披露宴へのリクエスト
レシオンでオーシャンハウル・グランドを含むレオ種を討伐した翌日、俺達は再び天樹城に足を運んだ。
理由は、延び延びになっている結婚披露宴の打ち合わせのためだ。
だから俺の嫁さんや婚約者はもちろん、ウイング・クレスト全員がやって来ている。
さらにサヤさんがグランド・オーダーズマスターに嫁いだって事も考慮して、サヤさんが所属していたリリー・ウィッシュの現リーダーで新婚のアイゼンさんとヴォルフさんも主役として招待が決まっているから、この場に呼び付けられていたりもする。
「開催は2週間後で決定として、内容は変更無しで良いんですか?」
「ええ。アルカで行えるだけで、十分な持て成しが出来るから」
「だよね。特に湯殿は、各国の王も絶対に気に入るよ」
真子さんが張り切って進行役なんてやってるが、昨夜初めて抱かせて頂いた事が影響してるんだろうな。
さすがに初めてだったとは思わなかったが。
それはそれとして、当初の予定通り、結婚披露宴はアルカで開かれる事になっている。
招待客は身内のみならず、各国の王も名を連ねているんだが、多くの人が宿泊も希望していたりする。
アルカに泊った事のあるハンターやオーダー、セイバーにソルジャーはそこそこいるから、そこから話を聞いて、興味を持ってるみたいだ。
特に湯殿は、身分に関係なく女性が興味津々らしい。
客殿は本殿の東と西に1棟ずつあるし、部屋数もあるから、宿泊には問題ない。
ただ客間は和洋折衷のごく普通の部屋だったから、西の客殿 小峰殿は、王族が宿泊しても問題ないように改装を行っている。
最初はクラフターズギルドに依頼しようかと思ってたんだが、ホムンクルスのコンルを筆頭に、エド、マリーナ、フィーナ、フィアナがやる気だったから任せたんだよ。
金に糸目を付けずに出来たって事で、内装はかなり豪華になっているが。
「調理師や給仕はフロートで雇うというお話ですが、そちらはどうなっているんですか?」
「延期になってしまった事で違約金や依頼料の割増になってるけど、それ以外は予定通りの人員よ」
エリス妃殿下が答えてくれるが、やっぱり違約金は発生していたか。
調理師はクラフターズギルドに、給仕はバトラーズギルドに、披露宴の前日から翌日までの3日間という事で派遣依頼を出していた。
だがレティセンシアが派兵してきたせいで披露宴は延期となり、依頼した調理師や給仕はその3日間の仕事が無くなってしまった。
クラフターズギルドもバトラーズギルドも事情は理解してくれているが、調理師や給仕にも生活があるし、しかもほとんど直前だったから、契約不履行って事で違約金が発生するのは仕方ない話だ。
さらに次回も延期になる可能性がゼロじゃないって事で、依頼料が2割増しになったらしいが、これも仕方ない気がする。
「違約金は仕方ないにしても、依頼料の割増もか。いえ、直前でキャンセルしちゃったんだから、これも当然か」
「ええ。今回はやむにやまれぬ事情だったけど、だからといって例外扱いにしてしまうと、ギルドの運営にも支障が出るかもしれない。だから依頼料割増も仕方ないわね」
信用問題だからな。
「では調理師も給仕も問題無しですね。会場の方は、ウイング・クレストが契約しているバトラーとホムンクルスが頑張って用意してくれていますから、こちらも大きな問題はありません」
「それが一番安心出来るよ。人員を手配できても会場が用意できませんでした、なんて、それこそ信用問題だからね」
マルカ妃殿下の言う通り、会場が用意できてなかったら人の手配ができても何の意味も無い。
アルカは天空島だから、レティセンシアが何をしてきても被害が出ないのは大きいな。
まあ、その代わり要人の参加者が多いから、何か問題が起きたらすぐに中止になる可能性もあるんだが。
「主役はライに大和君、レックス、エド、ルーカス、ダート、アイゼン、ヴォルフで変更ないんだよね?」
