第11話 上限金利規制①
総量規制の話しをざっくりと読んだゴウは、その勢いのまま第5章へと突入した。
第5章は、上限金利規制の話しである。
「利息に関しては、民法の債権総論で勉強したハズなんだけどな……」
読者は、すでにお忘れかもしれないが、ゴウは法学部卒である。
しかし、いまひとつ記憶に残っていない。
ぼんやりと覚えているのは、「利息制限法」が定めている上限金利。
あとは、ふわっと、出資法、利息制限法、貸金業法の相互関係の話し……くらいだった。
「ぬっ!? 何だこりゃ?」
テキストの方には、「保証料の規制」や「みなし利息」、「元本額区分の適用の特則」といった内容が書かれていた。
いずれも、なんだか面倒そうな「計算」の話まで出てくる……。
が、計算も含めて、ここは試験との関係では最頻出テーマのひとつと言ってよい。
保証料や利率、利息金額等を計算する問題も出題される。
「これ、はやくもヤバくね!?」
数学はもちろん、数字・四則計算からも遠ざかった生活を送ってきたゴウにとって、この事実は軽く戦慄モノだった。
おそらく、いまの彼に「1万円の1%は、いくらでしょう?」と聞いても即座に答えられない。
「1円?」などと、なぜか疑問形で答えそうだ。
しかも、小学生のような誤答を…。
「……はっ! べつにこんなとこ正解しなくても、他のトコで点稼げばよくね?」
そんなワケで、早くも逃げの態勢である。
「他のトコ」というが、いったいどこで稼ぐつもりなのか、まったく意味不明なことを言っている。
貸金業法関連からの出題数は、50問中27問(第15回[令和2年度]試験)。
出題されるところは、わりと傾向がはっきりしている。
できるだけ得点したいところだ。
ここで落とすと、合格はかなりキビシイ。
「い、いやダメだ。オレは、それをやって上手くいった試しが無ぇ……」
なかには「出たら捨てる分野」をあらかじめ決めておいて、その他の分野を集中的に勉強し、各種資格試験の合格を勝ち取る者もいるらしい。
そうか、それでいいのか。
じゃあ……というカンジで、ゴウも真似してみたが上手くいったことがない。
資格試験でも、定期テストの勉強でも……。
「やるしかないな……」
かくりと、項垂れた。
とりあえず、捨てることをあきらめたゴウは、テキストの記述をさらさら読み始めた。
―――上限金利規制
貸金業者は、お金を貸すさいに「法律で定めた利率」(上限金利)以上の利息をとると、取り過ぎた利息を返還させられたり刑事罰や行政処分を受ける。
利息について規律した主要な法律を挙げるとすれば、つぎの4つ。
①民法
②出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)
③利息制限法
④貸金業法
2020年以前は商法も含まれていたが、法改正により商法上の利息の規定(商法514条、商事法定利率)は削除された。
それぞれの内容について、簡単にみてみよう。
①民法
民法では、契約などで利率の定めをしていない場合の民事法定利率を年3%とする。
民法404条1項および2項に、その規定がある。
【民法404条1項・2項】(法定利率)
第1項 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
第2項 法定利率は、年三パーセントとする。
この規定、とても勘違いしやすい。
つぎの点に注意して欲しい。
【注意点1】当然に3%の利息を取ることができるとは、規定していないこと。
まず、お金の貸借りの契約(
これが、民法上の原則だ。
逆にいえば、お金の貸借りの契約で利息を取るためには、「利息を取る」旨の合意をしなければならない。
このような契約当事者間の合意を「特約」と呼ぶ。
民法の規定と異なる内容の合意を追加する必要があるということだ。
金銭消費貸借契約では、特約が無ければ利息を取ることができない、というワケだ。
さきにみた民法404条1項は、「利息を生ずべき債権について」としていた。
つまり民法404条1項は、たとえば契約のなかで利息を取る旨の特約を入れている場合を前提にしている規定なのだ。
このような特約が無い場合は「利息を生じない」モノになるから、民法404条の適用は問題にならない。
まとめると、こんなカンジ。
契約で利息を取る旨の特約あり → 民法404条の適用可能性アリ
契約で利息を取る旨の特約ナシ → 無利息 → 民法404条の適用は問題にならない
【注意点2】利息の上限が3%という意味ではないこと。
さきに「民法とは異なる内容の合意」と述べた。
違和感を持った人はいないだろうか?
あるいは、
『法律の規定と異なる内容の契約なんてできるの? それ、法律違反じゃないの?』
と思った人もいるかもしれない。
じつは、ここに民法という法律の特色がある。
法律というと、どうしても刑法のような「〇〇をしてはいけません」的なイメージを持つ人が多い。
しかし、民法はむしろ「とりあえず、キミらで自由にやって」的なイメージで理解する方が良いと思う。
契約に関するルールは、その意味合いがとくに強い。
―――契約自由の原則
民法の大原則のひとつだ(民法521条)。
経済活動は、国家が統制するよりも、できるだけ人々の自由に任せておく方が良いという考え方を基礎にする。
契約は、経済活動の重要な要素だ。
私たちは普段の日常生活においても、契約をして欲しい物を得たり、サービスを受けたり、その対価を受けたりする。
このような営みを、人々は自由におこなうことができるということだ。
そしてこの原則は、「反社会的なものでない限り、自由な内容の契約を締結できる」という意味を含む(民法521条2項も参照)。
つまり、民法に規定されていない名前の契約を勝手に作り出してもかまわない。
民法に規定されている契約であっても、民法が定める内容通りのものにしなくてもよい。
じっさい、民法に規定されていない名前の契約は、数多く存在する。
契約書のタイトルが「売買契約書」となっていながら、その内容は「融資契約」であることも多い。
建物の賃貸借契約では「家賃は月末に支払う」というのが民法上の規定だが(民法614条)、現実には「家賃は月初めに支払う」などと契約書に書かれていたりする。
すべて適法である。
したがって、お金の貸し借りの場面でも民法上は無利息になるのが原則だが、特約をすれば利息を取ることもできる。
利率も、本来、自由に決めてよい。
契約のなかで5%としようが10%としようが、原則、自由である。
契約で取り決めた利率で計算することになる。
『じゃあ、なんで3%と規定したの? 3%って数字を決めた意味は?』
まぁ、ぶっちゃけ「うっかりさん」のためだ。
民法404条1項は「別段の意思表示がないとき」と規定していた。
つまり契約のなかで「利息を取る」旨の特約をしたものの、うっかり何%の利率にするか決めてなかった場面を想定しているのだ。
そして、利率に関して争いが生じたら、裁判所は「利率3%」で計算して判断することにしたというワケだ。
さて、ここまでの民法404条の話しをまとめると、
契約で利息を取る旨の特約あり → 契約上の利率あり → 契約上の利率で計算
契約で利息を取る旨の特約あり → 契約上の利率不明 → 利率3%で計算(民404条)
というカンジになる。
ちなみに、「なぜ3%なのか」という疑問もあるだろう。
もちろん、それなりの理由はある。
が、あまり「その数字にした理由」を気にしない方が良い。
他の法律や条文との比較で決めていることもあるが、「まぁ、これくらいが妥当だろう」ってなカンジで決めていることも多いからだ。
『じゃあ、金利も契約で自由に決めてよいのなら、なんで上限利率が法律で決められているの?』
これについては、次回。
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