第16話 目覚めたオーパーツ

 パイプがアチコチに通っていて、時々ぼんやりと薄緑や薄紫に発光する魔方陣みたいなラインも通っている廊下を歩く。

 その発光とは別にして、僕らが入った段階で電灯のようなモノも発光を始めたようだ。普通に明るい。


 僕の服の裾を掴んでいるリリを引き連れて歩を進める。

 彼女が怖がっているのは見慣れぬ景色も勿論のこと、4脚歩行ロボ(モドキの魔導装置)が偶に廊下を歩いているせいだろう。

 研究エリア入り口で認証確認をしてくれた個体とはまた別で、どうやら掃除とかをしている施設管理維持用のロボットらしい。お陰で研究エリアの廊下はピカピカだ。


「あちこち扉を開けてみたけど、特に何もなかったですね」

「そ、そだね。生き物の気配も全然ないし……」


 リリにとっては生き物の気配がなさ過ぎるのも不気味なのかもなぁ。

 虫一匹いないもんな、研究エリアに入ってから。


 廊下にならんでいる扉は片っ端から入って調べているのだが、特にめぼしいモノは見つかっていない。

 室内には色々な魔導装置っぽいものは残っているのだが、動かし方も分からないし用途も分からないものばかりだ。


 しかしそうなると疑問だ。

 一体、ゲームでのレームはどうやって超古代のオーパーツ群を使いこなせたのだろうか?


 途中のゲームイベントでオーパーツを使うまでの経緯はちょっと見れたけど、具体的な流れまでは分からなかったからなぁ。

 予備知識なしだったはずのゲームでのレームが使えたなら、僕にもきっと使えるはずなのだが……。


「う~ん、やっぱあのキャラを見つけろってことなんだろうな」

「ん? な、なに? きゃら?」

「あぁいえ、こっちの話しというか、捜し物の話しといいますか」

「そ、そうなの? って、また大っきな虫みたいなのが!?」

「噛みついてこないので怯えなくて大丈夫ですよ」

「う、うん。頭では分かってるんだけど、まだ身体が勝手に反応しちゃって」

「見慣れないですもんね、そのうち慣れてくれれば大丈夫ですよ」

「ってことは、結構ここに居る予定なんだ……」

「まぁ、はい」


 そういう可能性もある。

 ゲームに置いてはレームにとっての拠点の一つみたいな感じだったしなぁ。




 どれくらい時間が経ったのか? ずっと室内にいるので分かりにくいが、結構な長時間歩き回ったはずだ。


 とうとう、行き止まりの部屋まできてしまった。


「お、おぉ~。結構広いお部屋だね」

「ですね。見てない部屋はもうここだけですし、多分いるはず」

「……いる?」


 リリのなんだか若干戸惑った? 怯えた? 声を背中に受けつつ部屋の奥の方へ進む。

 すると棺桶のようなものが鎮座している空間があった。

 棺桶っていうか、あちこちにパイプや歯車が配置された箱なのだが。


「これっぽいですね。起こしましょう」

「え? レーム君、この箱を探していたの? っていうか、起こす?」


 人間サイズがすっぽり入りそうな棺桶状のナニカ。

 その脇についているパネルっぽいモノに手を翳す。


「契約スキル、発動!」


 スキル発動から一拍おいて、棺桶のアチコチに魔導の光が駆け巡った。

 やはり装置は生きている。


 プシューッ!! と空気が抜けるような音が響いて、棺桶の蓋がゆっくりと開いた。

 棺桶の中に入っていたのは――。


「うわ!? 女の子の、し、死体?」

「いえ、死体じゃないです」


 生きていない、という意味では正解だけれども。

 リリが死体と勘違いした物体の上半身がゆっくりと身体を起こし、クルリとこちらに首を向けた。


 目がばちりと合う。


 もっとも彼女の片目は三つのレンズが集合したレンズターレットみたいになっているから、半分は目じゃなくて光学機器なのだが。


「認証を確認しマシた。契約の更新を承認しマシた。情報の更新を開始しマス」


 目が合ったと同時、彼女が酷く機械的な声色で喋り始めた。


 いや、機械的という言い方はおかしいのかもしれない。実際のところ彼女は機械そのものだろうから。

 より正確には『魔導人形』などと呼んだ方がしっくりくる見た目だけれど。


「更新完了。おはようございマス。マスター」


 彼女は棺桶、もとい保管用だか整備用だかのユニットから立ち上がるとこちらに向かって声を上げた。


 ぱっと見の印象は等身大の球体人形だろうか?