「そちらも変更はないですね。ああ、近日中に私も大和君と儀式を行いますし、エドワード君もカメリアの誕生日に儀式を行うと言っていましたから、その点が変更点でしょうか」
「へえ、ついになんだね」
「おめでとう、真子」
「ありがとうございます」
うん、そうなりました。
昨夜の寝室で何を思ったのかは知らないが、真子さんは数日中に俺と正式に結婚の儀式を行う予定だ。
最初こそ俺と2人でだったんだが、一度終わってからはみんなに可愛がってもらってたし、真子さんも恐る恐るではあるがみんなに手を出してたから、それで吹っ切れたんだろう。
さらにエドも、いつの間にかカメリアと婚約していて、カメリアが17歳の誕生日を迎えると同時に結婚する事になっている。
都合が良いのか悪いのか、カメリアの誕生日は6月に入ってすぐだから、俺もエドも予定より奥さんが1人増えるな。
「大和君とエドに奥さんが増えるのはともかく、今度は延期にならないようにしないとね」
「そうね。とはいえ、こればっかりはレティセンシア次第だから、絶対とは言えないわ」
マルカ妃殿下とエリス妃殿下の言うように、披露宴が延期になるかどうかはレティセンシア次第と言っても過言じゃない。
だからまた延期になる可能性はゼロじゃないんだが、俺はその可能性は低いと思っている。
「それは大丈夫じゃない?レティセンシア国内はボロボロで多くの町や村が滅んだみたいだし、コバルディアでさえも半壊。魔族の動きは気になるけど、異常種や災害種の相手で手一杯でしょうから、アミスターやヴァーゲンバッハに手を出してくる余裕なんてないわよ」
マナの意見に、俺も全面的に同意だ。
予想でしかないが、レティセンシア国内の町や村はほとんど全滅していて、コバルディアを含む一部ぐらいしか無事な所は無いだろう。
多かれ少なかれ被害は受けてるだろうから、無事とは言えないか。
さらに魔族の問題もあるが、こっちもコバルディアを襲った災害種フラッド・クレインの相手で数を減らしているだろうし、他にもいる可能性があるんだから、臆病な皇王が魔族を自分の近くから動かすとも思えない。
懸念事項はアバリシアからの援軍だが、そっちも今のところは無さげだし、今後も無いんじゃないかと思う。
「あたしも同感。マナが気にしてる魔族は、コバルディアが災害種に襲われたから、皇王が絶対に動かさないでしょ」
「あたしもプリムさんの言う通りだと思うな。災害種を倒せる魔族をコバルディアから動かしたら、その時点でレティセンシアの滅亡が決まるしね」
プリムとマルカ妃殿下も同じ意見か。
まあ分かりやすい理由だし、予想も簡単に出来るよな。
「それでも警戒は疎かに出来ないわよ。まあ、私もその通りだと思うけど」
「ですね。っと、それはそれとして、参列者も変更無しですか?」
「ええ、こちらも変更は無いわ」
エリス妃殿下と真子さんが話を打ち切り、参列者の話になった。
こっちもこっちで大変なんだよな。
身内を除いた参列者は各国の王と護衛が数名だが、グランド・マスターもそこに加わっている。
しかも現グランド・トレーダーズマスター クリノスさんはグランド・スカラーズマスターに就任する事も決まっているから、次期グランド・トレーダーズマスターも招待予定だったりする。
さらにアミスターのテュルキス公爵家とモントシュタイン公爵家にも声を掛けているから、友人枠で呼ぶハンターやオーダー、クラフターが恐縮しないかが不安で仕方がない。
というかアイゼンさんとヴォルフさんの奥さんは、普通に市井の人だから、話を聞いて倒れそうになったとかって聞いてるんだよな。
「という事は、人数は300人程で変わりないですね。護衛の数とかは聞いてますか?」
「10人ずつぐらいな。ただ親族のトラレンシアとリヒトシュテルンはともかく、他の国も家族を連れて行きたいっていう話が多くてね。延期になった事もあって、尚更その声が大きくなったのよ」
なんてエリス妃殿下が口にするが、マジですか?
