人々に口笛を吹いて、人々にも俯いた瞬間、この水仙を見てもらおうとします。


 しかし、人々は澄んだ川面の苔や水中に花咲く名も知らぬ赤い花にばかり興味を示して、水仙のことは見ようとしないのです。


 しかも、寒子かんこにも2泊3日しか一つの街にとどまれない決まりがあり、むきになって期限の間口笛をいくら吹けども結果は変わらないのです。



 それどころが日増しに水仙の茎が黒く黒ずみ、俯いている花弁もギザギザが増えて、水辺につくほどうなだれてしまいます。


 そんなわけで、次の北風がやってくる3日目に、寒子かんこもまたこの水仙に見切りをつけて、新しく綺麗な水仙が咲いているであろう次の町を目指して旅立ちます。




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