恐怖はかなり膨らむ

幽霊の 正体見たり 枯れ尾花

これは松尾芭蕉の名句である。

 実は、そういう経験は誰しもにあるはずだ。子供の頃、夕方の帰り道、辺りは薄暗い。あれ?あそこの電柱の下に誰かいる。怖いからしばらく観察する。そいつは微動だにしない。もしかして、待ち伏せしてるのではないかと思いさらに数分観察する。やはり微動だにしない。とうとうしびれを切らし恐る恐る、電柱の反対側を通り抜ける。そして振り返ると、そこにはドラム缶の上にじょうろ、こいつの影が人に見えてただけなんだと、ホッと胸を撫で下ろす。

 ある時、母が大切にしていたコップを割ってしまう。ああ、どうしよう。この世の終わりだ。頭が割れるまで叩かれるのだろう。そう思い、秘密にしておく。

 しかし、子供の隠し事なんてアッサリとばれる。ああ、終わったと。思わず身構える。が、思っていたよりは全然怒られない。そんなことが、よくある。

 恐怖とは、壁に映った大きな影にすぎない。そしてその正体は可愛い子猫だったりする。

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