「ええ。特にバレンティアがね」
ああ、なるほど。
バレンティア竜王であるフォリアス陛下には、2人の兄がいる。
1人はグランド・ドラグナーズマスターに就任したハルート卿で、もう1人は
元々ウロボロス家は伯爵家だったんだが、ブリッツ殿下が婿入りし、さらにバレンティア東部の貴族に処罰を科すに伴い、正式に公爵に叙爵され、旧ニズヘーグ公爵領を拝領している。
今回の披露宴には、フォリアス陛下とハルート卿は招待するが、ブリッツ公爵は招待しない事になっていた。
だがフォリアス陛下とハルート卿から、ブリッツ公爵も招待してもらいたいと嘆願が届いているらしい。
兄弟仲は良いからっていう理由もあるだろうが、ブリッツ公爵は
俺としてはソルプレッサ迷宮には何度も足を運ぶつもりでいるから、ブリッツ公爵を招待するのは吝かじゃないんだが、そうしてしまうと他国の貴族はどうなのかという問題が出てきてしまう。
「そこは申し訳ないけど、フォリアス陛下のご家族として参加してもらうしかないわね」
「そうね。元々の予定より大幅に大きく開催する事になってるから、あまり貴族は呼びたくないのよ」
「キリもないし、そうでしょうね。実際トラレンシアやリヒトシュテルンだって、親族以外は招待してないものね」
だけどエリス妃殿下は、マナとプリムの懸念を予想していたようだ。
テュルキス公爵とモントシュタイン公爵は元々招待する予定だったからともかく、他の貴族は親族以外はフィールの領代を務めていたトゥルマリナ伯爵家とアーキライト子爵家しか招待していない。
一応理由も公表してるから、アミスターじゃその程度で文句を言ってくる貴族はいないんだが、まさか他国から言われるとは思わなかった。
ブリッツ公爵の事は俺も知ってたから、フォリアス陛下に身内として参加してはどうかっていう感じで勧めたんだが、正式な招待って訳じゃないから、そこをどうにかしたいって事なんだろうか?
「多分、大和君の考えてる通りよ。戴冠式の後で披露宴は行ってるから、普通ならそれで十分なんだけど、やっぱりアルカに行ってみたいって思ってるんでしょうね」
「あー、なるほどね。まあ、今回は縁が無かったって事で」
真子さんに同意だ。
希望者を招待し続けてたら、マジでフィリアス大陸の全ての貴族を招待しなきゃならなくなっちまう。
どれぐらいの数になるかは分からんが、確実に1,000人は超えるだろうから、いくら何でも対応しきれねえよ。
それに俺達に不満を抱いてる貴族もいるだろうから、そいつらは何があっても招待するつもりはないしな。
「では参列者も、特に大きな変更は無しという事で」
「ええ。それから大和君」
「はい?」
「出来ればで良いんだけど、参列者の多くがMARSに興味を持っているの。まだ未完成だって聞いてるけど、少しだけでも使う事は出来ない?」
あー、MARSに興味を持たれてるのか。
だけど安全に魔物との戦闘訓練を積むことが出来るし、調査も出来るから、興味が沸くのは当然か。
「可能っちゃ可能ですけど、戦闘用の幻影は出せませんよ?」
出せない訳じゃないが、そっちはまだ身に着けるオーバーコート型の魔導具が完成してないからな。
「それは大丈夫よ。お歴々の方々が興味あるのは、高ランクモンスターなの。安全に魔物を見る機会なんて、普通はあり得ないから」
なるほど、それなら問題ないな。
まあ安全にとは言っても攻撃態勢ぐらいは取るから、幻影と分かっててもビビるだろうが。
「という問題がありますが、それは大丈夫なんですか?」
「距離は取ってもらうし、何よりご本人達の希望だから大丈夫でしょう」
それしかないか。
研究用は攻撃態勢を取らないように調整してるが、試行錯誤してる途中だから披露宴までに間に合うかは微妙だな。
それでもお偉いさん方の希望だから、頑張って調整してみよう。
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