進軍開始!






 征伐隊参加者は、防壁六番大門前に十時集合。


 ナシラ支部での一件の際、エキットラ氏より受けた通達。

 どっかの厨二病は待ちきれないあまり、夜中の二時に俺達を叩き起こしてくれたワケだが。

 何考えてんのマジ。


「端数を省けば国軍、傭兵、共に五百ほど。述べ千人少々が此度の総勢となる」


 整列する征伐隊の姿をスマホで写真に収めつつ、小気味良く指を鳴らすジャッカル。


 ……千人か。ノックス盗賊団が最後の襲撃をかけてきた時、確か百人くらいだったから、その約十倍。

 予算や準備期間の都合と照らし合わせ、動員可能な大体の上限値らしい。


「事前調査団の報告を盗み聞いたところ、主な討伐対象はゴブリン。勢力圏拡大を図った敵対種に敗れた際、結構な数の生き残りが逃げ延びたとか」


 盗み聞き云々は聞かなかったことにするとして、要は残党狩りね。


「うーむ。俺様、例え魔物相手でも敗者に鞭打つのは気乗りせんなぁ……」

「…………雑魚に興味ない……わ」


 どうやら食指が動かぬ模様の怪物コンビ。

 対しジャッカルは、どこか含みのある顔で高笑った。


「クハハハハッ! 腐るな腐るな、心配無用! そも君達にとって征伐自体、メインディッシュを控えた上での前菜! 単なるだ!」






 国軍は国軍、傭兵は傭兵で大まかに固まった二色の武装集団。

 そんな群体の前に立ち、演説だか訓示だか激励だかを並べる、国軍側の指揮官らしき鎧姿のオッサン。

 その横には総責任者たるエキットラ氏の姿も見えた。同じく何か喋ってる。


 尤も、最後尾の更に後ろで屯する俺達には内容全然聞こえないけど。講堂とかならまだしも、屋外だもの。

 欠伸出そう。どこの世界も偉い奴の話が長いのは同じですか。


「お待たせしやっしたー。ピザのお届けでーす」

「む、来たか」


 虚空より現れたカラフルな制服の配達員に、銅貨で支払いを済ませるジャッカル。

 自由過ぎだろ。俺も頂くけど。タバスコ取って。


「なんでアイツら飯食ってんだ……てか、何食ってんだ……?」

「馬鹿、目ぇ合わせるな! ランパードさんを半殺しにした例のイカレ共だぞ!」


 遠巻きに向けられる視線が些か痛い。

 尾鰭の付いた話も出回ってるし。噂とは恐ろしいもんだ。






 食べ終え、空箱を片付け始めた頃合。何か、大きなものを動かすような音が響いた。


 十字山脈へと続く巨大な門扉。

 それを鎖す、鉄骨と見紛う九本の閂が、上から順繰りに一本ずつ取り除かれて行く。


「クハハッ。まあまあの演出だな」


 次いで低く鳴り渡る、悲鳴じみた軋み。

 全て機械仕掛けなのか、手動による形跡は無い。


 程なく――門は開かれた。


「いざ出陣也。軍勢ゆきゆきて幕は上がる」


 ジャッカルの独言より一拍。エキットラ氏が陣触れを叫び、轟く咆哮。

 土を踏み締める具足、擦れ合う鎧の放つ、どこか喧騒にも似た金属音。

 征伐隊の面々は続々と大門を、延いてはその碧落に待つ戦場を目指し、進み始めた。


 ――じゃ、シンゲンもハガネも気を付けてな。


 数日お別れか。少しは静かに過ごせるし、膝も軽くなる。

 そんなことを思いつつ、二人へ手を振る俺。


 すると。ジャッカルが。


「何を言ってるんだキョウ。君もオレもカルメンも行くんだぞ?」


 ………………………………。

 ……………………。

 …………。


 え、ちょっと。嘘だろオイ。





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