パスポート
「まったくあのお方の波動を感じて、すっかり目が覚めちまったぜ!」
カパッと雑嚢の上蓋が開くと中から顔を出したのは……。
「――イェィ、エバ! 久しぶりだな!」
赤と青の派手な模様のケープを羽織った、ノリノリな様子の…… “カエルさん” ……でした。
「「「「「「……え?」」」」」」
わたしだけでなく、パーティの全員が呆気に取られました。
「なんだ、なんだ? 全員そろって間抜け面晒して? ――ははぁ、なるほどな。わかる。分かる。
うんうん、と腕組みをしてうなずく……カエルさん。
「よし、おまえらとは知らない仲じゃねえ。俺が一発、その緊張を解いてやる。さあ、みなさん、御一緒に――イェィ!」
「「「「「「……」」」」」」
「なんだ、なんだ、ノリの悪い奴らだな! ――ほら、イェィ!」
そういって、実にリズミカルに楽しげにフィーバーする、カエルさん。
そのクネクネした動きは、とても魔力で命を吹き込まれた魔導人形とは思えません。
ハッと気がつくと、他のメンバーの視線がすべてわたしに注がれています。
え、えーと……。
こ、これはもしかしてあれですか?
ここでまた “あれ” をやれと言うのですか?
あのわたし的……黒歴史を?
(((((んっ、んっ!)))))
と顎をしゃくられ、もはや無言とはいえない無言の圧力。
(ああ、もう! わかりましたから、そんな目で見ないでください――そ、それじゃ行きますよ~!)
「イ、イェィ!」
わたしはギコチナイ笑顔を顔面に張り付けて、イェィ!
両手の親指を立てて、腰をクネクネ、イェィ!
「お、ノってきたな! さすが俺の見込んだ、エバ・ライスライトだけあるぜ!」
カエルさんは大喜びの大満足といった様子です。
「イェィ!」
「イ、イェィ!」
「「イェィ!」」
しばしの間だ、わたしはカエルさんと “ダンジョンナイト・フィーバー” をしました。
「ひぃ、ふぅ……あ、あの、もうこの辺で」
「おっ、そうか。久しぶりのフィーバーに時が経つのも忘れちまったぜ」
相変わらず腰をクネクネウネウネさせ続ける(このカエルには腰があるのです)、カエルさんです。
「あ、あのカエルさん」
「なんだ、エバ?」
パチパチと指でリズムを取りながら、カエルさんが返事だけします。
相変わらずナウなダンスにトラボルタしていて、顔も向けてくれません。
「この絵は本当に……」
「ああ、俺のご主人の絵だぜ。こんな強い魔力を持ってるお方は、あの人以外にはいねえよ。なにしろ残留魔力が強すぎて、俺の
「…………やっぱり」
わたしは口の中で小さく呟きました。
「ああ、しかもコイツはただの絵じゃない」
「え?」
「当たり前じゃないか。俺のスイッチが誤作動で入っちまうくらいなんだぞ。この絵も求めてるのさ。“
「そ、そのキーアイテムってのは何なのさ!?」
パーシャが喰い付くように訊ねました。
「さあ、そこまでは分からねーな。でも、この迷宮のどっかにはあるんだろうよ。そーでなきゃ、誰もこの先に進めねーだろ? キーアイテムが必要ってことは、誰かには入ってきてほしいってことなんだからよ」
「「「「「「……」」」」」」
カエルさんの言葉に、全員が黙り込みます。
「それにしてもまったく凄い波動だぜ。こいつは久しぶりに充電率100%まで行くな。しばらくスリープしなくてもいいかもしれないぜ、こいつは」
カエルさんは上機嫌で呵々大笑すると、
「――よし、それじゃ行くか!」
と、パンと手を叩きました。
「へっ? 行くってどこにです?」
「あ? このチェックポイントを通過するための、キーアイテムを探しに決まってるじゃねーか」
「そ、それはわかるのですが……もしかしてカエルさん、あなたも一緒に?」
「あたぼうよ。今の俺様はサンダーボルトにバリバリだからな! 大船に乗ったつもりでいろよ、“フレンドシップ7”!」
「「「「「「……」」」」」」
パーティの全員が目配せを交わし、わたしはカエルさんの背中に手を伸ばしました。
(ええと、確かこの辺りに……)
「うわ、なにをする! やめろ――!」
ピッ、
ヒュ~ンンン……。
「おやすみなさい、カエルさん」
「やれやれ、とんだお客さんだぜ」
「でも、おかげでおおよその筋道は立ったよ」
「ああ」
「……
「あそこしかないわね」
「蜘蛛の巣の扉ですね」
わたしから、ジグさん、パーシャ、レットさん、カドモフさん、フェルさん、そして再びわたし。
紡がれた言葉は、パーティの意思の疎通が確かな証拠です。
「よし、戻るぞ」
レットさんの表情に再び気力が満ち、わたしたちも力強く頷きます。
「……せっかく気合いが入ったところに水を差すようで悪いんじゃが」
いきなり、またしても腰の辺りで響く声。
「……わしのスイッチも切ってくれるとありがたい、クマ」
視線を落とすと、雑嚢の中から気まずそうな顔で “
・
・
・
熊さんのスイッチを切って再び
長い回廊を黙々と戻り……やがて、
積年の蜘蛛の巣と埃にまみれた、開かずの扉。
(……今度も、鬼が出るか蛇が出るかですね)
ジグさんが扉を調べ、何の気配をもないことを確認すると、わたしたちは武器を手に一気に突入しました。
そして扉の奥で待ち受けていたものは、今度も鬼でもなければ、まして蛇などでもなく……。
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