バケモノ






「ブロォォオオオオオオオオッ!!」


 周囲の木々を揺らすほどの咆哮と共に放たれたロングアッパー。

 豚と鬼を足したような造形の怪物が、三メートルはあろう体躯の十倍近い高さまで吹き飛び、数秒後に地面へと叩き付けられ、息絶えた。


 …………。

 人間の腕力じゃねぇ。


「がははははっ! ブルドーザーも一発でスクラップにするパンチだ! 肉体労働者を舐めるなよ!」


 豪快に笑いながら振り回される、丸太みたいなシンゲンの腕。

 巻き起こる風が、立ち位置の離れた俺にまで届いている。

 怖っ。


「…………おわり」


 重ねて、一方。

 弾丸が如き速度で縦横無尽に飛び回ってた巨大蜂を百匹以上、拾った棒切れで、ものの十秒かそこらで残らず叩き落としたハガネ。

 しかも全ての蜂の顎と翅と毒針の三点を、寸分違わず的確に砕いてる。蟲の類は頭を潰すくらいじゃ即死しないのも多いから、それを留意したのだろう。


 …………。

 いやいやいやいや。不可能だからね、こんなの。

 塚原卜伝の亡霊でも取り憑いてんのか、このJC。


「ふっ。流石オレと共に異世界へ渡った同志達。早くも特典チート能力を使いこなしている」


 木を殴った所為で右手が腫れたジャッカルさんは、何故あの怪物コンビに上から目線スタイルが取れるのか。

 そんな疑問は、直後二人が放った台詞によって砕けた。


「特典チート? 俺様、元々これくらい普通にできたぞ? 現場の仕事じゃ、筋トレ代わりに鉄骨とか纏めて担いで運んでたしな。軽いもんよ」

「…………わたしも……自前、よ」


 チート能力だと言われた方が、まだ納得できた。

 超人ってホントに居るんだ。世界は広い。


「……これも人類の可能性か」


 神妙な顔で頷くジャッカル。

 尤もらしい台詞で流すな。でも参考にしよ。


「あー。時にキョウ、カルメン。まさか君達も、あのゴリラさんチームの同類とは言わないだろうな……?」


 戦々恐々と聞かなくても大丈夫だよ。あんなのと比べたら、俺は普通に人並みだから。

 カルメンも、たぶん違う。ここまで歩いた十分かそこらで五回は転びそうになってたし。体幹が強いのか、間際で堪えてるけど。

 少なくとも武闘派の匂いはゼロ。


「とてもとても、全然ですよぉ。精々マルチーズ五匹分くらいかと」


 ほらね。例えは今ひとつ分かり辛いが。

 ちなみに俺は秋田犬三匹分ってとこ。


「あ、でもでもぉ。お口をバッテンには出来ますよ?」


 ――どうやってんのソレ!?


「妙技カルメンッフィーでぇす」

「語呂悪っ! でもすげぇ! 隠し芸大会とか大盛り上がりだな!」

「…………驚異的」


 口が、口が×の字型に。

 漫画的な表現だろ、あんなの。なんで実際にできんだ彼女。


「ふふっ。あと、こういうのもやれちゃいまぁす」


 絶句する俺とジャッカルを余所、シンゲンとハガネに持ち上げられて気を良くしたらしいカルメンが、更に芸を披露する。

 なんと。しゅるしゅると音を立てて、


 もう一度言う。縮んだ。


「」

「」

「」


 ――――。


「きゃーっ♪」


 デフォルメ化された二頭身の姿になり、その辺を駆け回るカルメン。

 そんな信じ難い光景を目の当たりとした俺達は、誰一人、声も出せなかった。





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