異空のアイドルプロデューサー~ファンタジーRPGの悪役に転生した男が「ここには生きがいの推したちがいない!?なら生み出すしかない!」とスカウト育成を始めたら最強の職業が誕生した~

佐城 明

第1話 アイドルが好きだ

 ――アイドルが好きだ。


 自分は幼少の頃からおかしな子供だったらしい。

 他人には見えないモノが見える。


 それがいわゆる幽霊なのかなんなのか、自分自身は知らないし、今となっては興味もない。

 ただ、そのせいで社会性をまともに獲得できなかったことだけは事実。


 何しろ子供の頃からずっと親にも先生にも『おかしなことを言うな』とか『なぜ普通の子のようにできないの?』と泣かれたり怒られたりしながら育ったのだ。


 気が付いたら他人とまともに喋ることもなくなって、家からでるのも辛い状態になって……。


 ――アイドルが好きだ。


 だからなのか、いつの間にかアイドルが自分にとって心の支えになっていた。


 無償……ではまぁないんだけれど、こんな自分にも輝く笑顔を見せてくれる。

 歌を、踊りを、場合によっては日常の一部すらも届けてくれる。


 アイドルに癒やされて。アイドルに励まされて。アイドルに生かされてきた。

 自分にとってアイドルを推すことは人生そのものといってもいい。


 今の時代は色々な形のアイドルがいるけれど、誰も違ってどれもいい。


 そんな自分なので、当然ながらアイドル育成系のゲームも好きでやりこんでいるわけだ。

 そんで当然、そのアイドル育成ゲームのキャラがコラボしたら、コラボ先のゲームもやらないと! と思うわけで。


「思う、けど。な、なげぇ……」


 コラボ先のゲーム『モンスターソウルクエスト』通称『モンたま』は思った以上にボリュームがあるタイトルのようだ。(ソウルを魂と解釈してモンたま、らしい)


 好きなアイドルキャラをコラボキャラとして登場させるのに、まずはクエストを進めないとなのだが、それがもうかなり長くかかる。


 コラボ期間も決まっているし、他にもアイドルのライブイベントとか色々やることが重なってるいるので必死に徹夜を連発しているのだが……。


「くぅ……ちょっと、限界――――」


 無理が祟ったのか、意識がフッと遠のいていった。







 ――――――ん?


 ふと、意識が戻った。


「あ、あれ?」


 どうなったんだっけ?


 自分は、ゲームをしていて。

 そ、そうだ! どこまでクエスト進めたんだっけ!?


 ガバッと起き上がった瞬間に、違和感に気が付いた。


「へ?」


 自室じゃ、ない?


 見渡せば見覚えのない部屋にいる。

 もしや徹夜の無理が祟って病院行きにでも……?


 いや、違うな。

 自分が倒れていたとしても病院に連れてってくれる人なんていないだろう。

 加えて、明らかにここは病室に見えない。


 なんといったらいいのか、中世ヨーロッパ風の屋敷? の一室? みたいな内装。

 まるで、さっきまでやっていた『モンたま』の世界観にでてきそうな感じだ。


 まぁそんなワケないけどなぁワハハっ――。


 ――立ち上がって、部屋の中に設置されていた鏡の前に立ってみる。


 そもそも、起きた時から猛烈な違和感があったのだ。

 色々ありすぎて理解不能なくらいの違和感があったんだよ……!!


 果たして鏡に映ったのは、見たこともない外人の子供の姿。


 見た瞬間、もう一度気を失った。







 ――アイドルが好きだ。


 あいどる? なんだっけ、ソレ?


「って、何言ってんのアイドルはアイドルじゃん!?」


 んぁ!?


 目が覚めて開口叫んでしまった。

 どうやら、記憶が混乱しているらしい?


 自分は、いや、僕は?


 僕の名前はレーム・ヴェルスタンド。

 そうだ、あの、レーム!?


