4 会長とハグ

 3


「ふわぁーあ……」


 翌日、昼、中庭、ベンチの上。


 前夜は妙に興奮し、なかなか寝付けなかった。

 まさか、我が家にサキュバスがやって来るなんて……。

 夏に不思議な出会いと体験をして一皮向けた男の子になる、そんなジュブナイル小説の主人公になった気分だ。

 これはまだ誰にも言えないな。


「ニャー?」

「んー? ただの考え事だよ」


 僕の膝の上でゴロゴロする【キツネ】に心配された。

 そうそう、キツネってコンコン鳴かずにニャーニャー猫みたいな声出すんだよね、犬科なのに。

 てかこの子、今更だけどどこから来たんだろう?


「ウカ」


「おや、セレス。ご苦労様」

 いつものように、生徒会書記様が空の弁当箱回収に来て下さった。


「『今日は』キツネ?」

「そ。昨日はタヌキ。いや、アライグマ? レッサーパンダ?」


 手を伸ばし、キツネの頭を撫でるセレス。

 キツネも気持ち良さそうに目を細める。

 こう見ると人懐っこく見えるが、この子『達』がこのように懐くのは『僕とセレス』のみ。


「もふもふ」

「冬にはもっともふもふだろうねぇ」


「や、やぁ、こんにちは」


 ふと、こちらに向けられた声。

 誰だと思って顔を上げると……


「どうしたの、会長」


 セレスが告げたその相手は、僕が気になる張本人。

 夢先カヌレ。

 今日も今日とておっぱいが豊満で、組んだ腕の上にズシリとのっていた。

 強調。

 まるで、僕に『見せる』ように。


「い、いや、思えば、『彼に』ちゃんと『挨拶』した事が無いと思ってね」

「彼。ウカに用事?」

「そ、そうだよ」


 ふむ?

 いつものカラッとハキハキ堂々とした会長では無いな。

 どこかオドオドと挙動不審。


 --既視感。


「コイツなんかに挨拶する必要、あるの?」

「おいセレス、あまり僕を怒らせるなよ?」

「うるさいナマケモノ」

「なにぉぅこのまな板め」


 グニーとホッペを抓り合う僕達。

 お互い、この勝負で引いた事が無い。

 大抵、


「ふ、二人とも、やめなさいっ」


 誰かに止められるまで。

 逆に言えば、止められたらすぐ止める意志の弱さ。


 --会長と目が合う。


 ドキドキと早くなる鼓動。

 一瞬、慌てたように逸らされたが、すぐに視線を戻して、


「あ、改めて。こんにちは、箱庭ウカノ君」

「えいっ(ギュッ)」


 不意打ち。

 僕は会長に抱き付いていた。


「え」


 ピタリと止まる会長。

 ふむ……フワッとした抱き心地……この感触は……。


「こら」


 セレスに襟を掴まれ、猫のように引き剥がされる。


「にゃー、何するのさ。もう少しで何か『わかりそう』だったのに」

「アンタの方が何してるの、唐突に」

「印象つける為に先制攻撃しなきゃって」

「悪印象はつけられたかもね。ごめん会長、この通り、変なやつだから」

「……あ……う、うん、大丈夫。聞いた話の通り、面白い子、だね? 私はす、好きだよ、ストレートな子は」

「ならもっかい良い?」

「お、おう。どんとこいっ」

「会長。このアホに付き合わなくていいから」


 もちっと抱きたかったのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る