第6話

「トワロ、何処に行くの? 」

「城下町です」

トワロは装備を調えて、外へ出る準備をした。

私も慌てて装備を調える。


「あの、角ウサギの丸焼きの残りも持って行って下さい」

「はい」

私はトワロに言われた通り、角ウサギの丸焼きを大きな葉に包んで、かごに入れた。


「トワロ、これどうするの? 」

「買い取ってもらおうと思いまして」

「買い取る? 」

私はトワロの後について歩いた。

今回は食材探しをしている余裕は無かった。


しばらく歩くと街の入り口についた。

「それでは参りましょう、朝葉様」

「はい、トワロ」

街の中心部に届く大きな道を外れ、薄暗い路地に入った。


「ここです」

トワロは古びた洋館を見上げた。

「ここは? 」

私も一緒に見上げる。

「冒険者の館。冒険者が集う場所です」

トワロはそう言って重そうな扉を開けた。

「へー」

私はトワロの後に付いていった。


「いらっしゃい」

「やあ、シン」

「よお。トワロ、久しぶりじゃ無いか。そちらのお嬢さんは? 」

「朝葉です」


トワロはシンと名乗る30代くらいの男性と親しげに話している。

店の中はお酒くさかった。

冒険者とおぼしき一団が、酒をのみながら大声で何か話している。


「朝葉様、こちらはシン・ロック。この館の主です」

「シンって呼んでくれよ、朝葉」

「はい、分かりました」

私は頷いた。


「ところで、今日は何の用だい? 」

シンがトワロに訊ねると、トワロは私に言った。

「朝葉様、角ウサギの丸焼きを出して頂けますか? 」

「はい、これですか? 」

私はまだ温かい角ウサギの丸焼きを出すと、シンが驚いた。


「なんだ、これは? 」

「角ウサギの丸焼きです」

トワロは顔色を変えずに言った。

「見りゃ分かるけどよお、これをお客に出せとでも言うのか? 」

「はい」

トワロが頷くと、シンは悩んでいた。


「確かに、酒のつまみによい物がほしいと言ったことはあるが」

「食べてみて下さい」

「食べる!? 」

シンが驚いて声を上げた。けれど、その後に一人で納得していた。

「そりゃ、お客に出す前に味見しないといけないな」

シンはそう言ってから、角ウサギの丸焼きの隅を遠慮がちにつまんだ。


「なんだこりゃ!? うまいじゃ無いか!? 」

シンは驚いて声をあげた。

つられて、奥にいた冒険者達がやってきた。

「何ですか、それは? 」

「ウチの新商品だ。 食べてみるか? 」

シンはそう言って、角ウサギを切り分けて皿にのせた。


「一皿1000ギルだ」

「頂きます」

冒険者が一口食べる。

「・・・・・・うまい!?」

「何だ、こっちにもくれよ」

「はいよ」


同じようなやりとりが繰り返され、角ウサギの丸焼きはあっという間に無くなってしまった。「朝葉、これは毎日作れるのか? 」

シンがそろばんをはじき出した。

「はい。角ウサギを捕まえれば作れます」

シンは頷きながら、トワロに言った。

「角ウサギの丸焼きは、一匹3000ギルで買えるか? 」

「4000ギルでどうでしょう」

「・・・・・・買った」


シンとトワロは微笑みあった。

私は自分の作った料理が評価されて嬉しかった。

「あの、スライムのシロップ漬けも作れるんですが」

私がそう言うと、シンは興味深そうに私の話を聞いた。


「ウチの客は多少ゲテモノでも美味けりゃ気にしないからな」

「ゲテモノ・・・・・・」

私は少しショックを受けたが、確かにそう言われてもしょうがないかもしれない。


「また、出来たら持ってきます」

「ああ、よろしくな」

トワロとシンが話し終わると、3000ギルを受け取って、私たちは冒険者の館を出ようとした。

「あ、待った。トワロ、王宮からモンスター退治の依頼が出てるぞ」

「そうなんですか? 」

「ああ、ちょっとやっかいで、マンドラゴラ30匹の集団退治って話だ」

「そうですか」

トワロは眉間に皺を寄せた。


「それでは王宮に顔を出してみます」

「それが良いな」

シンはそれだけ言うと、トワロと私に手を振った。


私は冒険者の館をでるとトワロに聞いた。

「ねえ、マンドラゴラってやっかいなの? 」

「ええ、ある人後からが借りられれば簡単なのですが」

トワロはそう言うと、私に微笑んだ。


「お城に向かいましょうか」

「はい、トワロ」

私たちはお城に向かって歩き出した。

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