黄昏の邂逅
「…………
アッシュロードの口から我知らず、その名が零れた。
玉砂利と踏み石の敷かれた幅狭な通路の先。
その日の命を惜しむように暮れなずむ夕日に照らされて、その男は立っていた。
大時代風の壮麗な宮廷衣装を着た、壮年の男。
衣装同様、白を基調とした
男は波打つ豊かな黒髪の下から、厳しい眼差しを向けていた。
年の頃はアッシュロードと同年代だろうか。
若かりしころはさぞかし美男で、女性に持てはやされただろう。
だが、かつては中性的だったと思われる
それは対照的なふたりの男の
ひとりは純白の豪奢な衣装に身を包んだ、偉丈夫。
ひとりは擦り切れた黒衣をまとった、みすぼらしい男。
偉丈夫は周囲を
もし対峙する男たちを見た人間がいたならば、ふたりのあまりの違いに
片や大貴族。
片やうらぶれた冒険者風の男。
同じ世界に生きながら、こうまで境遇に差があるのだから。
そして次の瞬間、ふたりの姿が瓜二つに映り、我が目を疑って瞬きをするのだ。
それは
(……ソラタカ? ……俺は今、ソラタカと言ったのか?)
アッシュロードは油断なく男を見つめながら、自分が漏らした名を反芻した。
しかし記憶の沼をさらってみても、その名が指先に触れることはない。
そもそもこんな手練れ、一度でも会ったら忘れるはずがない。
そうなのだ。
男は手練れ。
それも一切の隙の無い立ち姿から見て、明らかに
こんな古強者を忘れるほど、アッシュロードはそこまで
「
男の声は尊大ですらなかった。
まるで巨大な氷塊を
向けられた声の底に自分への
敵愾に敵愾で答えれば、それは殺気に変わり、やがて殺意となる。
互いに護身用の
魂が憩い安らぐ墓所で、訳もわからないまま抜き合いになるのは避けるべきだ。
なによりはこの墓地は、アッシュロードにとっても厳粛な場所だった。
意識の奥底で、自分でも理解できない悲痛が告げているのだ。
ここは “あいつ” が眠る場所だ……と。
白と黒の両極端の男たちは、互いに無言ですれ違った。
アッシュロードには予感があった。
この男とは、いずれ決着をつける時がくると。
良い予感は当たらず悪い予感ばかりが当たるのが、アッシュロードの数少ない特技である。
そうであるなら、この予感は現実のものになるだろう。
墓地を離れるアッシュロードの視界の端に、男が
◆◇◆
猫の瞳は迷宮の闇を見通し、猫の鼻は死の臭いを嗅ぎつける。
三角形の小さな耳はどんな些細な異音も聞き逃さず、六本の髭は微細な空気の揺れを察知する。
一列縦隊の先頭を行くドーラ・ドラを見て、
レベル的にはまもなく肩を並べて、忍者以上に斥候に向いた
だからアッシュロードに代わってドーラがパーティに加わったとき、わだかまりを覚えることなく彼女に先頭を任せることができた。
未踏破だった
その心積もりで、“フレンドシップ7” は迷宮を進んでいた。
迷宮の真の闇では猫人の瞳も役に立たないが、まだ鼻と耳と髭がある。
今日の目的を達するには、ドーラの能力を最大限に活用する必要があったのだ。
やがてパーティの行く手に暗黒回廊の入り口、俗称 “漆黒の正方形” が現れた。
全員が立ち止まった。
突入に備えるためではない。
正方形の奥から無数の唸り声が、漏れ響いたからだ。
「――
ドーラが叫んだ直後、暗黒回廊から八本もの炎が伸びた。
暗闇からの
そして誰もが驚愕していた。
“一階に竜息持ちが生息している!?”
――と。
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