幼馴染である彼女に浮気されて軽く死にたい

星村玲夜

第1話 マジかよ……

 俺――川原良太には彼女がいる。

 

 あ、言っておくけどこれは自慢じゃないから。ただ事実を言ってるだけだから。

 

 それに俺は高校のサッカー部でレギュラーに選ばれてて、運動はそこそこ得意だけど、イケメンじゃないし、勉強は苦手だから、残念だけど女子にモテモテという訳じゃない。

 

 じゃあどうして彼女をゲットできたか? それはズバリ運だね。


 俺の彼女――大橋陽菜は俺の幼馴染だ。俺の二軒隣に住んでて、昔から家族ぐるみで付き合っている。よくお互いの家に遊びに行ってるし、小さい頃は一緒にお風呂に入ったりもした。高校も同じ近所の高校に通っている。

 

 幼い頃から高2の今までずっと一緒にいたらむしろ恋愛感情湧かないんじゃない? と思う人もいるかもしれないけど、そんなことはない。ずっと一緒にいるからこそ知ってる、陽菜の可愛いところがたくさんあるし、絶対に手放したくないと思えてくる。


 そうでない人ももちろんいると思うけど、少なくとも俺はこんな感じで中3の春頃に急に恋愛感情が湧いてきて、それで告白した。


 とにかく陽菜とはどれだけ一緒にいたって飽きないんだよ。今だって部活を終えて、二人で仲良く手を繋いで帰宅してるところだ。

 

 ちなみに俺は部活の用具を練習着を除いて全部部室に置いてあるから、持ち物はリュックだけで身軽だけど、陽菜はテニス部で、ラケットを毎日持ち帰らないといけなくて、俺が代わりに持ってあげている。


「ねえねえ良太聞いてよ! 今日すっごい面白いことがあったんだよ」


 もし犬だったら尻尾がはち切れんばかりに振れているんじゃないかというくらいに興奮した様子で陽菜が言った。もともと陽菜は活発で明るい子だけど、これほどまでの様子になることはそうそうない。よほど面白かったんだな。


「えー、何があったの?」


「部活でウォーミングアップにストローク練習をしてたらさ、一年生の子が派手にミスっちゃって、体育館の方にボールが飛んでいっちゃったの。それでね、体育館の外の通路で誰かを叱ってた山本先生の頭に偶然ボールが当たっちゃって、そしたら山本先生のカツラが取れたんだよ」


 山本先生というのは、男子バレー部の顧問をしている初老の体育教師で、すぐ怒ることで有名だ。そんな山本先生が恥をかかされた話なんて一度も聞いたことがない。


「あははは、マジか! それ最高! 俺も見たかったなぁ~」


「でしょ! 本当に良太にも見て欲しかったよ」


「じゃあ、これ見れなかった代わりに、これと同じくらい面白い話を俺にもっと聞かせてよ」


「それは無茶だよ~。こんなにも面白いことそうそう起きないよ。良太は何かないの?」


「俺? さっきのやつほどのはないけど、俺の方も一応あるぜ。それは――」


 帰宅する時はいつもこんな感じでその日にあったことを話している。すごく楽しくて、高校から家まではそこそこ時間がかかっているはずなのに、一瞬のように感じる。


「もう着いちゃったな。もうご飯の時間だろうし、今日はこれでお別れだね」


 預かっていたラケットを陽菜に返した。陽菜は俺より十センチほど身長が低いから、陽菜がラケットを持つとラケットが少し大きくなったように見えた。


「私明日部活ないんだけど、良太は部活ある?」


「土曜日だけど明日は珍しくないよ。でも、友達と遊ぶ約束しちゃったんだ。ごめんね」


「ううん、大丈夫。私のことは気にしないで友達と楽しんできてよ」


 そう言って陽菜は健気に笑顔を浮かべた。その笑顔が愛おしかったのと、本当は俺と遊びたかっただろうに、それを我慢して笑顔で送り出してくれたことが嬉しくて、俺は陽菜を抱きしめた。


 離すと今度は陽菜が僕の目をじっと見つめてきたから、俺も同じように陽菜の目を見つめた。この時、陽菜って幼馴染だからとか抜きで普通に可愛いよな、と思った。


 そして、陽菜はゆっくりと目を瞑った。だから、俺は陽菜のショートの髪をそっと撫でながらキスをした。


「じゃあまたね」


 キスを終えると、陽菜は少し顔を赤らめたまま、笑顔で家に入っていった。


「うん、バイバイ」


 俺も幸せを噛みしめながら、家に入った。


 こんな最高の日々がずっと続く……………………ことはなかった。幸せな日々が崩れるのは一瞬だっていうけれど、それは本当だった。


 次の日、友達と遊びに行った先で、俺は陽菜の浮気現場を目撃した。


 おいおい、マジかよ…………。



 

 






 

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