第3話
2011年10月10日、アタシとヒーラーさんはヒーラーさんの実家の近くにあるアパートを借りて、ふたりきりの生活を始めた。
ヒーラーさんは毎朝アタシに『アリョーナを不自由にはさせないから心配するなよ。』と言うて、シューカツに出掛けた。
この時、アタシはヒーラーさんの知人からの紹介でフライグブルグ中央郵便局に再就職した。
お仕事はキーパンチャー(パソコンのエクセルを使ったお仕事)で、月給は5万ユーロである。
アタシは『ヒーラーさんはうそつきだから信用できない…』と怒っている。
アタシがお給料を稼いでふたり分の生活費を稼ぐより他はない…
それよりも、こんなだらけた夫婦生活を続けたら破綻する…
手遅にならないうちに、ヒーラーさんと離婚しなければ…
アタシの気持ちはあせっていた。
アタシは、朝9時から夕方の5時まて郵便局でデスクワークにはげんだ。
片や、ヒーラーさんはどうしていたのかと言うと、シューカツをするために朝から外出をしていた。
けれど、ほんとうにシューカツしているのか…とうたがいたくなる。
アタシは『ヒーラーさんの性格では、フライグブルグ市内のどこの事業所にお願いに行っても断られるだけだ…』と思っている。
だから、ヒーラーさんがアタシに助けを求めても一切応じないことにした。
そうなると、収入は郵便局から支給されるお給料5万ユーロだけが頼りであった。
お給料は、翌月になってから支給されるので、それまでの間はサンクトペテルブルグでバイト中に貯めていた3000ルーブルが入っている銀行の預金口座を取り崩して、全額ユーロに両替して、それを生活費に充てるより他はない。
給料日まで待てない…
気持ちがあせっているアタシは、地元のブンデスリーガー(ドイツのプロサッカーリーグ)のクラブチームのホームゲームが開催される日にスタジアムへ行って、サンドイッチ売りのバイトで、足りない分をかせいだ。
日当は5000ユーロである。
サンドイッチが売れ残った時は、残り物のサンドイッチを家に持って帰って、それを夕食にして食べた。
2011年10月23日のことであった。
夜の9時を少し回った頃、ヒーラーさんが真っ青な表情で帰宅した。
(ガチャ…)
「ただいま。」
「お帰りなさい。」
(パタン…)
玄関のドアを閉めたヒーラーさんは、げんなりとした声でアタシに言うた。
「アリョーナ…すまない…」
「やだ、どうしたのよ?」
「アリョーナ…ごめんよ…仕事が…見つからなかった…」
ヒーラーさんは、声をあげましてワーッと泣き出した。
「やだ、泣かないでよ…ヒーラーさん。」
アタシは、泣いているヒーラーさんをふくよかすぎる乳房(むね)に抱きしめて、やさしい声で言うた。
「ヒーラーさん、泣かないで…うまく行かない時だってあるわよ…ヒーラーさんがうまく行かないのはお腹が空いているだけよ…スタジアムのサンドイッチ売りで売れ残ったサンドイッチがあるから…ごはんを食べて元気を出そうね。」
アタシは、ヒーラーさんにこう言うてなぐさめるより他はなかった。
10月30日…
この日、開催されたホームゲームの対戦チームはブンデスリーガーのビッグチームであった。
スタンドは、超満員であった。
そのため、いつもよりも超多忙であった。
この日の日当は、3万ユーロであった。
ヒーラーさんは、深夜11時頃に帰宅した。
アタシは、帰宅したヒーラーさんにどこで何をしていたのかは聞かなかった。
しかし、ヒーラーさんはこの日をさかいに様子がおかしくなった。
2011年ハロウィーンの日の朝のことであった。
食卓には、ライ麦のコッペパンとコンソメスープとスクランブルベーコンエッグとグリーンサラダがテーブルの上に置かれている。
アタシが朝ごはんを食べていた時、ヒーラーさんはアタシにこう言うた。
「アリョーナ。」
「どうしたのよ?」
「アリョーナ…頼みがあるのだよ…」
ヒーラーさんは、ますます言いにくそうな声でアタシに言うた。
「頼みって?」
「こづかいを…ユウヅウしてほしいのだよ…」
「こづかいを…ユウヅウしてほしい?」
「ああ…この通りだ…なあ…頼むよ…前の会社に在籍していた時に貯金をしていた預金口座が0になったんだよ…」
アタシは、コンソメスープをひとくちのんでからヒーラーさんに言うた。
「おこづかいって…いくらいるのよ?」
「いくらって…3000ユーロほど…」
「3000ユーロ。」
席を立ったアタシは、となりのイスに置いてる赤茶色のバッグを手に取った。
バッグの中から財布を取り出した後、財布から100ユーロ札を30枚取り出してヒーラーさんに手渡した。
