一章 一節 一項

七日目の朝






「オレ達に備わったチート能力の実在、とうとう突き止めたぞ!」


 朝も早いってのに、大声で何寝ぼけたこと言ってんだろコイツ。

 いや、早朝だからこそ実際寝ぼけてるのか。顔洗え。


「ジャッカルさん。他のお客さんも居ますので、騒ぐのは程々に」

「む、済まない若女将」


 俺達一行が逗留してる宿屋の娘さんに注意され、佇まいを直すジャッカル。

 異世界こっち来て早くも一週間。イコール滞在期間。順調に扱い方を覚えられつつある。


「おはようございます。今朝のご飯はバケットとベーコンエッグですよぉ」

「焼きたては匂いから違うな! が、欲を言えば俺様、米が恋しくなってきた頃だ!」


 ナイフでパンを切り分けながら挨拶するカルメン。それを空きっ腹抱えつつ、どこか物足りなさそうに見るシンゲン。

 気持ちは分かる。一週間連続で米が食えないのは俺も辛い。おにぎり食べたい。


「…………すやぁ」


 ――起きろハガネ。飯だぞ。


「…………むにゃ……寝てない、寝てない、わ」


 椅子に座ったまま居眠るハガネを起こし、五人で食卓を囲む。

 しかし、この朝食の度に出る謎の野菜、マジでなんなんだ……。






「喜べ! これで我々もチート持ちの仲間入りだぞ!」


 食い終わって早々、またジャッカルが騒ぎ始めた。

 俺達は、これを特有の発作みたいなものと扱ってる。病名は勿論、思春期に患う奴が多いアレだ。二十歳まで引きずるとは可哀想に。

 昨日はステータス画面を開こうと試行錯誤してた。踊ろうとも叫ぼうとも、結局出なかったが。


 ……どうでもいいけどコイツ、結構身長あるのに座高低いな。

 座っただけで、ひと回り小さく見える。


「うーむ。つっても俺様、別にチートなんぞ要らんのだが。男は裸一貫で崖を登るもんだ」

「…………与えられただけのものを……ひけらかす、恥知らずには……なりたくない、わ」


 流石、素で人ならざる領域に踏み込んだバケモノ達は硬派ですこと。

 俺は貰えるもんなら取り敢えず貰いたいね。人間だもの。


「そもそも、ジャッカルさんが仰ってる不思議な力とか、流石に信じ難いんですけどぉ」


 疑わしげに小首を傾げるカルメン。

 いや、二頭身と八頭身を行き来する不思議生物が言う台詞かそれ。

 考え方次第じゃ、この面子で一番のUMAだぞアンタ。


「クハハハハッ! 御託を並べる前に刮目せよ!」


 高笑いしながらスマホの画面を突き出すジャッカル。

 朝食の最中にでも撮ったのか、俺達四人が写っている。


 だからどうした。


「…………食べてる姿を撮るなんて、悪趣味、よ」

「それについては謝ろうハガネ。ごめんなさいね」


 ここまで謝意が薄っぺらなゴメンナサイとか、十六年の人生で初めて聞いたわ。

 しかもハガネ相手に。俺なら無理、絶対無理。怖過ぎ。


 ――で、その写真がなんなんだ。


「よくぞ聞いてくれたキョウ! 昨晩寝る前に気付いたんだが、スマホに覚えの無いアプリが幾つか追加されていてな! その中に、写真の画像を解析できるものがあったのだ! ビバ鑑定スキル!」


 曰く、写ってる物品や人物などの詳細を明らかにできるとのこと。

 そして試しに自分を解析した結果、チートの存在に関する表記を見付けたらしい。


「ホントにあったんだな、異世界特典。俺様てっきり厨二病の妄言だとばかり」

「クハハハハッ! 失礼千万なニシローランドゴリラめ、だが許す! 今日のオレは気分がいいからな!」


 シンゲンからの中傷もどこ吹く風、再度高笑うジャッカル。アンタも大概失礼だよ。

 今回の発見が嬉しくて仕方ないのか、やたらテンション高い。

 あ、いや、大体いつもこんな調子だったわ。


「待て、しかして希望せよ! このオレが君達に隠された超常なる力を今、丸裸に暴いてくれようぞ!」


 言うが早いかジャッカルはアプリを起動し、俺達の写真を解析にかける。

 どうでもいいけど仰々しい台詞の割、絵面かなり地味。


「……まあ、四人分の解析を終えるまでには八時間ほど要るのだが。付け加えると、マシンパワーを食いまくるせいで他の機能も殆ど使えなくなる」


 なっげぇなオイ。





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