ヴァルト獣公のお相手

Side・真子


 大和君と結婚した翌朝、本殿4階にある寝室で、私は裸で目を覚ました。

 ゆっくり体を起こして周囲を見ると、そこには20人近い人数が私と同じく裸で寝ている。

 この寝室のベッド、とんでもなく大きいから、あと10人ぐらいは余裕で寝れるのが凄いわ。

 40平米ぐらいは確実にあるわね。


 それにしても、昨夜は大変だったわ……。

 今までもそうだったんだけど、昨夜は正式に結婚したって事で、大和君の奥さんと婚約者、さらには妾扱いとなってる人達まで全員集まって、その全員に可愛がられたんだから。

 お祝いだからって言って、ヒルデ様にフラム、リディア、さらにはアプリコット様が執拗に攻め立ててくるもんだから、何度か気を失っちゃった気もする。

 気持ち良かったけどさ……。


「うん……あ、真子さん。おはようございます」

「おはよう、ミーナ」


 最初に起きたのは、私の隣で寝ていたミーナか。

 いえ、バトラーの姿が見えないから、とっくに起きて仕事してるんでしょうね。

 それにしても、いつ見ても凄い惨状だわ。

 ベッド、と言っていいのか分からないけど、シーツは中途半端に乾いてるし、あちこちに染みが出来てるし。

 奏上魔法デヴォートマジッククリーニングを使えば綺麗になるけど、そうじゃなかったら洗濯だけでも多大な苦労をしそうだわ。


「体は大丈夫ですか?」

「何とかね。妖族は性欲が強いって聞いてるし、実際にこの身でも味わったけど、昨夜はさらに凄かったから大変だったけど」

「真子さんが結婚された事で、妻の枠は全て埋まりましたからね。妾枠は何とも言えませんが、大和さんの性格からすると、こちらもそうそう増えるとは思えませんし」


 それが理由だったのか。

 確かに私は、大和君と婚約したのは一番最後になるけど、結婚して妻となったのは9人目。

 まあその理由も、ユーリ様、アテナ、アリアがまだ未成年だからっていう理由だから、最後って思っててもいいでしょう。

 妾はバトラーにアプリコット様ぐらいだけど、リカ様のお母様エリザベート様も加わる可能性があるのよね。


「妾で思い出したけど、今日ってヴァルトに行くのよね?」

「はい。ネージュ陛下の件で、伺う事になっています」

「ネージュ陛下がどうかされたのですか?」

「あ、ヒルデ様。おはようございます」


 ネージュ陛下の件でヴァルトに行くっていう話をしたタイミングで、ヒルデ様も目を覚ました。

 私とヒルデ様の間には大和君が寝てるけど、まだ起きてくる気配が無いわね。


「おはようございます。それで、ネージュ陛下がどうかされたのですか?」

「いえ、今日はヴァルトに行きますから、そのお話です」

「ああ、なるほど」


 ヴァルト獣公国はプリムの従姉ネージュ・オーブ・ヴァルト獣公陛下が収めている小国で、旧バリエンテ連合王国の西の王爵領に旧ハイドランシア公爵領、ガグン大森林周辺地域を加えている。

 ガグン大森林は扶桑という樹木の森だし、ガグン迷宮もあるから資源は豊富にあるんだけど、そのガグン大森林には終焉種ハヌマーンが生息しているから、調査はガグン迷宮付近までしかされていない。

