第5話

あいつ(フィリップさんとリコンするから、表記変更する)の家を飛び出したアタシは、再びナスティアが暮らしているアパートへ転がり込んだ。


ナスティアが暮らしているアパートの部屋にて…


アタシは、ナスティアにあいつの家から逃げ出したことを泣きながら話した。


ナスティアは、くすんくすんと泣いているアタシに言うた。


「フィリップさんの家から逃げ出したのね。」

「もちろんよ…ふたりきりで結婚生活をおくろうねと言うてウソついた…新生活三日目にあいつの両親と妹が土足で上がり込んだけん…夫婦生活がこわれた…くすんくすんくすんくすんくすん…こんなはずではなかったわ…」


ナスティアは、くすんくすんと泣いているアタシに言うた。


「アリョーナ、あんたはフィリップさんと今すぐ離婚したいの?」

「言わなくても分かるでしょ!!義母が大病で倒れた…義父と義妹は、メソメソと泣いている…なさけないわよ!!…アタシ、あいつと結婚をしたことを後悔しているのよ!!」

「後悔しているのね。」

「あいつもあいつよ!!家出をして行方不明になった…だから、リコンしてやる!!」


アタシは、テーブルに顔を伏せてワーッと泣き叫んだ。


アタシは、あいつとすぐに離婚をしたい…


けれど、大きなカベがあった。


ひとつは、義母の介護である。


あいつが家出して行方不明になった。


義父と義妹が無気力状態におちいった。


コートダジュールに住んでいる二組の義兄夫婦に介護のお願いをしたい…


けれど、義兄夫婦二組は拒否するので全くアテにできない。


そして、あいつの家庭を取り巻く問題などが山積されている。


だけど、アタシは助けることはできない。


8月29日のことであった。


アタシが朝のバイトをしているサンルイ病院のリネン室にて…


アタシは、一緒に仕事をしている60代の女性からあいつとよく似た男が、区役所の制服姿の女と密会をしているところを見たと聞いた。


60代の女性は『いいにくい話なのだけど…』と口ごもった声で言うてから、アタシに言うた。


「アリョーナさん…この最近、フィリップさんの勤務態度が悪いみたいねぇ~…区役所の女の職員とフリンしていることを聞いたわよ…どういうことかしらねぇ~」


年輩の女性があいつが職員の女とフリンしていることを言うたので、アタシはひどく動揺した。


さらに年輩の女性は、アタシに信じられない言葉を発した。


「あのね…うちのむすめから聞いた話だけど…ううん、やめておくわ…」

「あのー、どうかなされたのでしょうか…娘さんから聞いた話を教えてください。」

「分かったわ…それじゃあ聞いてちょうだい!!フィリップさんと区役所の女性職員のフリンが原因で…男性職員がやめたのよ!!」

「そんな…」

「やめてしまった男性職員さんは、女性職員さんのことが好きだったのよ!!」

「そんな…」

「女性職員も女性職員よ!!婚約者がいるのに、フィリップさんに夢中になっている…婚約者の親御さんが『ぶっ殺してやる!!』と言うて激怒していたわよ!!」


えっ…


もしかして…


アタシは、ひどく動揺した。


年輩の女性は、このあとアタシにきつい言葉をぶつけた。


「アリョーナさん!!あんたは、結婚相手を間違えたみたいね!!」

「それはどういう意味ですか!?」

「意味はないけど…あんたはフィリップさんの妻として恥ずかしいとは思わないの?…そうよねぇ…アリョーナさんは、その前も結婚生活に失敗したし…生まれ故郷のハバロフスクの家にいた時に、お見合い結婚を反古にして逃げたと聞いているし…」

「やめて!!これ以上アタシの過去をむしり返さないで!!」


アタシは、なおもキツイ言葉を言われたので、頭の中でパニックを起こした。


パリには…


アタシの居場所がない…


このままでは、アタシはあいつの家につぶされる…


アタシの中で、強い危機感がつのり始めた。


8月31日のことであった。


この日、アタシはバイトを休んだ。


ところ変わって、リュクサンブール公園の中にあるオノラ広場にて…


広場のベンチに座っているアタシは、途方にくれていた。


そんな時であった。


「アリョーナ…アリョーナ…」


アタシを呼ぶ男の声が、風に乗って聞こえた。


まさか…


その声は…


タメルラン?