3000ユーロを受け取ったヒーラーさんは、泣きそうな声でアタシに言うた。
「アリョーナ…すまない…一生懸命になって職を探しているけど…なかなか見つからない…」
「ヒーラーさん、アタシはヒーラーさんに新しい仕事が見つかるまで、応援しているから…そんなにあせらなくてもいいよ。」
「ありがとう…すまない…アリョーナ…」
アタシは、ヒーラーさんにこう言うより他はなかった。
そう言ったことが1ヶ月に渡って続いた。
知らないうちに、夫婦の間に大きな亀裂が生じた。
ヒーラーさんはウソつきだから信用できない…
けれど、ヒーラーさんの前ではあまり強く言えない…
その結果、ヒーラーさんはアタシをグロウするだけグロウするようになった。
ヒーラーさんは、ことあるごとにアタシの元にやって来て、アタシからカネをたかるようになった。
アタシは『この身ひとつが生活して行くだけで手がいっぱいになっていると言うのに、ヒーラーさんはアタシのカネをたかって苦しめている…このままだと、アタシはヒーラーさんに殺されてしまう…』と思った。
こんなはずではなかった…
ヒーラーさんは…
アタシに、ウソをついてシューカツをせずに遊び回ってばかりいる…
ヒーラーさんは、アタシにこそこそ隠れて…
一体、何をしているのよ…
そしてとうとう、アタシとヒーラーさんはひどい大ゲンカを起こた。
11月28日のことであった。
明日は待ちに待った5万ユーロのお給料が入ると言う日であった。
そんな時に、ヒーラーさんが金銭面でトラブルを起こしたことが発覚した。
この日、ヒーラーさんの学生時代の友人がアタシのもとへやって来て『あいつ、オレから借りたアイパッドを返さずに逃げ回っている…あいつが起こしたトラブルはカノジョであるあんたが責任取れよ!!』と言うて凄んで来た。
話によると、ヒーラーさんは友人に『アイパッドを買おうと思っているから見せてほしい。』と言うてアイパッドを見せていただいた。
ヒーラーさんは、友人に『アイパッドを使いこなせるように練習したいからしばらく貸してほしい。』と頼んで、友人からアイパッドを借りた。
それから一週間後に、友人は『アイパッドを返せ。』とヒーラーさんにサイソクした。
しかし、ヒーラーさんは『また今度…』と言い続けて、返す期間を先伸ばしにした。
ヒーラーさんは、使いこなせるように一週間かけて練習をすると言うて借りたアイパッドを質屋に入れて、6000ユーロを借り入れた。
ヒーラーさんが、友人のアイパッドを借りたのは3週間前の11月7日のことであった。
友人は、ソートー怒り狂っていた。
それ聞いたアタシは、ドカーンとブチ切れた。
ヒーラーさんは、11月28日に質屋へ行って6000ユーロを返しに行った。
しかし、店主から『利息分を払ってください…』と言わたので、アイパッドを取り返すことができなかった。
ヒーラーさんは、実家へ行ってカネのムシンをした。
けれど、家族から『ナマケモノのお前に与えるゼニなどない…』と怒鳴られたあと冷たく突き放された。
ヒーラーさんは、怒りの矛先をアタシに向けた。
そして、11月29日の夜…
アタシとヒーラーさんは、ひどい大ゲンカを起こした。
「ヒーラーさん!!あんたが学生時代の友人からアイパッドを借りて、質屋さんでおカネに換えていたことを聞いたから、アタシはソートーブチ切れているのよ!!よくもアタシをだましたわね!!」
アタシの言葉に対して、ヒーラーさんは泣きそうな声で言うた。
「アリョーナ、怒らないでくれよぉ…このとおり…」
「知らないわよ!!あんた、アタシにウソついて、どこで何していたのよ!?」
アタシの言葉に対して、ヒーラーさんは逆ギレを起こした。
「何だよアリョーナ!!オレのことをヒモだと言うのかよ!?」
「キーッ!!何よその言いぐさは!!結局、あんたは人からおカネをたかることしか知らないのね!!あんた!!どうして前に勤めていた会社をやめたのよ!?前に勤めていた会社にいたら、お給料は固定給で終身雇用で安定した暮らしがつづいたのよ!!どうして前に勤めていた会社をやめたのよ!?もう一度前の会社に行って、もう一度雇って下さいとお願いしてよ!!」
「無理なことを言うなよ!!できないよ!!」
「何なのよ!!ヒーラーさん意気地無し!!」
「何だと!?オレのどこがイクジなしだ!?」
「キーッ!!許さない!!あんたのこと、一生うらんでやる!!」
アタシとヒーラーさんは、ひどい大ゲンカの末に離婚した。
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