第161話 末森城1

「今すぐ末森城に出陣してください」

真田幸隆が俺に告げた。


「え?」

今すぐ? 人数は大丈夫か?


「信行や林秀貞の与力や兵を呼ぶ間もないぐらい、速攻で信行を下しましょう」

と山本勘助。


「信長様が兵を起こし末森城に進軍した時、柴田勝家が寝返る段取りになっています」

真田幸隆がニヤリと笑って俺に言った。


「柴田勝家が!!!」

信行の最大戦力じゃん。それってもう信行は詰んでるも同じ事だ。流石幸隆、調略にかけて右に出る者はいないな。


「良し、出陣だ。皆に伝えろ、俺は先に行ってるぞ」

小姓達に伝令を指示し俺と帰蝶は城を出る。


俺が城の外でニルを呼ぶとニルとスレイプニル達が空を駆けて来た。


「出陣ですね」

吉乃もユニコーンに乗って来て、城から駆けて来る家臣達を見て俺に確認した。


「敵は末森城だ。地上を進む、付いて来い」

俺はニルに飛び乗り、吉乃と追ってくる家臣達に聞こえる様に言ってゆっくりと進む。


歩兵も追い付ける程度の速度だ。


清洲城下を出る頃には1000人の進軍になっていた。


暫く進むと荒子城の前田利久が900の兵を連れて合流した。


「前田家900! お供致します!」

前田利久が不敵な笑みを浮かべて、馬で駆け寄って来た。その後ろで奥村永福が無言で頭を下げる。


「ご苦労!」

利久の顔色が良い。ゆずの治療により、健康になってきたなぁ。


いくさ日和ですな」

前田慶次は馬に乗り槍を肩に担いでいるが、散歩に行くような表情だ。


「いよいよですかな」

前田利春も槍を担いで、満面の笑みで近付いて来た。


「おお! 利春! 息災か? 随分待たせたな」

利春も一緒か!


俺に初めて臣従してくれた三家の与力。

佐々家の佐々成宗が亡くなり、生駒家の生駒家宗も隠居して。利春も70歳を越えて隠居してたはずだが、俺が立ち上がるのを待ち望んでいたのか。


「はっはっは、家督は利久に譲りましたが、まだまだ腕は鈍っておりませんぞ」

利春がそう言うと、前田家の4人は自分の兵の元に戻って行った。


その後、深田城の青山信昌が300の兵を連れて追い付き、次々と城主達が合流してくる。


「信長様! 佐々家900参りました!」

佐々政次の大声が聞こえて、比良城の佐々政次も合流した。


「うむ。ご苦労。待たせたな、天下布武に邁進するぞ」


「任せてください! 暴れ捲ります」

政次は元気な声で返事をする。


政次も待ち望んでいたのだろう。成宗の葬式で兄弟と泣いて誓ったしなぁ。


小姓として付いて来ている弟の佐々長穐も生き生きとした眼をしていた。



「生駒家900参戦致します」

生駒家長の落ち着いた声がして、小折城の生駒家長も合流。


「おう、良しなに頼むぞ」

流石に家宗は来てないか。勘合貿易の商売で忙しそうだしな。



「加藤家800参上つかまりました」

熱田羽城の加藤順盛も合流し、加藤順盛の声に振り向く。


「おい、勘合貿易の商売は大丈夫か?」


「ははは、心配御無用。部下に任せています。それよりいくさの方が重要でしょう。加藤家を頼りにしてください」


「ははは、その通りだ。良しなに頼むぞ」


「お任せください。商売もいくさも加藤家が信長様のお役にたちます」

と順盛が商売人の笑顔で応える。


末森城に近付く頃には、志賀城主平手政秀の900人、那古野城主織田信光の600人も合流し、立ち所たちどころに6000を超える大軍となっていた。


え! 多くないか? 俺、大丈夫か?


俺の横に三好長政と内藤興盛、小梁川宗朝こやながわむねともが馬に乗り駆け寄って来た。


「指揮を変わりましょう」

内藤興盛が言うと、


「今回は私が………」

三好長政も俺を心配している様だ。


「はっはっは、此度は老い先短い年寄りに譲れ」

小梁川宗朝こやながわむねともが笑っている。


「今回はいくさにはならない予定ですが、何が起こるか分かりませんので、指揮は変わって貰うのが得策です」

と俺の隣を進む山本勘助が、内藤興盛達に聞こえる様に言った。


「うむ。小梁川宗朝こやながわむねともに任せる。良しなに頼むぞ」


「はっはっは、大船に乗ったつもりで、ごゆるりとしてください」

小梁川宗朝こやながわむねともが俺の隣に進むと、内藤興盛と三好政長は後ろに下がった。


さあ、信行! 待ってろよ。

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