ミキミズキ

三枝 優

第1話 ミヅキ 前編

 瀬戸美月は中学生の時、いじめにあっていた。


 主導していたのは、隣の家に住む幼馴染のトオル。



 漫画や小説が好きで、本をよく読んでいる美月。それに対して、トオルは根暗だと陰口を叩くようになっていく。


 最初は、”気持ち悪い””暗い”などの口撃。


 やがて、ものを隠される・下駄箱にゴミを入れられる。などとエスカレートしていく。

 そして、彼女は引きこもるようになっていった。






 私は、学校に行くのが苦痛でした。

 学校だけではない。悲しいことにトオルは隣の家に住んでいる。

 顔を合わせたくない。なので、外に出ないようになりました。



 家族で話していても、隣の家の話が出ることもある。

 名前も聞きたくない。それだけで恐怖を覚えるようになりました。



 やがて・・・私は部屋に閉じこもるようになったのです。




 休み休みながらも、学校に行く。それ以外は部屋に閉じこもる日々。

 両親はそんな私を心配していたのでしょう。



 

 しかし、私は誰とも話したくなかった。

 ただ、怖くて部屋に閉じこもるしかなかった。




 怖くて、辛くて。

 死にたいと思う日々。

 それでも、死ねなかった。

 ただ、どうやって死んだらいいかわからなかったから。



 唯一の救い。高校に行けばこの状況から逃げ出すことができる。

 そう信じていた。








 高校に入学した。わざと少し遠いところを選んだ。そうすれば、中学の知り合いがいないと思っていた。

 それなのに、高校の同じクラスに同じ中学の男子がいた。



 絶望。



「あいつ、中学でいじめられていたんだぜ」

 向こうで、ヒソヒソ話している声が聞こえている。

 辛くて、悲しくて・・・

 逃げ出したくなって。



 そんなとき、後ろの席の女の子が大きな声で言った。



「男のくせに、何こそこそ話してんだよ。女の子には優しくするもんだろ?男らしくないっての」



 その子は、高橋ミキ。名前の順で決まった席でたまたま後ろになった女の子。

 その日は、なぜか彼女は一緒に帰ってくれた。

 帰りに、生まれて初めて食べたクレープのおいしいこと。一生忘れられない経験となりました。



 彼女は、その後も学校で何かと私に対して気にかけてくれた。



 やがて、私は彼女にいつもついていくようになった。

 彼女も、そんな私を嫌がりもせず一緒いてくれるようになった。



「女の子はね、かわいくしなければもったいないよ」

 そう言って、ミキちゃんはいろんなことを教えてくれた。


 おすすめのトリートメント。

 髪の手入れの仕方。

 肌の手入れの仕方。爪の手入れの仕方。

 おすすめのリップクリーム。口紅。

 そして、一緒に洋服を選んでくれた。


 そうしているうち、だれも私について陰口を言わないようになっていった。



 それでも、私は家では部屋に閉じこもっていたけれど。

 だって、隣の家にはトオルくんがいるのだから。

 まだ、怖くて。怖くて。

 トオルくんが怖くて。わざわざ遠回りして帰っていた。




 学校で、そして休日もミキちゃんと一緒にいるのが日常になった。 

 高校を卒業。私は大学へ行き、ミキちゃんはメイクや美容の専門学校に進んだ。

 だけれども、学校が終わるとミキちゃんといつも一緒に遊んだ。




 ミキちゃんは、学校で習ったお化粧を私に教えてくれた。

 ミキちゃんは、学校で習ったネイルを私にしてくれた。

 似合う髪型を考えてくれて、一緒に美容院に行くようなった。

 そして、それまでろくな食事を食べていなかった私に美味しいお店に連れて行ってくれるようになった。

 おかげで、美味しいものを食べるのが大好きになった。

 ガリガリに痩せていた私も、人並みになることが出来た。

 二人で食べ歩くのが日課になった。



 もう、誰も私のことを根暗とは言わない。

 本当にミキちゃんには感謝しています。

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