 無論ただの人形ではなく、あちこちに魔導機械っぽいギミックが搭載されているのでより複雑な外見にはなっているが。


「た、立った……しかも、よくみたら凄い美人さんだね」


 うむ。確かに可愛い。

 人間としてみればちょっとアンバランスなパーツもあるが、亜人がいるこの世界では別に違和感にはならないしな。

 リリも普通に亜人の一種、くらいに思っているかもしれない。


「おはようございます。あー、えっと、君は名前とかあったりします? 作った人に呼ばれてた名称というか」


 彼女は僕の質問に即座に答えた。


「前回起動時の情報が一部破損しており現在修復中デス。しかし、そもそも再起動と再登録が行われた以上は新たな愛称の登録を推奨しマス」

「えっと、それって僕に名前をつけろってこと?」

「デス。起こしてマスターになったからには、それくらいはしていただかないと」


 お、おぅ。そういうものなのか?

 う~ん、名前。名前ねぇ。


「リリ、この子の名前って何かいいの思いつきますか?」

「ふぇ!? いきなり名前って言われても、パッとは思いつかないよぉ」


 ですよねぇ。

 う~~~ん。


「あと、一つ質問がありマス。登録情報が『アイドル契約』というものになっているのですが、これはどういう契約スキルを元にしたものでショウか? 検索してもでてこないスキルなのデスが」

「あぁそれは僕の持ってる特殊な契約スキルで…………あっ」


 そういえば、アイドル契約でこの子と契約した以上はこの子もアイドルってことなのでは?

 ってことは、アイドルとしての芸名をつけてあげる感覚でつければいいのでは?


 再度よく目の前の魔導人形を観察してみる。


 白金色の髪の毛を後ろで束ねたような髪型をしていて、頭部には真鍮色をしたカチューシャ(ちょっとアンテナみたいな形にも見えるが)を装着し、服装はゴシックな雰囲気だ。

 ただまぁ、服以上に明らかに人間のものではない異形の前腕――真鍮っぽい色合いの機械アームに真空管のようなものが付けられていて魔導の光を湛えている――だとか、身体のアチコチに見える歯車状のパーツとかの方が目立つ。


 スチームパンクならぬ魔導パンク機械人形、といったところか。

 ただ、間違いなく美形ではある。文字通り人間離れした可愛さだ。

 生命力に溢れた人懐っこい可愛さを持っているリリとはある意味で対極かもしれない。


 うーん……魔導人形、歯車、ロボ、ギア……。


「メタルでマジカルなギア……マジカル・ギア子ちゃんとか……?」

「一応警告しておきマスが、もしソレを当機の愛称にするつもりならばマスターといえどタダではおきません」


 あ、はい。ダメですね、はい。うっす。


 ただではおかないって、機械とはいってもこの世界じゃロボット三原則とかは搭載されてないのかな。恐ろしいなこの子。

 いや、そもそも元のゲームでもレームが引き連れていた仲間の中にこの子はいたし、普通にバンバン人間(主人公)に向かって攻撃してたもんな。


 う~む、ロボの名前かぁ。超古代とはいえ、個人的にはやっぱりロボは『未来』のイメージだなぁ。でもレトロ感もあるデザイン性なんだよなぁこの子。やっぱ歯車目立つし。そうだなぁ……。


「じゃぁ、歯車ミライとかどうです? 普段はミライって呼ぶ感じで」


 元いた世界でいうと、ネットで活躍しているある種のアイドルにありそうな名称を意識してみた。

 こっちの世界では日本名って逆に珍しくていいかもしれないし。


「歯車、ミライ……よく分かりませんがマスターはネーミングセンスが無さそうデスね」


 うるさいな!?


「でもまぁ、いいでショウ。当機の愛称はこれよりミライです。よろしくお願いいたしマス」


 ふわりと綺麗なお辞儀をするミライ。


「あ、こちらこそ。こういう者です」


 こちらも、ペコリと頭を下げる――と同時に。


 <アイドル契約スキル発動>


「なんデスか? この紙は?」


 名刺を受け取るミライを見届けつつ。


「レーム。これって、マスターの名前で――」


 僕は魔力喪失で倒れた。

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