ベンチから立ち上がったアタシは、広場の周囲を見渡した。


そしたら…


タメルランが、200メートル先からアタシに手を降っていた。


「アリョーナ…アリョーナ…オレは…ここにいるよ…アリョーナ…おーい…アリョーナ…」


1年前、ハバロフスク市内の公園の広場で別れてからそれきりになった。


けれど、アタシは会いたかった…


民族が違っても、アタシはタメルランを愛してる…


「アリョーナ…アリョーナ…」


タメルランは、アタシに向かって走った。


そして、ふたりは抱き合った。


会いたかった…


アタシは、タメルランをずっと探していたのよ…


アタシの顔は、涙で顔がくしゃくしゃに濡れていた。


「タメルラン…本当にタメルランね。」

「アリョーナ。」


タメルランの胸に抱きついたアタシは、声をあげて思い切り泣いた。


「タメルラン…アタシ…タメルランに会いたかったわ…アタシ…タメルランのことを…探していたのよ…タメルラン…タメルラン…」

「アリョーナ。」

「タメルラン…ごめんね…またアタシ…結婚生活に失敗したの。」

「アリョーナ…何でだよ…オレのことが好きなのに…何でオレ以外の男と結婚した?なあ、アリョーナ!!」

「だって…タメルランがどこにいるのか分からなかった…グロズヌイへ帰ったとばかり思っていたから…アタシ…くすんくすんくすんくすんくすん…」

「アリョーナ。」


再会を果たしたアタシとタメルランは、モントルグイコ通りにある小さなホテルまで腕を組んで歩いた。


ところ変わって、小さなホテルの小部屋にて…


アタシはシルクのキャミソールとショートパンツ姿で、タメルランはランニングシャツとトランクス姿でさみしさとむなしさを埋めるために抱き合った。


「あっ…」

「アリョーナ…アリョーナ…」

「あん…タメルラン…アリョーナの身体を汚して…」


アタシは、甘い吐息をもらしながらタメルランに抱かれた。


それから2時間後のことであった。


アタシは、タメルランの胸で目覚めた。


このあと、ふたりはお話をした。


「ねえタメルラン。」

「アリョーナ。」

「タメルランは、アタシと別れてハバロフスクを出た後…グロズヌイに帰ったの?ねえ…答えてよ。」

「グロズヌイに帰ったのは帰った…けど…帰って早々に…街が戦場になった…武装勢力と(ロシアの)正規軍との戦闘から逃れるために…ソチにいるおふくろの親戚の家に…幼いきょうだいたちと一緒に避難をしていた。」

「幼いきょうだいたちと一緒に…ソチにいたのね。」

「ごめんよ…本当だったら、アリョーナに一刻でも早く伝えようと思った…けれど、アリョーナがどこにいるのか…分からなかった…オレ…」

「タメルラン…」


アタシは、ひと間隔をあけてからタメルランに言うた。


「アタシね…ハバロフスクから出た後…サンクトペテルブルグで暮らしていた…ピロシキカフェとナイトクラブをかけもちでバイトをしていた…そこで、最初のダンナと出会った…ドイツで結婚式をあげた…けど…最初のダンナはプータローでアタシのヒモだった…サイアク…」

「アリョーナ。」

「二番目のダンナも、ふたりきりで結婚生活を送ろうねと言うてウソついた…結婚をして早々にダンナの親きょうだいが急に転がり込んだのよ…ダンナは…あげくのはてに家出して行方不明になった…もうイヤ…たくさんだわ…」


