第2話
「う~ん」
体がギシギシと痛くて私は目を覚ました。
目を開けて目に入ったのは知らない天井。
あぁ私は果ての塔に投獄されたのですね。
それにしても…。
体が痛くなるまで寝るなんて初めてです!
実家のふわふわベッドと違って硬いベッドでしたが野営をすることに比べたら十分天国です。
えぇ私野営の経験も御座います。
特に結界が弱まった時は3日ほど王都に帰れなかった日もあります。
地面で寝ていたら何時襲撃を受けるか分からないので木の枝の上で寝たのもいい思い出です。
ちなみに結界が弱まっている期間=聖女が姦淫を犯している時間の事です。
本当にあの方は私を過労死させたいんですかね?
しかも3日間の間殆ど結界が機能していないなんて…。
コンジュ様も大概発情サルですがディルバさんも同族と思っても宜しいって事ですよね?
頭の中がスッキリしていますわ。
何時も眠くて靄がかかっていたような状態が今はしません。
まだ太陽の高い時間に自然に目が覚めるなんて何て贅沢。
普段は太陽が昇ったら眠り太陽が沈みだしたら目を覚ます。
そんな生活を送っていたせいで昼の太陽を見るのは本当に久しぶりなんです。
あ、食事が置いてある。
どうやら扉の下に小窓があって食事の出し入れが出来るようになっているみたいですね。
硬い黒いパンにクズ野菜の塩スープにチーズの欠片。
あぁ何と言う事でしょう!
戦っている合間に筋張った干し肉にしゃぶりついていた事を思えば御馳走ではありませんか!
戦って寝て戦ってを繰り返していたので食事を碌にとる時間が無かったので咀嚼しながら魔族滅殺なんていつもの事だったのですの。
パンを手に掴みちぎる事もせず噛みつきます。
あ~久しぶりの炭水化物です!
噛むとライ麦の甘さが口に広がります。
何て美味しい!
チーズもカチカチでしたがのんびり咀嚼に時間を使って良いので問題ないです。
むしろ咀嚼の時間を長く取れるので幸せの時間が長く感じるほどです。
乳製品のまろやかな味わいが舌の上で溶けていくこの幸せ。
塩スープも匙でゆっくりと口に流し込みます。
はぁ、食器を使って食事を摂るなんて贅沢の極みです。
私、現代文明で生きてますわ…。
たっぷり時間をかけて食事を摂り、塔の中を探索することにします。
とは言ってもベッドに机、椅子、小さなタンス。
それ以外はない簡素な部屋です。
一応トイレとお風呂がついていたので安心しました。
天井が高く窓は全て高い位置につけられている上に鉄格子が嵌っています。
私がその気になれば拳1つで壁を破る位簡単に出来るので拘束の意味は無いのですけど。
折角手に入れた安穏な生活を自ら壊そうとは思いません。
それに破壊行為を行わなくても脱出の方法は別にあります。
私は魔石の付いたブレスレットに魔力を流しました。
この魔石にはお母さまが術式を刻んであります。
魔力さえ流せれば自分で使えない魔術も使用できます。
【ゲート】
力ある言葉を発します。
そうすると私の目の前の空間が歪み私の自室の部屋に空間が繋がります。
ひょい、とゲートをくぐって自室へ移動。
見張りに中を伺われる檻タイプの扉じゃなくて良かったです。
「おや、もう起きたのかい?」
「あ、お父様お早うございます」
「早くはないぞ。お前は3日間も眠り続けていたんだからな。だが元気そうで良かった」
そう言ってお父様は私の頭を撫でます。
もう18歳なので子ども扱いは余り嬉しくないのですけど。
子ども扱いするならせめて《武神》の仕事をもっと大きくなってからさせて欲しかったですわ。
18歳になる娘がいるとは信じられないくらい若々しい美貌のお父様。
私の赤い髪はお父様譲りです。
基本優しいお父様ですが自分がお母様とイチャイチャしたいからと物心ついた私を戦場に送ったのは一生許す気はありませんから。
「あら、お寝坊さん。塔の生活はいかがかしら?」
「お母様!」
私たちの声が聞こえたのかお母様が私の部屋に来て下さった。
お母様は私と姉妹と言っても通用しそうなほど若く見えます。
白い髪に赤い瞳の儚い美貌のお母様。
私の瞳の色はお母様譲りです。
それにしてもどちらも赤を引いてくるあたり私は相当赤が好きなのでしょうか?
「私が居ない
「我が家は拒否したよ。大切な1人娘を侮辱した相手を護ってやる義理は無いからね」
ニコリとお父様は微笑みます。
この場にメイドが居なくて良かったです。
お父様に恋慕するメイドが多くてクレーンカ家ではメイドは殆ど雇わず男性の使用人を多く雇ってます。
まぁその男性使用人もお母様か私に懸想するのであまり性別に拘る意味は無いのでしょうけど。
「それは良かったです。お父様もお母様も王命でも拒否しちゃって下さいね。あ、それと私はしばらく塔でバカンスしますので。荷物を取りに来ましたの」
「そう言うだろうと思って貴方の服と本をバッグに詰めといたわ。ゆっくり1人の時間を満喫なさい」
「はい、お母様!」
さすがは母娘、ツーカーと言う奴ですね。
お母様からバッグを受け取って私はゲートをくぐって塔へと戻りました。
さぁ今日は久しぶりに本を読みましょう。
活字を読むなんて何年ぶりでしょう。
まずは子供向けの絵本でも読みましょうか。
バッグからお伽噺の本を取り出して私はベッドに寝転がりました。
昼間から本を読んでも誰にも怒られない。
あぁ何て快適な生活なんでしょうか。
その日私は夕食が届くまでお伽噺の世界に浸っていました。
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