第5話 ゴウは、一休みすることにした
ゴウは、いまテキスト第1巻第3章の内容に目を通している。
この章では、過剰貸し付けを抑制するための話しがテーマのようだ。
指定信用情報機関制度、貸金業者の返済能力調査義務、過剰貸付禁止義務が内容となっている。
試験との関係では、とりわけ返済能力調査義務および過剰貸付禁止義務が大きなヤマ場だ。
が、ここでゴウの集中力は、ぷつりと切れた。
大学に入学してからというもの、あまり勉強することのなかったゴウは、長時間机に向かうことができなくなっている。
「ここで、ちょっと休憩」
そう呟くと、おもむろに椅子から立ち上がって背伸びをした。
机のわきに置いてある財布をジーパンの後ろのポケットに突っ込んで部屋を出る。
とくに行先など決めていない。
おそらく、近場のコンビニへ行くつもりだろう。
ゴウは、自宅近くのローソンに立ち寄った。
そして彼は、雑誌が並ぶ棚の前に立った。
「そういや今日は、金曜日だったな……」
彼が愛読する雑誌に、金曜日発売のものはない。
もっとも、コンビニに立ち寄ったさいに雑誌スペースをうろうろするのは、もはや彼のルーティンとなっている。
ゴウは、レジへ行き100円のアイスコーヒーを注文した。
昔は、コーヒーという飲み物が苦手だったゴウだが、いまではすっかり100円コーヒーがお気に入りだ。
青のストライプが入ったユニフォームを着た店員が、紙コップに氷を入れ、それをコーヒーメーカの注ぎ口に置く。
その様子をチラ見しながらゴウは、フタ、ストロー、ガムシロップを用意した。
ガムシロップやミルクを入れるか入れないか人それぞれ好みはあるが、彼はガムシロップを入れる派である。
ミルクは入れない。
「どうぞ~」
店員が、コーヒーを出す専用のカウンターの上に注文したアイス―ヒーを置いた。
ふわりと立つ、蜜のようなスモーキーフレーバー。
その香りが、ゴウの鼻腔をくすぐる。
100円コーヒーと馬鹿にできない。
ゴウは、ガムシロップを入れ黒いストローでよくかき混ぜてフタをすると、100円コーヒーを片手にもって外へ出た。
そして、ストローからその濃い飴色の液体を一口吸い上げた。
冷たくてほんのり甘くほろ苦い味が、口の中に広がる。
同時に、その香りが、ふたたび彼の鼻腔を漂った。
「ふいーっ……」
ストローを口に咥えながら、空を見上げた。
そして流れる雲を眺めながら思考を巡らせる。
(さすがに資格試験だけあって、貸金業法関連だけでも結構覚える量が超多いよな。第1巻のテキストを全部読むだけでも、相当時間かかりそうだ。どう勉強するといいかなぁ……)
ちううう、とアイスコーヒーを飲みながら、そんなことを考えた。
やると決めたのだから、もう、やるしかないのは解っている。
問題は、どう攻略するか?
どうやって、勉強するか?
(少なくとも、全部のテキストを7回以上は読み込みたいしな……)
なぜ、7回なのか?
ゴウは、大学在学中に読んだ山口真由著『東大首席が教える超速「7回読み」勉強法』(PHP文庫2017年)を思い出したのだ。
この本は、東大首席、財務官僚、弁護士を経てハーバード大学への留学経験を持つ著者の体験をもとにした勉強法を紹介したものである。
もちろん闇雲に7回読むという勉強法ではなく「読み方」があるのだが、ゴウはその内容をおぼろげな記憶を頼りに思い出そうとしていた。
コンビニ・ルーティンのさいに、彼はこの本を見つけて立ち読みした。
途中まで読んで、なにかの役に立つかもしれないと購入した。
残念ながら、大学在学中に役に立ったことはなかったが……。
(あの本、どこに片づけたかな…。たしか本棚のあの辺に置いたような気がするんだけど……)
購入当日に、自分の部屋でさらさらっと読んで、ぽんと本棚に置いた記憶だけは残っている。
そうしているうちに、アイスコーヒーは氷だけとなった。
氷を捨て紙コップをゴミ箱に放り込んで、ローソンを後にした。
(まずは、テキストの続きを確認してから、あの本を探すことにしよう)
少しだけ、足早に家へと歩いていた。
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