タメルランは、アタシを優しく抱きしめながら言うた。


「アリョーナ…もう一度…やり直さないか?」

「タメルラン。」

「アリョーナ…オレを満たしてくれ…」

「タメルラン。」

「もう一度…あの日に戻って…やり直そう…」


タメルランは、アタシをギュッと抱きしめてキスをした。


そして、アタシの身体をグチョグチョに汚した。


それからアタシは、タメルランと会うようになった。


しかし、さみしさとむなしさをうめるために身体を求め合うだけの関係であった。


そんなことばかりを一ヶ月間も繰り返した。


アタシは、知らないうちにあいつの家の親族との間に深い溝を作ったことなどおかまいなしになっていた。


2012年9月28日のことであった。


市立病院に入院をしていた義母が、明け方6時前頃にキトク状態におちいった。


義母は、血圧の上が一気に40までに低下して、呼吸数も極力減るなど、容態はきわめて危険な状態であった。


義母は、朝8時前に神様の元へ旅立った。


義母が旅立ってから2時間後に、義父がモンテニュー大通りで乗用車にはねられて亡くなった。


おりが悪いことに、義父に1000万ユーロの借金があった。


残された義妹が債権者に取り囲まれた。


義妹がサンルイ病院のリネン室にやって来て、アタシに助けを求めた。


義妹は、義父が残した1000万ユーロの借金のことと両親がいなくなったので、どうすればいいのか分からないと泣いてアタシに助けを求めた。


アタシは、義妹を怒鳴りつけた。


「あんたね!!アタシが何で怒っているか分かっているのかしら!!アタシの問いに答えてよ!!」

「アリョーナさん、お願いです助けてください…父が残した1000万ユーロの借金が返せなくなったの…寝るところがないし、食べる物もないの…お願い…助けて。」


義妹は、なおも泣きながらアタシに助けを求めた。


アタシは、なおもイライラした声で義妹を怒鳴りつけた。


「あんたね!!助けを求める相手を間違えているわよ!!本来ならば、ニースにいる義兄夫婦たちのところにお願いしに行くべきじゃないの!?」

「ですから、どうしてニースの兄夫婦を出してくるのですか!?」

「自分たちのことで手がいっぱいだと言うのでしょ!!」

「アリョーナさん!!兄夫婦たちのことを勝手な人間だと言うのですか!?」

「だったら何なのよ!?」

「何なのよって…兄夫婦たちは、どちらも娘さんの結婚問題で神経をとがらせているのよ!!」

「やかましいわね!!甘ったれるんじゃないわよ!!」

「アリョーナさん!!兄夫婦たちはものすごく頭を痛めているのよ!!」

「やかましい!!だまれ!!」

「アリョーナさん!!助けてください!!アリョーナさんしか頼める人がいないのです!!」

「イヤ!!断るわ!!それよりもあんたね!!アタシは今、仕事中なのよ!!帰ってよ!!」


義妹を怒鳴りつけたアタシは、リネンの仕事を再開した。


9月29日のことであった。


タメルランに会いたくなったアタシは、カレのスマホに電話をかけた。


しかし、呼び出し音が鳴ってばかりいたので、アタシはますます不安になった。


ねえ、タメルラン…


今、どこにいるのよ…


お願い…


電話に出てよ…


アタシが、最後にタメルランと会ったのは9月20日の夕方であった。


それから10日間、カレと会っていない。


アタシは、さみしさをつのらせた。


その一方で、あいつの家の問題が放置されたままであった。


アタシは、思いきってニースへ行こうかと思った。


9月30日のことであった。


アタシは、朝イチの列車に乗りまして一目散にニースへ向かった。


ニースの中央駅で列車を降りたアタシは、義兄夫婦たちのもとへ行こうかと思った。


けど、めんどくさいからやめた…


その日の夕方、アタシは夕暮れの浜辺に行った。


夕日に染まる地中海をながめながら、アタシは考えごとをしていた。


アタシは…


いくつ恋をしても…


すぐに愛が壊れる…


アタシを、愛してくれる人なんか…


どこにもいない…


アタシは、夕暮れの海をながめながらくすんくすんと泣いていた。


そしてとうとう、ふたりの愛が音をたてて壊れる時を迎えた。


アタシは、夕暮れの浜辺をとぼとぼと歩いてから中央駅へ行こうとしていた。


そしたら…


アタシは、信じられない光景を目の当たりにした。


家出して、浮気相手の女と一緒にいたあいつが、別の浮気相手の女と3人でいたところを目撃した。


あいつのもうひとりの浮気相手の女は、あいつが以前付き合っていました同い年の女で、妊娠7ヶ月であった。


胎内の赤ちゃんは、あいつの子供である。


あいつは、かつて付き合っていた女と結婚の約束をしていた。


しかし、あいつが『約束した覚えなどない!!』と切り捨てる口調で言うた。


もうひとりの浮気相手の女は、激怒していた。


「ひどい!!あんまりだわ!!フィリップは、アタシと約束をしたことをきれいに忘れたと言うのね!!」

「分かってくれよ…だけど、急に事情が変わったから、ダメなんだよぅ。」

「何なのよその言いぐさは!!」

「大きな声を出すなよ…オレとお前はもう終わったのだよ…」

「何なのよあんたは!!」

「何とでも言えよ!!オレは(区役所で知り合ったカノジョ)とやり直すから…」


キーッ!!何なのよ一体もう!!


思い切りブチ切れたアタシは、言い争いをしている3人のもとへ、棒を持ってワーッと殴りかかって行った。


その時であった。


「何するのよ!!」


この時、もうひとりの浮気相手の女があいつに突き飛ばされた。


「ひどいわ!!フィリップ!!気に入らなかったらそうやってアタシを突き飛ばすの!?」

「ふざけるな!!オレとお前は恋人でも婚約者でもない!!」


棒を持っているアタシは、あいつの背中を激しく殴りつけた。


「ああああ!!」


背中を棒で殴られたあいつは、その場に倒れた。


ふたりの浮気相手の女は、アタシに凄んだ。


「あんた!!なんでフィリップを棒で殴ったのよ!?」

「フィリップさんを殺すつもりなの!?」

「やかましい!!あんたらのせいで、アタシはボロボロに傷ついたのよ!!どうしてくれるのよ!?」


このあと、アタシはふたりの浮気相手の女と大乱闘を起こした。


アタシと女2人は、血しぶきをあげるレベルの大乱闘を起こした末に顔に大けがを負った。


浮気相手の女ふたりも、全身がボロボロに傷ついた。


ふたりの愛は、サイアクの形で壊れた。

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