怪盗少女♥ステッチちゃん★
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818093090291497496
「たりはーーーっ!」
素早く鋭いステップで幻惑しながら、ステッチちゃんが斬りかかってきました。
逆手に握っていたはずの
「はいっ! はいっ! はいっ! はいっ! はははーーーいっ!」
ステッチちゃんはわたしに突き進んで、激しく突きました。
キンッ! キンッ! キンッ! キンッ! キキキーーーンッ!
五回外れて、ダメージはゼロ。
「え、なんで!? ―― “
光源の加減で、ときおり半透明に浮かび上がる不可視の障壁に切っ先を弾かれて、ステッチちゃんが狼狽しました。
「この “
今やすっかり手に馴染んだ、最高級の魔法の
「なにそれ、そんな戦棍があるの!? ズルい! 凄い! 欲しいっ!」
子供らしい反応が一辺に返ってきました。
「よーし、それも絶対にスナッチしちゃうんだから! いくわよー!」
(だからでしょうか、この子がここまで強いのは?)
わたしは盾とフットワークと魔法の障壁で、ステッチちゃんの猛攻を凌ぎながら、彼女の境遇に思いを馳せました。
「なかなかやるわねー!」
数合の撃ち合いのあと、ステッチちゃんが肩で息をしながら間合いを取りました。
ステータス的には、まだまだ子供なのです。
「いいわ、あなたをあたしをライバルと認めてあげる。怪盗にはそれなりの好敵手が必要だもの」
「光栄です。それでしたら、あなたのことを教えてください」
「あたしのこと?」
「ええ、ライバルとなった以上、お互いによく知っておくべきかと」
「一理あるわね。でもそれなら、まずあなたから話すのが礼儀じゃないの?」
「もっともです――先程も申し上げましたが、わたしの名前はエバ・ライスライト。パーティの仲間五人と共に、この時代を遡ること一〇〇年前の世界からきました」
「一〇〇年前って……」
短剣の切っ先を下げると、ステッチちゃんは子供らしい素直さで、あっという間にわたしの話に聞き入ってしまいました。
そこからわたしの説明ターンが長く続きました。
わたしたちが経験した冒険譚に驚嘆し、瞳を輝かせて先をせがむステッチちゃん。
いつの間にか短剣を鞘に戻して、戦棍の間合いの中に入り込んでいます。
やはり、まだまだ子供なのです。
「――そういうわけで、わたしたちは現在、この “メンフレディのテーマパーク” に来ているというわけです」
「凄い! 凄い! あたしもそんな冒険がしてみたい!」
話が終わると、ステッチちゃんが『大興奮!』といった様子で、その場でピョンピョンと跳びはねました。
「さあ、それではあなたの番ですよ。あなたがどういう人なのか話してください」
「あたし? うん、いいよ。あたしは――」
ステッチちゃんはニコニコと愛らしい笑顔を浮べてわたしを見上げると、
「――隙ありっ! マジカルスナーーーッチ!」
魔法のような早業で、いかにしてか、わたしの腰から雑嚢を抜き去ったのです。
「あっ!!?」
「はーーっ、はっはっ! 油断大敵、大胆不敵! コロッと引っかかったわね、このステッチちゃんの迫真の演技に!」
「返してください! それには大切な物が入っているのです!」
「返せといわれて返す怪盗はいないのよ!」
そしてこれまた魔法のような身ごなしで壁際に走り、割れた二階の窓まで跳躍し、
「それじゃ、バイバイビー!」
最後にスチャッ!と二本指を顔の横にかざして、勝利の笑い声も高らかに遁走してしまいました。
「やられました。まったくもって騙されました。子供の如く素直だったのはわたしの方でした」
(((((そりゃ、そうだ)))))
「雑嚢を取り返さなければなりません。あれには今までに手に入れた
わたしは深刻な表情で皆に告げました。
間の抜けた展開に比して、事態はこれ以上ないほど深刻なのです。
キーアイテムがなければこれから先、探索が続けられないのですから。
「後を追うぞ」
隼人くんが
「なあ、これってもしかして……」
早乙女くんがふと何かに気づいたようでした。
「ええ、迷宮で “ケイドロ” です」
わたしはうなずきます。
“ケイドロ” とは、警官と泥棒の二組に分かれて行なわれる鬼ごっこの一種です。
鬼役警官は逃げる泥棒をつかまえて牢屋に入れるのですが、牢番を置いて見張っていないと仲間の泥棒に助け出されてしまうのです。
「あの子に仲間がいないことを祈りましょう」
“荷物を取り戻したら、また踊りにきておくれ”
“いつまでも待っているわ”
軽やかなワルツに送られて、わたしたちは “祝いと狂乱の夜会” を後にしました。
(今度は “迷宮鬼ごっこ” ――まったくもって退屈しないテーマパークです)
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今年最後の更新となります。
一年間、お読みいただきありがとうございました。
次回は1/5(日)の更新となります。
それでは皆様、よい落としを。
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