黒き暴君の島 湯煙の2人 2
そんな事を考えている内に、部屋に着いた。
「お客様のお部屋はこちらです。お連れ様2名は、もうこちらの部屋に入っておりますよ。」
おばちゃんは隣の部屋のドアを指し示してから「では、ごゆっくり」とお辞儀をして廊下を歩き去って行った。
俺は取り敢えず、隣の部屋をノックする。
「リラさん?いますか?」
すると中から返事がある。
「は~い!」
ミルが元気よくドアを開ける。
「お兄ちゃんお帰り!!」
ミルは
「キャーーーー!?ミル!いきなり開けないで!閉めて!閉めて!!」
リラさんの叫び声に、チラリと部屋の中を見る。すると、下着姿で、脱いだ白い長衣を前に抱え持って必死に隠そうとするリラさんの姿が見えた。お互いに目が合う。
「うわあああ!?」
俺はあわてて、飛び付いて来かねないミルを突き飛ばして部屋に押し込むとドアを閉めた。ゴンッと、室内で倒れたミルが、何かにどこかをぶつける音がした。すまん、ミル。
部屋の中でもめている騒ぎ声が聞こえた。
「ミル!勝手にドアを開けちゃダメでしょ!?あなたも女の子なんだから、そんな恰好でカシム君の前に出て恥ずかしくないの?!」
「あたしのは、下着だけどパンツじゃないから恥ずかしくないよ!ハイエルフの伝統装束なんだから、むしろ誇って見せるべきだって言われてるもん!!」
「なにそれ?!」
「リラだって、いつもパンツ見えそうな服着てるじゃん!!」
「な!?何ですって!!これは私たちの民族の正装です!!誇るべき装束なの!!」
「ミルと同じじゃん!!」
「違います!あなたのは伝統的でも下着です。パンツじゃなくても下着です!!」
「なんで?!男の人は街中でも下着姿で歩いてたり、上裸の人も結構いるじゃん!女の人でも下着みたいな姿でウロウロしてる人もいるじゃん!」
「あ~~~いう人たちは、あ~~~いう人なの!」
「よくわかんない!」
「・・・・・・とにかくもっと上品にしないと、カシム君には嫌われるわよ。カシム君は騎士の家の人なんだから。すごいお嬢様やお姫様たちとばっかり会って育ってきたんだから」
「ええ~~~。じゃ、じゃあ、気を付けるゥ~・・・・・・」
2人はドアの前で口論しているらしくて話しが筒抜けだ。
まあ、ミルの説得は終わったようだが、何だか2人とも子どもみたいな言い合いになっていた。
それと訂正しておくが、俺はすごいお嬢様たちと楽しく会話などした事はない。社交辞令的挨拶をしたぐらいだ。しかも数回のみ。すごいお姫様はアクシスくらいしか知らないし、あいつは別の意味ですごいお姫様なのだし、俺にとっては妹でしかない。
情けない事に女性への免疫が極端に低い。そのくせ、女の子に興味もある年頃なのだ。あまり刺激しないでもらいたい。
とは言え、いつもの恰好とあまり変わらない姿しか見えなかったが、リラさんのエッチっぽい姿が一瞬見られたのはラッキーだった。ミルの下着姿には何の感慨も湧かない。
ファーンは、そんな騒動にあきれ顔だ。こいつ結構クールだよな。
しばらくすると、リラさんはたまに宿で着るゆったりした薄水色の、丈の長いワンピース(スリット無し)に着替えてドアを開ける。
「お、お待たせしました・・・・・・」
リラさんの顔赤い。
「み、見えました?」
俺はあわてて首をブンブン横に振る。
「いや、見てませんよ!見えてません!!」
チラッとしか見えていない。とは言え、お互い目がバッチリ合っていたのだから、チラリと見えた事はバレバレのはずだ。
「あたしは、お兄ちゃんになら見られても平気なのにね~~!」
ミルが笑って出てくる。ミルもゆったりとした丈の短いワンピースに着替えている。色は薄黄緑色なので、ミルのエメラルドグリーンの髪によく似合う。精装衣は脱いでいるので、今はワンピースの下には正真正銘の下着を身につけているはずだ。確認するつもりは無いが・・・・・・。
「ミル。今はちゃんとパンツはいてるんだろうな~」
ファーンが俺と同じ疑問を感じたのか、笑って聞いてくる。コイツ、変態扱いされる事をちっとも恐れていない!?ヤバい奴なのか凄い奴なのか?!軽く畏敬の念を抱いてしまったではないか。
「今はパンツだよ!見る?!」
ミルがスカートの裾をつまんで引き上げる仕草をする。その頭をリラさんがポカリと叩く。
「ヒッヒッヒッ!精装衣だろうがパンツだろうが、結局見せるんじゃねーか!」
ファーンが可笑しそうに笑う。
「だって、今日街で買ってきたばかりのパンツだったんだもん!」
ミルが胸を張る。
「でも、ま、リラの言う通り、程々にしないとカシムおにーちゃんに嫌われちゃうぞ、ミル」
ファーンがミルの頭をなでる。
「うん。わかった!」
ファーンは子どもの扱いがとても上手いし、ミルは素直だ。俺とリラさんは胸をなで下ろす。
「でも、あたしはカシムお兄ちゃんが大好きだから遠慮なんてしないからね!!」
ミルの宣言に、リラさんがもの凄い表情でミルを睨み、続いてこっちを睨む。俺は理不尽な状況にも、リラさんに対して必死に首を横に振る事しか出来ない。
「その意気や良しだが、張り切りすぎると逆効果にもなるからな。ま、応援はしておくよ」
「ありがとう、ファーン!」
何か2人で話しがまとまった様なので、話題を変えるべく俺はリラさんに尋ねた。
「リラさんはこれからお風呂ですか?」
部屋から出てきた2人は、それぞれにタオルを手にしている。
「ええ。今ならお風呂はすいてるっていうから・・・・・・」
リラさんは混浴は避けたい様子だ。それなら都合が良い。
「俺はこれから少し街に買い物に行きますので、ごゆっくり」
「そうですか。行ってらっしゃい。ファーンは?」
「ああ。オレも買い物があるんだよ。だからその後まで風呂は我慢だな」
「じゃあ、私たち2人は先にお風呂に行ってますね。買い物ごゆっくり」
そう言うと、ミルと手を繋いで風呂場に向かっていった。ミルが俺に手を振るので、俺も手を振り替えしてやる。
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