花火大会 ③
集合場所から歩いておよそ三十分で花火大会の会場に到着した。まだ花火が始まるまで時間があるが、予想していたよりも人が多かった。
「逸れたら大変だな……」
「そうだね……でも携帯があるから大丈夫だよ」
隣りを歩いている美影が答える。美影の隣りが志保で俺達三人のすぐ後ろに絢と白川が並んで歩いている。
周囲には出店がずらっと並んでいて、いい匂いがする店があったり少しお腹が空いてきたような気がしてきた。
「ちょっと休んで何か食べないか?」
俺は美影や後ろにいる絢達に尋ねてみると志保が真っ先に反応した。
「うん、そうしようーー」
歩き疲れたような表情をしていた志保だったが、生き返ったように元気な声を出す。美影や絢も志保の変わり身の早さに微笑みながら頷いていた。
各自で近くにある出店で食べ物と飲み物を買って予め集まる場所を決めておいた。
でも俺には美影と志保がくっついてきて、絢と白川が一緒に違う出店に向かうことになった。
(まあ、そうなるよなぁ……)
心の中で呟きながら、美影達と出店で食べ物と飲み物を買っていた。途中で志保がわがままを言い始めて三軒も廻る羽目になった。やっと三軒目の買い物も終わり約束の場所へ向かうと既に絢達は座って待っていた。
「ごめんね、あーちゃん」
美影が気を利かせたのか俺よりも先に謝っていたが、志保は知らん顔をしていた。俺は苦笑いして志保を見ながら「コイツが犯人です」と絢達に教えるように身振り手振りをしていた。
「ふふふ、三人とも仲が良いわね、息が合ってるわ」
楽しそうに絢が俺達を見て笑っている。隣りに座っていた白川も同じように笑っていた。
「あーちゃんの隣りに座ってもいい?」
「うん、いいよ」
絢の返事を確認にして美影は白川と反対側に座る。志保が美影の隣りに座ったので、白川の隣りしか座る場所がないので、俺は仕方なさげに座った。
「宮瀬くん……嫌そうに座るわね」
皮肉っぽく白川は言うけど顔が笑っているので少し安心した。
「そんなことはないよ、そう言う白川こそ退屈じゃないのか?」
「えっ、なんで……変なことを言うわね、退屈ではないわよ」
絢の付き添いで来たと思っていたので、白川が当たり前のような顔で答えるのは意外だった。でも退屈ではなかった理由はすぐに分かった。
「それに、山内さんのことがなんとなく分かってきたから、実際に会って話した印象とか、石川さんから話を聞いたりしてね」
「あぁ……そういうことか……」
さすが冷静な白川だなと納得して俺は深く頷いていた。
「絢が言うだけのことはあるわね、確かに……」
頷いていた俺を無視するように難しそうな顔をして白川は美影の横顔を見て、少し諦めたような顔をする。
「絢が……どういうこと?」
白川が言いかけた言葉と表情が気になり問いただしてみたが、すぐには返事が無かった。
余計に気になってしまい白川の表情を伺っていたらため息を吐かれてしまう。美影と絢が話しているのをちらっと見て、心当たりがあるわけではないのだが、雰囲気的にそう感じてしまい呟いた。
「な、なんか俺が悪いのか」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない……」
白川は少し困惑したような表情をして答えてくれたが、曖昧な返事のおかげで俺の頭の中に疑問符が溢れてきていた。そんな俺の表情を見て白川は笑みを浮かべていた。この様子だと詳しいことは教えてくれないような気がするので諦めようとしていた。
「あっ、センパイじゃないですか」
その声に反応した俺は顔を上げて振り向くと、浴衣姿のすらっとした綺麗な女の子が立っていて驚いた。聞き慣れた声だったが、髪型とか雰囲気がいつもと違ったのですぐには分からなかった。
「おう、恵里か、しかし……」
声にはしなかったが、やはり目を惹かれてしまう。
隣りに座っていた白川は少し驚いた表情をして「えっ、だれ?」って顔で見ている。
恵里は更に横に座っている美影達に気が付いて一瞬、不思議そうな表情を浮かべるが、すぐに何かを理解したような顔に変わった。
「この状況は大丈夫なんですか、センパイ……」
そう言うと哀れむような表情で恵里が俺を見るので、隣りにいる白川に誤解されないように言い返そうとした。
「な、なんでだよ……」
途中まで言いかけたが、その後に続く言葉に困ってしまった。ここで美影や絢の名前を出してしまうと隣りにいる白川の耳に入り話がややこしくなってしまう。
俺が迷っている間に恵里は当たり前のような顔をしていつものように話し始める。
「だってセンパイの彼女って……」
「わっ、わっ、わっ、えりぃ――」
思わず大きな声が出てしまい、慌てて俺は恵里の口を押さえようと立ち上がった。その声に美影と絢が気が付き、恵里の口を塞ごうとした俺を見ていた。
「どうしたの?」
絢は驚いた顔をしていたが、美影はすぐに誰が原因か分かったようで呆れたような顔をしていた。
「あぁ、また犯人は枡田さんね……もう仕方ないわね」
「ははは……見つかってしまいましたね」
さすがの恵里もバツの悪そうな顔をして大人しくなってくれた。
美影の恵里に対しての一言で少し安心したが、恵里はあの後に何て言うつもりだったのか、誰の名前を出すつもりだったのか分からずじまいだった。
ほっとしたのも束の間、美影から小言を言われてしまう。
「宮瀬くんも、枡田さんは後輩なんだからビシッと言ったらいいのに……」
「ははは、ごめんね……」
「もう……仕方ないわね、それが宮瀬くんだもんね」
笑って誤魔化していると、美影は絢の方を向いて同意を求めて、絢もクスッと笑いながら頷いていた。大人しくなっていた恵里も同じようにうんうんと頷いていた。
結局、美影の一言で和やかな雰囲気になり一安心することが出来た。その後、状況が飲み込めない絢と白川に恵里のことを話すと中学生の頃を思い出したようで変わり様に少し驚いていた。
俺からすると恵里は昔から全然変わっていないので絢達の反応を不思議に思った。
「恵里はどんだけ外面がいいんだよ……」
「そんなことないですよ、失礼なセンパイですね」
ぺろっと舌を出しながら頬を膨らまして拗ねたような顔をしていたが、いつも恵里に戻っていた。すると背後から恵里を呼ぶ友達の声が聞こえてきた。
「じゃ、先輩達行きますね、おじゃましました」
丁寧にお辞儀をして恵里は友達のところに戻ろうとしていたが、最後に俺に小さく耳打ちをしてくる。
「センパイ、頑張ってね」
そう言って走って行ったが、俺はそのまま立ちすくんでしまい赤面してしまう。耳元とはいえ、間近に恵里の顔が来たので恥ずかしくなってしまった。
その後の美影の視線が痛いような気がした。結局、最後まで恵里に振り回されてしまった。
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