獣魔戦争  挟撃作戦 7

 一方で、防壁の上にいた飛行部隊の8人も、マイネーの突撃と共に、空に舞い上がっていた。

 片方2.5メートル程の翼を腰の上辺りから生やし、顔には嘴が伸びる。全身を羽毛が覆い、足の形が変形して足の指、爪が伸びる。尾羽が腰の上辺りから長く伸びる。羽根が伸びると共に、体の全体的な大きさが縮む。

 獣人化ならぬ、鳥人化した姿で、弓矢、槍を装備して空に舞い上がる。

 バレルとその部下7名は、弓を持って、空からモンスターを射止めていく。

 下から放たれるモンスターの矢は、上空のバレルたちには届かないので、一方的な攻撃だ。

 ただ、矢の数にも限度があるし、一矢放つのに、最短でも2秒以上掛かってしまう。飛行部隊は一射4本の矢を放てる。だが、8人では、この数のモンスター相手には焼け石に水である。

 矢が尽きると、すぐに防壁に舞い戻って、着地する事無く空中で矢筒を投げ渡され、また戦場の空に戻っていく。

 さすがにバレルの表情にも難色が見える。

「族長、これはちょっとマズいですよ」

 誰に言うでも無く、つい口をついてしまう。


 その時、敵本陣から飛び上がる巨鳥の姿が見えた。その数30あまり。

 巨鳥の群れは、真っ直ぐバレルたち目がけて飛んでくる。

「くそ!ハーピーまでいやがる!!」

 バレルが呻く。


 ハーピーは下半身と両手が鳥、体と顔が人間の女の化け物で、顔は醜く、とにかく臭い。糞尿まみれな匂いがする、恐ろしく不快な化け物である。男を掠って無理矢理交尾してきたり、子どもを好んで喰らうという、おぞましさの塊のような存在である。

 

 バレルは仲間たちに合図を送る。

 迫り来るハーピーの群れを見て、飛行部隊は弓を投げ捨てて、背中の長槍を構える。

 槍の柄に付いた革を編んだ紐をほどく。長さ4メートルの革紐の端は輪になっていて、それを腕にはめる。槍の穂先は長く幅広で、両刃の剣の様になっている。刃渡り80センチにもなるので、槍として振り回すのに、相当な力がいるが、バレルらは鳥人化すると、一見華奢になったように見えるが、その実、人の姿でいる時よりも、遥かに身体能力が上がる。空中で飛行しながらでも楽々槍を振るえた。

 

 バレルは、迫り来るハーピーに、自らも突っ込んでいく。素早くすれ違い様に、長槍でハーピーの羽根に切りつける。ハーピーの赤茶色く汚れた羽根が飛び散る。

 更に空中で急停止、急旋回して上方にいた別のハーピーに下から槍を投げつける。

 長槍が、ハーピーの足に刺さる。バレルはすぐに腕を引き、右腕に巻き付けた革紐を手繰る。革紐は長槍の柄とつながっているので、ハーピーの足から引き抜かれてすぐにバレルの手元に戻る。

 飛翔しながら槍を引き戻すバレルの背に、ハーピーのかぎ爪が迫る。

 ハーピーはバレルたち鳥獣人と違って、腕が無く、翼になっている為、攻撃手段は主に足の爪である。

 爪には即効性の毒は無いが、病原菌まみれなので、治療しないと化膿して、高熱、嘔吐、腹痛、最悪死に至る。とは言え、魔法や、薬で治療可能である。

 他には翼で打つ、噛みつく、唾を吐きかけるといった攻撃のみである。牙にも唾にも病原菌がうようよいるが、即効性のあるものでは無いので、足の攻撃だけに気を付ければ良いのだが、数はハーピーの方が多い。

 

 バレルたちが弓矢を捨てたのは、飛行戦では、弓矢はほぼ役に立たないからである。互いに高速で飛びながら、弓矢で狙っても当たらないのだ。その為、飛行戦は、飛行格闘となる。

 早く飛び、早く旋回、方向転換が出来る方が有利である。

 その点ではハーピーはバレルたちに比べると、格段に飛ぶのが下手である。

 バレルたちよりも下半身が肉厚で、明らかに重い。その上、翼が短い。

 力はあるが、飛ぶのは遅いし、方向転換も、それほど素早く出来ない。武器も足だけのハーピーに対して、バレルたちは、腕がある分槍などを使える。

 もちろん鳥獣人も鋭いかぎ爪があるので、足も武器として使えるが、バレルたちは誰も、己の足のかぎ爪を使おうとせず、槍での戦闘を行う。

 しかもバレルがやったように、槍を投げての戦闘が主となっている。

 それでは、最大の有利さを生かし切れていないのはバレルにもわかっているが、どうにも戦闘方法が消極的になっている。その理由も充分わかっている。

「ちっくしょう!くっせーんだよ、てめぇらは!!」

 バレルが毒づく。即死系の毒は無いが、ハーピーのつばを喰らうのは、ある事情から特に避けたい事態だったのだ。

 だが、空での戦闘に手こずれば、地上で1人戦うマイネーを支援できなくなる。

 

 上空で戦いながら、地上の戦闘に目をやると、味方の右翼が町の北側の森の裏から、勢いよく敵の最左翼の部隊、つまりカシムたちが付けた番号では、第五軍団に対して、横からの突撃を仕掛けていた。

 味方右翼はケンタウロスのイシニティーとサル獣人のラニカ老が率いる105人の獣人部隊だ。

 タイミングも良く、予定通りの行動だ。

 逆にカシム率いる味方左翼の動きはまだ見られていない。


 しかし、敵第五軍団は、カシムが予測した通りに、横撃に備えていた。第五軍団は素早く向きを変えると、盾を構えて、獣人たちの突撃に耐える。

 すると、獣人部隊の背後の森の中から、敵の一団が現れた。そして、突撃の勢いを殺された獣人部隊の後方から挟撃の形で襲いかかる。

「ああ!!マズイ!マズいぞ!!族長が言っていたのはこの事だったのか!!」

 バレルが唸ると、仲間たちに甲高いハヤブサの鳴き声で合図を送る。

 仲間がハーピーと戦闘しながらもバレルの近くに集まる。「お前ら!臭いのは我慢して、速攻でハーピーどもを片付けるぞ!!どうも地上戦は分が悪い!!急いで援護しなきゃならん!!」

 高速で飛行しながら、バレルが声を張り上げる。部下たちも地上の様子を見て表情を引き締める。

「ただし、奴らに唾をかけられた奴は『エンガチョ』だからな!」

 バレルのジョークに部下たちの緊張も解ける。

 空中でひと笑いしてから、素早く散開する。

 部下たちが槍を手にしたままハーピーに接近戦を挑むのを確認してから、バレルが地上の様子を眺める。

 味方右翼部隊は、完全に挟撃されて、二正面での戦闘を強いられて前にも後ろにも進む事が出来なくなっている。混戦状態である。

 マイネーも、一方的に敵を蹴散らしてはいるものの、完全に前進は止められ、包囲されている。

「あの『鷹の目』の孫は何をしている?!」

 バレルが南の森の方を見やるが、バレルにも3体のハーピーが迫ってきている。バレルも槍を構えて、一番近いハーピーに突っ込んでいった。

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