 レームといえば『モンたま』に登場するキャラクターだ。


 僕は、きゃらくたー……ゲーム、キャラ……。


「うぷッ!?」


 脳みその中が急にシャッフルされたような感覚が訪れて吐き気がする。

 二人分の記憶がめちゃくちゃに混じり合う、何にも例えようのない異様さ。


 吐き気に耐えつつ、なんとか鏡の前からベッドの上に移動して横たわる。

 そうしてしばし休んでいたら、徐々に頭の中で荒れ狂っていた記憶の波が落着いてきた。


「そうか、あのレームなのか」


 レーム・ヴェルスタンド。


『モンたま』はいわゆるファンタジー系の世界観の中で冒険をするRPGだが、その中でのレームは人類種のキャラクターだ。


 ただし、実際のプレイ時に登場する際には人類の敵として出てくる。

 いってしまえばエリアボスの一体、的な存在なのだ。


 ゲーム登場時のレームはもっと歳が上だった。

 今の僕はまだ5歳。

 レームが敵として出てきた時の設定は20歳くらいのビジュアルだったはず。


 ここからは設定上でしか語られてない部分だったが、レームが15歳の時に『人類の敵になる事件』が起きることになる。


 つまり、僕は10年後に人類の敵となって、さらに後々にゲームの主人公に倒されることになるのだ。


「マジかよ…………ん? いや、ちょっとまって」


 そんなことよりも。


「10年の間、アイドルが一切いないこの世界で暮らすのか!? い、いや、それどころか、一生、死ぬまでアイドルのアの字もない、この世界でっ!!?」


『モンたま』の世界では、歌や踊りなどの文化は基本的に禁じられていたりする。

 種族や陣営によって理由は様々なのだが、教会が禁止していたり、歌などはただの攻撃スキルの一種扱いだったり、ともかくアイドルなんてものが存在する余地はない。


「し、死んでしまう……!」


 十何年先には物理的に殺されてしまうし、アイドルがいない以上は先に精神的に死んでしまうだろう。


 何しろレームというキャラもまた、精神的にかなり苦しい人生を送る予定なのだ。

 心の支えもなしに、中身にクソ弱雑魚メンタル現代人が混ざってしまったら、もう死ぬしかない気がする。


 なんなら、ゲーム本編の予定より早く死にそう。

 つんだ? これ人生つんだ?


「いや、まって? もしここが、コラボキャラも来る世界線だったら?」


 そうだ。

 なんでこんな事態になっているのかは皆目分からないが、僕が直前までやっていたゲームはアイドルキャラとのコラボイベント中。


 コラボキャラはあくまで『おまけストーリー』的扱いでしか出てこないから本編には絡まないが、もし彼女たち『推しアイドルキャラ』がこの世界にも登場してくれるなら……。


「い、生きれる! 僕はその為にはどんなことをしても生きていきたいっ」


 コラボキャラが登場するかどうかハッキリ分かるのは、ちょうどレームが人類の敵になることが確定するイベントの時になるだろう。


 すなわち、レームが『ジョブの鑑定』を教会関係者から受ける日だ。


 ジョブの鑑定はこの世界の人間だったら基本的には全員がする儀式だが、特に貴族――辺境伯の子供であるレームは教会関係者によって行われる。


 まぁ、レームはそのせいで『異端のジョブ』を得たことが教会関係者に知られてしまい、悲劇が始まってしまうのだが。


 そこで、ジョブ鑑定の前に教会関係者に『異空からの訪問者』について聞けばいい。

 教会関係者だったら『異空からの訪問者=コラボキャラ』について情報を知っているはずだ。


 もし教会関係者が異空からの訪問者について何も知らないのなら、今いるこの世界にはコラボキャラなどというメタ的要素は存在しないことになる。


 問題は……。


「もしもアイドルの子たちが来たとしたら、彼女たちも戦いに巻き込まれるってことか」


 この世界は常に戦いが巻き起こっているといってもいい。


 人類種、亜人種、魔人種。そして魔物。


 各種族が色々な形で敵対しあっている状態が数百年続いているのだ。

 なんでそんなことになっているのかは、正直まだゲーム本編シナリオをクリアまではしてないからよく知らないんだけれども。


 とにかく、アイドルの子たちも戦うことになる可能性が高い。


 ゲームなら仮にやられてしまっても問題にはならないだろうが、この世界においてどうなるのかは不明。

 で、あるからには僕のするべきことは一つ。


「今から可能な限り強くなっておいて、アイドルを守る存在になるしかない!」


 あと、強くなっておかないと自分が死ぬことになるしね。イベント的に。

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