第9話 春夏秋冬
四人で帰り道を歩くのが、もう定番となりつつあった。
だいたい尾崎と木下が先を歩いてじゃれ合い、その後を俺と川内でついて歩く。俺は自転車を引いて歩いていて、カゴには四人分のカバンが入っているのもいつものことだ。
「いっつもごめんね」
と川内は申し訳なさそうに言うが、尾崎と木下は二人して「ラッキー」と言うだけだ。
「お前ら、仲ええよのう」
先を歩く二人に向かってそう言うと、二人は同時に振り向いた。
木下は少しだけ考えるような素振りをしたあと、口を開く。
「まあ、悪うはないよのう」
「兄弟みたいなもんよ。腐れ縁じゃし」
その尾崎の言葉に、木下が少し落胆したような表情を見せたのは、気のせいではないと思う。
「尾崎は出来の悪い妹みたいなもんじゃけえ」
木下が気を取り直してからかうように言うその言葉に、尾崎は目を吊り上げた。
「はあ? 出来の悪い弟はあんたじゃ。ウチのほうがお姉さんじゃろ? 生まれたんも先じゃし」
「たった半年じゃろうが」
「半年は大きいわ」
肩をすくめて尾崎が言う。ぶっちゃけ、どっちもどっちだと思う。
しかし木下は気に入らないようで、反論を続ける。
「いや、半年もないわ。お前が七月生まれで、ワシは十二月じゃし。五ヶ月しか違わん」
「細かっ」
そこで、ふと気付いた。
「ああ、もしかして、夏生まれで千夏なんか」
俺の言葉に、尾崎はにっこりと微笑んだ。よくぞ気付いてくれました、と顔に書いてあった。
「ほうよ。ほいで木下が冬生まれで隼冬」
尾崎は木下を指差しながら、そう言う。
「二人ともが、生まれた季節の名前?」
まあ珍しくもないのかもしれないが、幼馴染の二人が揃って、というのは意図的なものを感じる。
「ウチら、母親同士が仲ええんよ」
「そうなん?」
「ご近所で、同い年じゃけえか
「ほいで、ウチが生まれたとき季節が入った名前がええ言うて千夏になったんじゃけど、木下のおばさんが、それええね、って。じゃけえ、木下の名前はウチのパクりよ」
「パクり言うな!」
そう軽快に二人が言い合っている。夫婦漫才か。
「あっ、あのね!」
しかしふいに川内がそう呼びかけて、皆がいっせいに川内のほうに顔を向けた。それに驚いたのか、川内はまたうつむいてしまう。
「あ、ごめん……大した話じゃないけえ……」
そう言って、次の言葉を発しない。
「なんじゃあ、言いかけたんなら言えや」
「え……あ……」
木下の言葉が強すぎたのか、川内はますますうつむいてしまう。
尾崎が慌てたように川内に話し掛けた。
「なに? ハルちゃん、気になるわあ」
明るい声で、そして労わるように、尾崎は言葉を紡ぐ。
どうも川内は、内気にもほどがあるような気がする。人の話をニコニコといつも聞いているし、相槌を打つ程度に話したりはするが、自分で発信することはほとんどない。
ちょっと、極端な気がする。
尾崎が根気強く川内をうながして、そして彼女はようやく口を開いた。
「あの……あのね、四人全員……みんな、季節が入っとる名前じゃなって思うて……」
ぼそぼそとそんなことを言う。
「え?」
俺たち三人は、首を傾げる。四人全員?
尾崎千夏。木下隼冬。この二人はわかる。
残り二人。
川内遥。
「ああ、ハルちゃんもハルが入っとるよね」
「え、じゃあ神崎は?」
神崎孝明。
パン、と尾崎が手を叩いて、「ああ!」と声を上げた。
「アキね! なるほど!」
「ホンマじゃ! 春夏秋冬、全部おる!」
尾崎と木下が、興奮気味にそんなことを言っている。
遥、はハルから始まるから、それもなんとなくアリなような気もするが。
「いや……俺だけなんか強引じゃない……?」
「細かいことはええじゃんか。揃っとるんが大切なんよ」
そう言ってから、二人は川内のほうに振り返る。
「よう見つけたねえ」
「ホンマよ」
川内は、照れたように頬を紅潮させている。だからもう、水を差す気はなくなった。
「俺、今、アキが入っとって良かった思うた」
「一人だけ仲間外れになるもんね」
そう言って、みんなで笑って盛り上がる。
川内は、ずっと嬉しそうに微笑んでいた。
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