第43話 ロマンの為なら何でもやります!と宣う奴を決して雇ってはいけません!



 科学者は決して法や道徳を破ってはいけない。今でもそう信じている。


「そんなものは知らん!お前だってそうだろう?読んだぞ!一年前ダークウェブに流出したお前の論文!素晴らしい着想だった!お前の才能に嫉妬の念と同時に尊敬することをわしは禁じえない!!既存の異能情報学はお前のせいで修正を余儀なくされた!そして世界中でお前の論文のせいで多くの粛正が発生しただろう!お前も科学で多くの人間を死に追いやった!誇れ!すなわちお前の研究は世界を確実に進歩させたのだ!!神実樹!お前は間違いなく天才じゃよ!!」


 例の論文流出事件によって、デザイナーズベイビーであったマリリンの兄弟たちはアメリカ政府により粛正されてしまった。俺には道義上の責任がある。それを無視して天才などとおだてられるのは納得がいかない。


「ふざけんなこの野郎!!俺は!俺は!!そんなことの為に研究してたわけじゃないんだよ!!くそ!ちくしょう!!」


「イツキ…」


 マリリンが俺の手をそっと握ってくれた。俺の研究の最大の犠牲者はこの子だ。


「イツキ。あんたは悪くないわ…。悪いのは科学じゃないよ。使う側の問題。あんたはあたしの傍に居てくれてる。だからこれ以上苦しまないで」


「ごめんマリリン…ありがとう…」


「ふむ?お前も女に救いを求める口かね?そんなにいいものかね?女とは?わしには全く理解できんよ。性欲は正常な思考を維持するために適度に発散させる必要があるが、それは食事や排せつと同じだろうに。火威ひおどしもいまだに磐座いわくらに拘り過ぎておるしのう。なにせ一年前からお前に復讐することを練っていたしのう。恋愛にそんなかちがあるのかねぇ?さっぱり理解できんわい」


 鉄丸は研究以外に興味のない男だ。過去に結婚歴があるそうだが、それはデキ婚の上、研究で家に帰らず放っておいて離婚されたとかなんとか。本人もちっともそれについて思うことがないようだ。だが今はそんなことはどうでもいい。火威は一年前から俺に復讐する気だった?あいつが俺と枢の関係を知ったのはこの間のはず。特許権絡みで俺が邪魔なのはわかるが、感情的ないざこざはなかったはずなんだ。


「一年前?あいつが俺を狙い始めたのは株式上場が近いからじゃないのか?」


「そうだな。クルル式アルゴリズムの特許権は爆弾だからのう。確かに元々お前を上場間近になったら消す予定だったぞ。だが一年前じゃのう。お前の論文が裏の世界に流出した時に、お前を消す計画を練り始めた!あやつがいうには、あの論文のせいで十年前に磐座が死んだらしいからな!」


「はぁ?!なんだと?!あの論文のせいで枢が死んだ?!どういうことだ?!」


「そんなもん知らん!火威は磐座と再会するためにラタトスクを創ったなどと妄言を吐くような生粋の狂人だ!わしはあやつが言う磐座絡みの話題については聞き流すことにしておるのだ!いつまでも死んだ女相手にめそめそと気持ち悪いからな!」


 部下に気持ち悪がられてるって相当だな。だけど気になる話だ。俺の論文のせいで枢が死んだ。まさか異能バイオ利権の連中が枢を殺したのか?ありえそうな話で寒気が止まらない。だけど今はそれどころじゃないんだ。目の前の男を何とかしなければならないのだから。


「さて!火威の話などどうでもよい!だがわしはラタトスクの社員なんでな!社長の命令は絶対なのだ!一応聞くぞ。その金髪の娘を渡して投降しろ。どうだ?」


「投降するわけないだろ!マリリンは絶対に渡さん!」


「よしわかった!では死ね!はっきり言って心苦しいよ!お前のような科学の天才を手にかけなければならぬのはな!道さえ違えねば、きっとわしはお前と何かの形で共同研究なども出来ただろうに…残念だよ!」


 そして鉄丸は手を空に向かって伸ばし、指をピンと弾いて鳴らした。すると鉄丸の後ろの道路から小型のトラック二台と電車が1車両分と戦車が二台走ってきた。そしてさらに小型の戦闘機が道路の上を飛んでいきたのだ。


「無人機みたいね…あれらは異能力で操ってるわ」


 マリリンが邪眼で確認してくれた。どうやらいずれの機体も異能によるドローン制御されているようだ。


「わしには沢山の夢がある。その一つがこれだ!お主がこの間特許申請した異能スキルの有機的同期アルゴリズム。誠にあっぱれじゃ!あれの御蔭でわしは夢の一つを叶えることが出来た!それがこれだ!アイアンサークル合体!ゴー!!」


 そして鉄丸はヘッドギア型のデバイスを被り何かの異能スキルを発動させた。すると突然鉄丸の傍に集まっていた各機体に稲妻のような雷光がバチバチと飛び散り、浮かび上がって分解を始めた。


「へ?…うそだろ?何?ハリウッド?」


「イツキ、これってむしろ秋葉原じゃないの…?」


 俺たちは互いに馬鹿な感想しか口に出せなかった。それくらいあほな光景だった。分解された機体は鉄丸の後ろでどんどん一つの形になるように組み合わさっていったのだ。戦車が足の甲、電車が足、そして戦闘機は胴体になり、トラックが腕になった。つまり人の形だ。そうこういうのは小さいころにアニメとかで見たことがあった。所謂巨大ロボットって奴だ。


「これがわしの夢の一つ!人型ロボット兵器!合体バージョン!!」


「バッカなんじゃねぇの?!鉄丸お前!!ねぇ!マジで馬鹿なんじゃないの!!」


「わしもわかっている!人型兵器など科学的見地から見れば兵器としてはまったくの欠陥品に過ぎない!だがロマンだ!!わしは幼き日にテレビで見て以来、いつか乗ってやると決めたのだ!!お前の異能スキルの同期アルゴリズムによって各機体を操るためのサイコキネシスの同期に成功したのだ!!これによってやっと人型を維持できるようになったのだ!!」


 ようはこれって念動力とか重力制御とか様々な異能スキルを複合して使って、各機体を無理やり繋いで、人の形にしてるだけなのか…。こんなに馬鹿な異能の力の使い方を見たのは初めてかも知れない…。


「俺の特許を勝手に使うのやめてくんないかな!?ラタトスクの奴らはほんとうに泥棒ばかりなんだな!!」


 そして鉄丸は車に戻る。すると車はコンパクトな立方体に折りたたまれて、ふよふよと浮き上がり、巨大ロボットの方の胸に合体した。どうやらコックピットになるようだな。まじで下らねぇロマン主義者だ。


『なに。特許の使用申請はちゃんとするさ。お前を殺してからな!!』


 そして巨大ロボットは背中から剣を抜いて、俺たちに向かってそれを振り下ろしてきたのだ。

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