 ヴァルトには、他にも鉱山がいくつかあるわね。

 反面森は少ないから、木材は輸入に頼ってるそうだけど。


 そのヴァルトを治めるネージュ陛下の要件は、後継ぎとなる子供をどうするかという事。

 ネージュ陛下は未だ独身だけど、ヴァルト獣公国を存続させるためには子供を産まなければならない。

 婚約者はいたそうだけど、バリエンテの内乱で処罰されたそうだし、ネージュ陛下も気乗りしない相手だったそうだから、未だに結婚の話は出ていない。

 だからというワケじゃないけど、ネージュ陛下が目を付けたのは大和君だったりする。

 従妹のプリムは大和君の初妻だし、トラレンシア女王にアミスターの王女にして天爵も嫁いでいるから、っていう理由もあるみたいね。

 ただそんな人達がいるからか、ネージュ陛下は大和君と結婚するつもりはないそうなのよ。


「結局陛下のお相手は見つけられなかったし、プリムは歓迎してるみたいだから、ネージュ陛下も大和君の妾って事になるのよね?」

「そうなりますね」


 地球なら外聞が悪いどころの話じゃないけど、ヘリオスオーブだと全く問題にならないのよね。

 男女比が大きいし、なのに男性の死亡率は高いからシングル・マザーになる人は多いし、王族や貴族であっても珍しくない。

 だからネージュ陛下がシングル・マザーになっても、子供を産みさえすればそれで解決なのよ。


「問題はゲート・ストーンをどうするかですね。ネージュ陛下は遠慮されているそうですが、大和様としては設置するべきだとお考えでしょう」

「ですね。まあ、そこは2人に任せましょう」

「そうですね」


 ゲート・ストーンをどうするかは、私達が考える問題じゃないわよね。


「ではわたくしはお風呂に入ってから、デセオに向かいます。同行出来ないのは残念ですが、どうなったかはお教えくださいね」

「もちろんです。あ、私もご一緒しますね」


 ヒルデ様はデセオ、リカ様はメモリア、そしてユーリ様はフィールから離れられないから、残念だけどヴァルトには同行出来ない。

 今回はフラムも、プラダ村に行く予定だったわね。

 出来ればみんなで行きたかったけど、お仕事なんだから仕方ないわ。


 気分を変えるために、私とミーナもヒルデ様と一緒に本殿最上階にあるお風呂に入る事にした。

 最上階への階段は寝室に備え付けらえてるから、いつでも入れる。

 あ、日ノ本屋敷のお風呂は、全て微量のカルシウムとナトリウム、マグネシウムが含まれているから、温泉と言っても良いぐらいの泉質なの。

 ヘリオスオーブでもユカリさんが試行錯誤を繰り返し、サユリ様が完成させた温泉の素が出回っている。

 温泉の素って医薬部外品だから、ユカリさんは本当に苦労したそうだし、サユリ様がヘリオスオーブに転移した際に持ってた温泉の素を分析したりして完成したって聞いてるわ。


 その天守露天浴場に、私とヒルデ様、ミーナの3人は裸のままで向かった。

 寝室内に階段があるし、奏上魔法デヴォートマジックウォッシングがあるからタオルもいらない。

 石鹸やシャンプーは備え付けだから、本当に手ぶらで入れるのよ。

 まあ簡単に入れるせいで、行為の最中に移動して温泉で続きを、なんて事もよくあるらしいけどね。


Side・プリム


 あたしは朝に弱いから、起きるのはいつも一番遅い。

 今朝もそうで、起きたらベッドで寝てるのはあたしだけだった。

 それでも何人かは微睡んでたりするから、あたしだけ寝てるっていう状況は一度もない。

 その後でみんなでお風呂に入って、仕事に向かうっていうのがいつもの光景ね。

 あたし達の今日の予定は、フラムはプラダ村に行くけど、他のみんなはヴァルト獣公国行きね。


「ヴァルトか。気が重いな……」

「大和にとってはね。あたしにとっては久しぶりだし、嬉しいけど」


 大和の気が重い理由は、ヴァルトを治める獣公ネージュ姉様に会う事。

 ネージュ姉様はあたしの従姉だから、それだけなら大和も問題なかったと思う。

 だけど今回ヴァルトに行く理由は、ネージュ姉様のお相手に関してだから、大和にとっては大変な話なのよ。


「ネージュ陛下のお相手、結局見つからなかったからな。いや、何人かいたけど、断ったって話じゃなかったか?」

「みたいね」


 お金や権力目当てのバカも何人かいたそうだけど、そういった連中も含めてネージュ姉様は全て断ったらしいわ。

 初代ヴァルト獣公がシングル・マザーでお相手が貴族っていうのは問題だけど、その貴族は客人まれびとで初代フレイドランシア天爵でもあるから、まだマシって考えてるみたいね。

 あと大和が、あたしの夫だからっていう理由もあるわ。


「だけど今のヴァルトは、跡取りが誰もいない状況だから、ネージュ姉様に万が一の事があったら、あたしが王位を継ぐ事になる。諦めてとしか言えないわよ」


 フレイドランシア天爵夫人っていう肩書を持つあたしだけど、実はヴァルトの公位継承権を押し付けられていたりする。

 理由はネージュ姉様には兄弟姉妹はおらず、親戚も従妹のあたししかいないから。

 だからネージュ姉様は、必ず子供を産まなければいけないの。

 なのに相手も決まってないどころか断ってばかりで、そのくせ23歳だから、下手したらあたしの子がヴァルトを治める、なんていう未来もあり得てしまう。

 さすがにそれは問題でしかないから、姉様には何としても子を産んでもらわないといけないのよ。


「ネージュ陛下の寝室にも、ゲート・ストーンを設置するんですよね?」

「そうするしかないだろう。毎晩ヴァルトに行くのもどうかと思うし、それでみんなの事を疎かにする訳にはいかないからな」


 ゲート・ストーンが無かったら、たとえトラベリングを使っても公都となったオヴェストには入れないし、毎晩ネージュ姉様の所に行かれたら、あたし達が困るから当然ね。

 着工が早かった事もあって、ヴァルト城は夏頃には完成予定。

 それまでは今の屋敷に設置するけど、ヴァルト城が完成したらそっちに移設する事になる。

 ネージュ姉様にもその事は伝えてあるんだけど、あまり乗り気じゃなかった。

 姉様曰く、他国を差し置いてヴァルトにだけゲート・ストーンを設置するのが問題みたいね。

 とはいえ、他の国には設置する予定も理由もないし、トラレンシアでさえヒルデ姉様の退位と同時に撤去が決まってるから、そこは気にしないでほしいわ。

 ネージュ姉様が退位してからどうするかは、まだ決めてないけどね。


「いつまでここにいても仕方ないし、ひとっ風呂浴びて飯にするか」

「そうですね」


 確かにね。

 だけど大和には悪いけど、あたしはネージュ姉様がここに来るのが楽しみなのよ。

 母様も同じらしいから、2人でたっぷりと可愛がってあげようかなって思ってるわ。

 母様にとっては可愛い姪だから、気合入ってるのよね。


 さて、それじゃああたしもお風呂を浴びて、ご飯を食べて、少し食休みを挟んでからヴァルトに行きましょうか。

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